第二話:少々、問題ですね

「……その、少々、問題ですね」

「え? そ、そうなんですか!?」


 少し困った顔の沙友理。これは本気で言葉通りなのかも。

 そう気付いた瞬間、自分の中にある期待が芽生える。

 これ、もしかして好感度下げられるんじゃないかって。


 当面、沙友理に関係するステータスで上げる方向で考えてたけど、この髪型が問題なら都合がいい。他のキャラのステータスを上げる方向にシフトして、指摘されてもずっと髪型を変えなければ──。


「あ、いえ。その、風紀的にというのではなく……」


 ……え?

 期待を一瞬で打ち砕く一言に、俺は思わず目を丸くする。

 風紀的に問題じゃないなら、一体何が問題だっていうんだ?


「じゃあ、何が……」


 少し目を泳がせ落ち着かない沙友理に、思わずそう尋ねると。


「あの……あまりに翔君に似合いすぎていたもので。その……わたくしが見惚れてしまい、風紀委員の仕事を忘れてしまいそうでして……。そ、それは、流石に問題ではないかと……」

 

 なんていう突拍子もない台詞を口にし、俯き顔を真っ赤にする。


 ……って、おーい。

 流石にそれはおかしくないか!?

 こういうセンスに疎い俺でも、前の外見のほうが絶対いいってわかる。

 いや、好みの問題って話はあるかもしれないけど、ゲーム内じゃこういう外見が好き、とかはないわけで。


 ……ん? もしかして。

 語られていないけど、彼女は根っから真面目なタイプ。だからこそ、真面目そうなこっちが好みって事か?


「えっと、その。前の外見と、どちらがいいですか?」

「それは……その、今の方が……素敵です……」


 ……上目遣いのまま、消え去りそうな声で、そんな恥ずかしそうに言わないでほしかった。

 しかもちょっと目を潤ませてるし……。何か俺まで急に心臓がバクバクしてきたじゃないか。

 こ、ここはさっさと退散するに限るな。


「じゃ、じゃあ、問題ないなら先に行きますね」

「あ……はい。呼び止めてしまい、失礼致しました」


 ちらりと見せた残念そうな表情に、少し罪悪感があったものの。

 一応この状況は彼女にとって委員会活動中。雑談をするべき時タイミングじゃない。

 っていうか、そんな言い訳をしてでも、俺はこの場を離れたかった。

 ただただ恥ずかしすぎて。


 ペコっと頭を下げた沙友理に頭を下げると、俺は彼女を避け校門から中に入っていく。

 周囲はやっぱり、俺達二人の会話なんて気にも留めてない。

 このゲーム的な感じには、本気で感謝だな。


 でも、この外見で沙友理の好感度を下げるのは難しそうだな。

 まあ、こればかりは仕方ない。

 流石に他のヒロインが俺のこの外見が好みなんていい出しはしないだろうし、とりあえずはこのまま予定通り、沙友理メインでいって他のヒロインの好感度を下げる方向でいくか。


 その時、俺はまだそんな作戦を考えていたんだけど。

 やっぱり、このゲームは何かフラグが変なんじゃないか? と、この先でそう思わされた。


   ◆  ◇  ◆


 その違和感を感じたのは、帰宅時のイベントだ。


 クラスメイトでもある綾乃の反応が見れるかと考えていたけれど、今日の彼女は終始女友達と一緒で、俺に話しかける暇はなく、一切接触もないまま学校での生活は過ぎていき。


 放課後。

 帰宅の準備をする俺をちらりと見た綾乃は、すぐに女子達に囲まれ、仲良く教室を出ていったんだけど、それと入れ替わるように、


「やっほー! 翔っち! やっと見つけたー」


 教室に元気よく入ってきたのは、俺が一番避けたかった相手、渚だった。


 ただ、俺はこの髪型と眼鏡。

 こういう容姿はギャルが一番敬遠する陰キャな外見だからこそ、速攻でこっちに嫌悪感を示す。そう踏んでいたんだ。


 だけどその予想は、開幕から大きく覆された。


「あれー? 翔っち。その眼鏡とかどうしたの?」

「あ、うん。イメチェンしてみたんだけど」

「へー。もしかしてー、あたしに知的なとこ、見せようとしたとか?」

「……へ? 知的?」

「うん。でもー、正直こないだの髪型より、こっちのほうが翔っちらしいよねー」

「俺、らしい……」

「うん! こんな翔っちと帰れるなんて、超アガるっしょ!」


 嬉々としてそんな事を言ってくる渚。

 絶対こんな事を言わないと思ってたのにこの評価。

 しかも、オーラって言ってこない。つまり、これが彼女の好みって事か?


 ……いや。内心信じられない。

 いや、陰キャに優しいギャル云々って話がまったくないとは言わないけど。

 流石に都合良すぎとしか思えない。


「あの、本気で言ってる? からかってない?」

「は? 何でからかう必要あるわけー? 本気で超イケてるに決まってるじゃん!」


 俺の前に立ち、はにかみながらウィンクして見せる彼女の頬が少し赤い。

 からかうなら、こんな反応にはならないよな……。


「それよりー、今日は一緒に帰るよね? 折角イメチェンしたんだしー、プリとか撮ろ?」

「え? 一緒に帰るの?」

「当たり前っしょ? この可愛い渚ちゃんが迎えに来たんだよー? 断るなんてありえないっしょ! ほら、行こ行こ?」

「ちょ、ちょっと! わ、わかったから! 無理に引っ張るなって!」


 こっちが鞄に教科書とかを仕舞い終えたのを見計らい、彼女はこの間同様に俺の腕をぎゅっと引っ張って、無理矢理移動を開始する。


 っていうか、ここで選択肢的な間はないのかよ!?

 強制連行って、リアルのギャルゲーって本気でヤバすぎないか!?


 こうなった渚が止まらないのは前回も経験済み。

 正直気持ちがっかりしながらも、俺は彼女に従い、放課後一緒にプリを撮影する羽目になったんだ。

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