第二章:この世界観も色々おかしい

第一話:全員出したのはいいけれど

 とりあえず、出せるキャラを全員出したのはいいけれど、ここからが大変だよなぁ……。

 家に帰り、一通りの事を終え、布団に入って横になりながら、俺は明日からの事を考え始めていた。


 正直色々おかしくなっているから、ゲーム通り考えても意味がないかも知れない。

 けど、どうにも大人になると、やっぱり万が一とか、知ってることが大事、なんて考えちゃうんだよ。


 色々開発とかやってると、ちょっとした失敗とか考慮漏れが色々致命傷になる。

 だからこそ、ちゃんと仕様とか考えてテストとかもしなきゃいけないし、リハーサルまでしっかりやってリリースしないといけない──って。

 ふと思考が現実リアルに返ってたけど、今はそういうのを考える時間じゃないだろ。


 さて、明日からの俺が望む事。それは、好感度を上げ過ぎないって事。

 というか、どちらかというと、上がりすぎている好感度をある程度下げたいって思ってる。


 理由は単純で、ステータスも好感度も見えない中で、好感度管理ができるとも思えない事。そして、あんな美少女達とずっと一緒なんて、気持ちに余裕が持てなさそうって事だ。

 最初の野望である、平々凡々、大人しく暮らせれば御の字だし、ヒロイン達の姿も見れたからもう満足だしさ。


 でも、わがままなのはわかってるけど、意図して好感度を下げるのに、嫌われる選択肢を選ぶような事はなるべくしたくない。

 そもそも自分の口で傷つけることを言わなきゃいけないのは、自分は絶対したくない。だって、自分が言われる側だったら嫌だろ? そんなのは。


 でも、だったらどう下げるか……。

 好感度を直で下げるのは厳しいとすれば……ステータスか。

 ステータスを下げる方法は幾つかあるけど……あー、あの手だったらヒロインの好感度を絞れる可能性があるか。

 その場合、誰の好感度を残すか、も考えないとか……。


 あとは……そういえば。

 休日なんかは顕著だったけど、俺はゲームと違って多少は自由に行動できるよな。と考えれば、そういう方向でステータスを下げられないか?


 色々と考えている内に、何時ものように眠気が襲ってくる。

 これからどうなるのか心配も多いけど、まったり生活するためにも、頑張ってみるとするか……。


   ◆  ◇  ◆


 翌朝。

 予定通り、今週のステータス強化の選択は理系。というか、当面これだけを上げることに決めた。


 このゲーム、選択の結果上がるメインステータス以外は、少しながら他のステータスを下げる処理もある。

 まあ四つを均等に上げる分には一週ずつ違う選択をしていればそれでもじわじわ全主要ステータスを上げられるんだけど、俺は敢えてそれを逆手に取ってみることにしたんだ。


 理系を上げ続ければ、他の文系、体育、雑学は少しずつ下がっていく。

 そうすれば沙友理以外の好感度は、一定のステータス減に釣られて下がるはずだ。

 このやり方ですぐに効果が出るかは怪しいけど、何事もやってみないとわからないしな。


 ちなみにこの方法を取る場合、綾乃は絶対に好感度を維持できないけど、じゃあ他のキャラの誰を残すかを考えた時、俺が選んだのは沙友理だった。


 勿論他のキャラも可愛いし魅力もある。

 けど、まず渚の積極性は俺に合わないし、エリーナは大人しすぎだからそれはそれで困る。


 となると残るのは、詩音と沙友理なんだけど……まあ、その……ちょっと、もう一度くらい、沙友理のメイド服を見れたらなぁ……ってのが理由。

 ま、まあ颯斗の妹と色々と交流するってのは、ゲームだとそれほど意識しなくって済むんだけど、リアルだとどう颯斗が言ってくるかわからないってのもあるし。

 そういう理由もちゃんと考えてたんだ。本当だぞ?


 ちなみに、渚が対応する雑学ステータス。

 これはもう少し早く下げられないか。そう思って今の俺はひとつ試していることがある。

 それは、今日の俺はになっているってこと。

 伸びた前髪をそのまま下ろして眼鏡をした、恐ろしく冴えない自分。


 何でこんな事をしたか。

 これこそステータス下げじゃないかって思ったんだ。


 昨日、渚は俺を見て格好いいと言っていた。

 でもそれは、俺がそれなりに外見に気を遣っていたから。って事は、ダサい格好になったら、流石にオーラがあるなんて言われず、雑学ステータスも下がるんじゃって考えたんだ。

 まあ、ダサいとみんなに言われるのは辛いけど、好感度を下げるためだし、相手に酷いことを口にするよりはよっぽどマシだからな。


 って事で、今は朝の通学中。

 さて、今日は何かイベントが起こるんだろうか?

 そんな事を考えながら歩いていたんだけど、通学中は運良く? ヒロイン達との遭遇はなかった。


 ということは……やっぱり。

 学校の校門が見えてきた頃、校門の前に門番のように立っている二人の生徒。

 腕章を見ればわかる。あれは風紀委員。そして、その内の一人は沙友理だった。


 ……って、あれ?

 自分が高校生だった時って、風紀委員とかがこうやって待っている展開ってなかったんだけど、今の俺の髪型って、微妙に風紀を乱してるとか言われるんだろうか?

 ちょっと目にかかるくらい長いってのもあるし。

 そうだとすれば、それはそれで好感度に影響してくるかも──。


「そこの方。止まりなさい」


 校門の前まで来た所で、凛とした声に呼び止められる。

 やっぱり俺担当は沙友理。もう一人の風紀委員も、他の生徒もこっちを気にする素振りはない。


 って、そういやこのタイミングで俺はどう呼ばれるんだ?

 髪型の件もあって、少し緊張した面持ちで沙友理が俺の前に来るのを待つと、彼女はこっちの前まで来た瞬間、急に顔を耳元に寄せ。


「おはようございます。翔君」


 と、周囲に聞かれないように、恥ずかしそうに囁いた。

 瞬間、ぞくぞくっとした俺は、一気に顔を赤くする。


 ……うっわー。こういうの、破壊力ありすぎだろって……。

 生声をこうやって聞かされるのもヤバイけど、それが恥ずかしそうってのがマジでやばい。


 ちなみに、ゲーム内じゃ普通に挨拶をされるだけの登校イベント。だからこそ、完全に不意を突かれてしまった。

 ほんと、このキュンメモの世界、本気で恐ろしいぜ……。


 すっと背筋を正した後、眼鏡を直し、ごまかすようにコホンと咳払いをした沙友理。

 真面目な表情になった割に、ちらちらとこっちを確認し顔を赤くしてるのも、またちょっと可愛いな……。


「あ、えっと、おはようございます。沙友理先輩」


 何とか気を取り直し、ペコっと頭を下げると、沙友理もまた普段通りに戻り、落ち着いた普段の彼女らしさを見せながら俺に話しかけてきた。


「ひとつ、お聞かせいただきたいのですが」

「は、はい」

「その髪型と眼鏡は、先日と随分様変わりなされておりますが、一体どうなされたのですか?」

「あ、えっと。すいません。ちょっとイメチェンしたくって……」

「ああ。そうだったのですか」

「あの、風紀的に、問題ありましたか?」


 一応それっぽい理由をおずおずと口にして、そう確認みたけど。

 この髪型、風紀委員的にはどう映るんだ?

 俺は少し緊張しながら、彼女の反応を待ったんだ。

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