第五話:もう掛かってきたのかよ……
おいおい。もう掛かってきたのかよ……。
確かにもう放課後だし、中学校も授業は終わってるだろうけど……。
学校では普通に授業を終えて、放課後。
今日は誰も誘いに来たりってのはなかったんだけど、多分その理由はこの、詩音からの電話だな。
まだ家に帰る途中だったけど、引っ張っても何か変わるわけでもないか。
俺は軽く深呼吸して、少しだけ心を落ち着けると、携帯電話を手にし電話を受けた。
「もしもし。朝倉です」
『あの、葛城ですけど。翔先輩の電話で合ってますか?』
「ああ。っていうか、この間登録した連絡先から掛けたんじゃないのか?」
『あ、えっと、そうなんですけど。その、違う人が出たら、どうしようかなって……』
電話越しに聞こえる、おずおずとした声。
なんか、ちょっと男っぽい詩音らしからぬしおらしさだな。
「おいおい。自分で登録したんだから信じろって。こうやって電話も掛かったんだし」
『……くすっ。そうっすね』
何処かほっとしたような声。
まったく。心配し過ぎだろって。
「それより、明日はどこにするか決めたのか?」
『それなんですけど。ショッピングモールに十二時に集合でいいっすか?』
「ああ。わかった」
『ちなみに……その、申し訳ないんですけど、お店は一緒に決めてもらえないですか?』
「ん? まあいいけど。決められなかったのか?」
『あ、いえ。ただ、先輩の好みの食べ物とか、全然知らないなって気づいて……』
へー。
ゲームじゃ何気に家庭的、みたいな設定はあったけど、こういう気遣いが得意な描写はなかったからちょっと新鮮だな。
まあ、電話イベントって大抵掛かってきて場所決めてお終いって感じだから、こうやって話すっての自体がもう予想外なんだけど。
『あの、ダメっすか?』
っと。すっかり返事を忘れてた。
「いや、構わないけど。ただ、どうせ俺はどの店行ったって、自分の食べられそうな物しか頼まないから。あまり深く考え過ぎなくっていいぞ」
『それでも、お詫びの時くらい、ちゃんとしたいんで』
うーん。まあ出会いイベントの事もあるし、こうなると譲ってくれなさそうだな。
まあ、詩音が気を遣ってくれてるなら、お言葉に甘えるか。
「まあ、そういうならそれでいいけど。じゃあ明日十二時にショッピングモールだな」
『はい。よろしくお願いします』
「わかった。それじゃあまたな」
『はい。失礼します』
通話を終え、俺は携帯電話を制服のポケットに仕舞うと、ふぅっと胸を撫で下ろす。
やっぱり電話ひとつでも、アドリブで話さないといけなかったり、予想外の話が出たりするからどうしても緊張はするな。
デートに慣れるって目的は、早速渚で慣らされ始めてるし、少しは大丈夫かもしれないけど、人が変わればまた色々違うかもしれないしな。
経験しておくに越した事はない、って割り切らないとな。本当は避けたいけど……。
明日の詩音とのデートが、どんな展開を見せるのか。
それを考えてまた気持ちが少し重くなるけれど、今考えてどうにかなるもんじゃないしと、頭を振って不安を払った俺は、そのまま家に帰るとささっとやる事をやって、明日に備えて眠りに就いたんだ。
◆ ◇ ◆
……流石に、余計な事はしない方がいいよな?
俺は土曜日になった朝、いつものように本なんかが並ぶ机の上を眺めた。
一応キュンメモでは、その日にデートが入っていても、別の行動を取る事ができる。
その場合、別の行動を取ったという事でデートをすっぽかした扱いになり、ヒロインに怒られる留守電が残り好感度ダウン、となるんだけど。
なまじリアルになったから、何かを選びつつデートにも行けそうなんだよな……。
まあでも、ステータスを下げたいって考えるなら、ここは素直にデートだけ考えた方がいいか。
確か、キュンメモのゲーム内で残されるヒロイン達の留守電内容も、なかな心に刺さる言葉が多かった気がするし。
触らぬ神に何とやらだ。
あと、今日も眼鏡に前髪で顔が隠れる、昔の俺スタイルで出かける事にした。
沙友理と渚、綾乃までもがこれが良いって言うなら、どうせ他のヒロインも変わらないだろ。
こうやって本来の俺が都合よくヒロイン達の好みに収まってる事を考えると、この世界って俺向きに作られてるように感じて仕方ないんだけど……まあ、今はそれはいいか。
問題は服だけど。
外見がこれでも問題ないとすれば、よっぽど奇抜だったり、それこそ変質者じみた格好でもしない限り、好感度が下がりはしなそうか。
一応クローゼットやタンスを見ると、ジャケットやスラックス、デニムジーンズなんかも種類はあるし、夏服冬服も整ってる辺り、何気にちゃんと物が揃ってはいるけど……ここは先週同様、無難にまとめておこう。
俺は適当にインナー、ジャケット、スラックスを見繕うと、少し早めに家を出て、適当に散歩しながら時間を潰す事にした。
◆ ◇ ◆
流石に早々誰かとの別の出会いは起こらないか。
数時間後。
待ち合わせまであと十五分はあったけど、俺は一足早くショッピングモールの入り口に立ち、詩音を待つ事にした。
見慣れてきた快晴の空を眺めつつ、少しフラフラとしてみたものの、流石にヒロイン達と遭遇する事はなかった。
まあ、これだけ普通に人がいる中で、ヒロインはたった五人。
強制的にイベントを起こしたりしなければ、普通は早々会えなさそうだよな。
デートの場所や日時を指定するのは、思いのほか大変……って、そういえば。
ゲームじゃカレンダーっぽい画面でスケジュール管理ができたけど、今の所それらしい物がないな。
一応生徒手帳にもカレンダーはあって、行事なんかは書かれてるけど、何かを書き込むのは不便。
こっちからデートに誘うかはわからないけど、ヒロイン達の誘いを断らないなら、手帳のひとつくらい買って、ちゃんと忘れないように管理するか。
折角の学生生活なのに、社会人生活で染みついた発想に至ってるのは、何とも皮肉めいた感じだけど……。
そういやここって、本屋はないのか?
手帳ならそういう場所で買えるはずだけど……。
待ち合わせ場所すぐにある、施設の案内板に目を向ける。
えっと……あ、二階に本屋がありそうだな。
じゃあ、詩音とのデートを終わらせたら、ついでに寄って帰るか。
……ん?
そういやこのゲームのデートって、どういう段取りになるんだ?
ふと心に過った疑問。
それはこの世界のデートが、世間一般のデートと同じかどうかって事だった。
残念ながらリアルでデートした経験なんてないけど、漫画やドラマなんかで内容くらいは知っている。
普通のデートと言えば、ご飯食べたり遊んだり、観光したり買い物したり。そういう色々な事を同じ日でするイメージがある。
だけど、キュンメモのゲーム内じゃ違う。
デートは基本、何処かの施設を遊んで終わり。派生して別の場所に行くなんて演出はない。
このゲームジャンルの派生で出た、同じMONAMIが出した『ラブダブルプラス』だと、午前、昼、午後と半日をしっかりデートするように変わったけど、あれは育成シミュレーションってより恋愛シミュレーションだもんな。
ちなみに、勿論キュンメモも嫌いじゃないけど、俺が一番好きなギャルゲーは、何気にそっちだったりする。
一人のヒロインと一途に恋人として付き合って、リアルのカレンダーに連動して三百六十五日を堪能できるってシステムも良かったけど、何よりあれの先輩キャラ、
何気に今までやったギャルゲーのキャラで、奈々さんが一番好きだったんだよね。
どうせだったら、あっちの世界が良かったなぁ。
そうだったら、もっと気合いを入れていた可能性は──ん?
ふっと思い浮かんだある疑問。
それに釣られ、思考が止まったのとほぼ同時に。
「先輩、早いっすね」
そんな詩音の声が背中から届いたんだ。
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