【12話】妖術師ルナローネの魔道書
「——申し訳ない。サベナト殿。敵の実力を見誤っておりました」
影から現れたのは灰色のフードで顔を隠した怪しげな女。死んだ男が助けを求めていた「ルナローネ」は、この女で間違いない。
悪びれもせず、死んだ男に頭を下げる。仲間が死んだのに恐怖の色は顔に浮かんでいない。
ゾンビを召喚し、操っている
「——貴様は何だ?」
ベアトリアは再び同じ質問をする。
「名乗るほどの者ではございません。その男に雇われていた妖術師です。貴方と比べれば、私如き小さな杖に過ぎません」
「燃やし尽くせ——
ベアトリアに躊躇はない。質問に答える意思がないと判断するや否や、魔術攻撃をしかけた。
掌から放たれた炎弾はルナローネの身体に直撃した。
超高温の火炎は一撃で人命を奪える威力だった。
「普通、攻撃します? それにしても練度の高い魔術師ですね。貴方。これほどの切り札を抱えているとは⋯⋯。見くびっていましたよ。オールドマン男爵の戦力を」
炎に包まれている。だが、ルナローネは笑う。
「並みの使い手なら死んでいました。次はこちらからから行きましょう。その素晴らしいゴーレム、お借りしますよ」
ルナローネは古びた魔道書を掲げ、呪文を唱えた。
「血に酔い痴れ、呪いを孕め——
ゾンビを薙ぎ倒したゴーレムの周囲に血が集まり始める。
螺旋状の渦を描き、ゴーレムのボディに穢れた屍血が入り込む。
「むむっ⋯⋯。支配権を奪えませんか⋯⋯。本当に強力な魔術師ですね。お名前をお聞きしたいのですが?」
「貴様は少し面倒だな⋯⋯。その魔道書からは嫌な気配を感じる」
「名乗られないのですかぁ? 名前を教えていただければ、こちらも自己紹介してさしあげますよ?」
「時間の無駄だ」
ゾンビを薙ぎ倒した巨碗のゴーレムが血液で縛られている。
赤竜ベアトリアの本気を僕は知らない。だけど、そこら辺にいる死霊術師よりは強いはずだ。
(これってどうなんだろう。自警団の村人は魔術防壁にいるから安全として、問題なのはストロマ村だ。あっちを襲撃して人質を取られると厄介かな)
たとえば「村にいる子供を殺されたくなければ、仲間同士で殺し合え」とか、そういう命令を強要されたりすると困る。
実際に人質がいないブラフだとしても混乱の元だ。
(村人の不安を煽られると不味い。そうなる前に⋯⋯)
ベアトリアが構築した魔術防壁は村人達の生命線。
防壁が突破されたり、村人が外に出てしまう事態に陥ったら、辛い状況に立たされる。
「父さん、母さん。大丈夫?」
戦力は3人。ベアトリアはまず問題ない。父さんと母さんは対抗できるのか分からない。
どこまで戦えるだろうか。
相手は死霊術を操るウィザード。戦闘の全てをベアトリアに任せるのも選択肢だ。
「どうしたらいいかな? 父さん」
「ゴーレムに倒されたゾンビが復活してる。リビングデッドだ。操ってる死霊術師を倒すか、聖職者に浄化してもらないと殺しきれない。そうじゃなきゃ、火で骨まで燃やし尽くすかだ。俺だと手が回らない」
父さんは母さんを見る。母さんはギャリーを引き留めていた。
「ギャリーさん。下がってください。相手は魔術師。手を出すのは危険です。戦いに巻き込まれてしまいます」
「しかし⋯⋯!」
母さんの意見に僕も賛成だ。
あのベアトリアがルナローネを警戒している。敵の力を侮らないほうがいい。
「燃やし尽くせ——
ベアトリアは再び魔炎を発生させる。
今度は攻撃対象が広範囲だ。業火の津波は樹木を一瞬で消し炭にする。
「大外れです。私の本体がどこかに隠れていると? 私はここにちゃんといます」
ルナローネは炎の海で涼しげな顔を作る。攻撃の範囲外にいる僕らですら、反射してきた熱気で火傷しそうなのにちっともダメージを負っていない。
攻撃に巻き込まれたゾンビが炭化している。
相当な火力が出ているのに、なぜあのネクロマンサーは無傷なんだろう。
「⋯⋯⋯⋯」
ベアトリアは無言で敵を睨む。
見えている敵の姿は幻覚で、本体は遠くにいる。その可能性は最初に考える。
これだけ広範囲を攻撃して本体に擦りもしないなどありえるだろうか? もっと遠くにいる? そんな感じはしない。
「根源より生まれ出でよ——
「基礎術式がお好きですね。火遊びの次は水遊び? ゴーレムの支配権奪取には失敗しましたが、こんなのはどうです」
ルナローネの持つ魔道書に紫の光が宿る。
「屍肉を喰らい、我が求めに応じよ——
ゾンビを媒介に召喚されたのは、アンデッド系の怪物だった。
数は7体。血塗ろの長剣を構え、僕らに殺意を向けている。
実体がないようにも見えた。姿がぼやけている。
(何だろ。あれ。霊体なのかな⋯⋯?)
魔物に近しい見た目だけど、魔物を支配する方法は存在しないと聞く。だとするなら、きっとあれらは精霊の一種になるだろう。
「死霊術師の相手は私が引き受けてやろう。死霊どもを魔術防壁に近付かせるな。敵の狙いは魔術防壁を破壊し、村の連中をこちらの足枷とすることだろう」
ベアトリアの読みは正しい。
守らなきゃいけない人間が多すぎる。自警団の村人はこの戦いで役に立たない。
「ベアトリアさん! 頼む! 情けないが貴方に頼むしかない! 何とかあの女を倒してほしい。ストロマ村の人々を守ってくれ!!」
ギャリーは領主オールドマン男爵の顔で請願する。だが、それに対するベアトリアの反応は冷ややかだった。
「村の連中はどうでもいい。自分の身は自分で守れ。だが、あの女は殺してやる」
村人は守らない。だが敵を殺すと宣言するベアトリア。
言葉に詰まるギャリー。さすがの僕も擁護できない。
魔術で生成した大量の水を従え、凍てついた殺気をルナローネに向ける。
「自信家ですね。私を殺す? 今のところ貴方の攻撃は1回も当たっていません。この先もそうです。攻撃は絶対にあたりませんよ」
「魔力を
ほんの一瞬、ルナローネの表情が固まった。
「私から逃げようとしているのだろう。判断は間違っていない。私には敵わぬ。ならば、逃走は当然の選択肢だ。村人どもを守るように仕向け、その隙に姿を消す。そんなところか? ——不可能だ」
「言い切りますね。
「魔術防壁を突破されればそうなろうだろう。しかし、それがどうした? 村人どもの命はこの際どうでもいい。小事だ」
「——いやいや、どうでもよくないよ。大事だよ! 守ってあげて!」
相手を騙すためのブラフと信じたかった。でも、本気でそう言っている気がしたので、ベアトリアに強く言っておく。
「慌てるな。ルーファは守る。他の者はどうでも良いというだけだ。問題なかろう?」
「大問題だよ!」
「ここにいる全員を殺すことになろうとも、ルーファには傷1つ負わせぬ。安心してほしい」
最高の笑顔が僕にだけ向けられる。
背後から村人達からの冷たい視線⋯⋯が刺さっている気がする。
「安心って⋯⋯。僕だけ守られても困るんだけど⋯⋯」
そんなことを堂々と公言されるのはもっと困る。
このドラゴン⋯⋯やっぱり悪いドラゴンなのでは?
「血肉を喰らい、邪気の衣を纏え——
間隙を突くルナローネの魔術発動。しかし、呪文の宣言は最後まで行われなかった。
母さんが槍を投擲した。
スローライフで腕が鈍ったと自嘲するが、猪を一撃で昇天させる槍使いの攻撃だ。
素人では絶対に躱せない。
「へえ。躱すのね。私の槍は当たると不味かったかしら?」
ルナローネは上半身を仰け反らせ、投擲された槍を避けた。
先ほどまでベアトリアの魔炎を平然と受けていたくせにだ。
「攻撃する瞬間は干渉できる。そういう仕組みっぽいな。それと召喚した
2体の
芋虫の如くのたうち回っている。父さんが首を刎ねると動かなくなった。
「ぐぅ⋯⋯!」
ルナローネは僕を睨む。余裕の表情は消えていた。
「可愛い顔してやりますね⋯⋯!! 貴方も⋯⋯!」
太腿に突き刺さったクロスボウの矢。鏃に返しを付けているので、引き抜くのにも苦労するだろう。
僕に驚愕の視線を向けるのは、味方のベアトリアとギャリーも同じだった。
「ルーファ⋯⋯。お前⋯⋯何を⋯⋯?」
「上手でしょ。父さんより当てるのはクロスボウの扱いは得意だ。兎と違って的が大きくて助かるよ」
「撃ったのか?」
ベアトリアと言い合ってる最中、僕は目視確認を経ずに矢を発射した。
父さんと母さんの奇襲に合わせた連携攻撃だ。
「森番の仕事だよ。森を荒らし回る人を退治するのはさ」
僕はクロスボウに矢を装填する。
「ルナローネだっけ? その鏃には毒を塗ってある。教えてあげるよ」
ルナローネの右脚、太腿の大腿動脈を狙って僕は矢を発射した。動かず棒立ちの的だ。狙い通りの急所に突き刺さった。
母さんの槍を避けるので精一杯だったに違いない。
それとも僕が攻撃してくるとは思いもしなかったのか。いずれにせよ、敵の動きは止めた。
「痛ぅ! ううぅ⋯⋯! これは麻痺毒ですか⋯⋯」
「うん。正解。治癒魔術を使わないのかな? 早くしないと舌が回らなくなるよ。魔術師さん」
「⋯⋯治癒魔術で解毒している間、攻撃してこないのであれば使ってあげますよ」
「魔術式を発動する間は実体化する。見立て通りかな? だったら、毒矢の治療をするとき、実体化するわけだ。その瞬間に攻撃すれば倒せるね。魔術式を使わないなら、毒で動けなくなるまで待つ」
相手の選択肢を1つずつ削る。
こちらには格上の魔術師であるベアトリアがいる。焦りは不要だ。
ルナローネは足に深手を負った。機動力が削がれた状態で、魔術を使えば袋叩きにできる。
敵戦力は
「ルーファ⋯⋯」
ベアトリアは目を細めて僕に怪訝な顔を向ける。
「ベアトリアの方法だと森が荒廃しそうだからさ。山林の木々も含め、オールドマン男爵の資産だ。うちの貧乏領主様がこれ以上資産を減らしたら可哀想だ。森の資源を守るのは、森番の仕事だからね」
既に材木になりそうな木が数十本も燃えてしまった。
目の前に領主様がいるのだ。与えられた仕事はこなさないといけない。
「その水で、どう戦うつもりだったの?」
「水を強酸性の溶解液に形質変化させ、奴を溶かすつもりだった」
「大規模に被害でる?」
「⋯⋯それなりに」
「それが実行されなくてよかったよ。預かっている山林が禿げ山になったら父さんが免職になるもん」
「事情は把握した。最小限の被害で攻撃してやる」
「配慮。痛み入るよ」
クロスボウの標準をルナローネの心臓に向ける。
「それで、降参する? そのほうが楽だから僕はいいなぁ。アンクハースト辺境伯の悪行を証言するのなら終身刑くらいにはなるかもよ。どうかな? ギャリーさん」
「⋯⋯あ、ああ! ネクロマンサーよ! 素直に投降し、罪を認めるのならオールドマン男爵は寛大な処置を約束するだろう。アンクハースト辺境伯の蛮行を公の場で証言してくれるのであれば、命は保障しよう」
「——馬鹿げた取引だな。殺すべきだ。あの女は害悪にしかならぬぞ」
ベアトリアの殺意は確固たるものだった。
ギャリーは口を挟まないでほしそうだった。しかし、今回ばかりはベアトリアが正しかった。
ルナローネの眼から闘志は失せていない。
絶体絶命の危機にあるというのに、まだ諦めていない獣の瞳だった。
「——その通り、勝ち誇るのは早計ですねぇ!」
狙いは母さんだ。槍を投擲して非武装状態にある。しかし、考え無しに武器を投げ捨てる槍使いはいない。
「
母さんの槍は1日に7回、手元に戻る魔術式が刻まれた魔槍だ。起動語を唱えれば所有者の元へ飛んでくる。
母さんは木の幹を蹴り、軽快な足さばきで敵を翻弄する。
「幾千幾万の大盾よ、戦鎚を防ぐ城壁となれ——
ルナローネに斬りかかろうとした父さんの攻撃は防壁魔術で防がれた。
僕はクロスボウのトリガーを引かない。僕の隣にいるベアトリアは攻撃を放とうとしていたからだ。このタイミングでは邪魔になるだけ。様子を見守る。
生成した水を酸性に形質変化。人体どころか鋼鉄をも瞬時に溶解させる強酸の一撃。
水は形を持たないが、大質量を爆速で衝突させれば、その破壊力は甚大だ。
「巻き込まれたくなければ下がっていろ。防壁ごと押し潰す」
父さんと母さんは警告される前に退いていた。凄まじい魔力量だ。
ドラゴンという上位種の中でも、これだけ高密度の魔力を捻出できるのは一握りな気がする。
魔術防壁の軋む音。守りの限界が近いと悟ったルナローネは、次の防御陣を展開しようとした。
ルナローネは防戦一方。たった1人で戦っているのだ。奮闘と言ってあげるべきかもしれない。
「大地は聳立し、我が身を囲え——
「チッ! よりにもよって!」
それまで一度も焦りの顔を見せなかったベアトリアは目を見開き、即時に妨害を行った。僕しか気付いていなかったけど、ほんの一瞬だけ竜眼が露わとなった。
「万象を統べる法則は汝を縛る——
隆起しかけた大地が押し戻される。実力を隠していたと思われるベアトリアが魔力を全開していた。
「くぅううっ! なんだ! そのふざけた魔力量!! くそくそっ!
魔術防壁の内側にいるルナローネは叫んだ。
おそらくは時間稼ぎ。防壁が維持できる間に毒をの治療を行うつもりだ。
「
ルナローネは最大出力で魔術防壁をもう一枚構築する。だが、強酸の水撃は容易に二重の守りを突破した。
物理的な壁となった
2人はともに魔術師。だが、実力に天と地の差がある。本気を出せばベアトリアはルナローネを瞬殺していたに違いない。
(
ルナローネは実力のある魔術師だ。人道を踏み外しているが、一流の死霊術師だったはず。人体の霊体化はきっと高度な業だ。
凡庸な魔術師が至れる領域にはない。
「くっ!! こうなったら⋯⋯!
掲げた錠前は逃走用の
事前に封殺を予告された逃げの一手。ベアトリアの言がブラフだった可能性に賭けたのだろう。
「高密度の魔力で囲われているのだぞ。私が込めた魔力を上回れないのならば遮断効により、
「ああ⋯⋯。そうですか。ご丁寧にありがとう! それならば奥の手! より高次の霊域に昇ってやる! この肉体を完全に捨てれば良いだけのこと! 尸解奥義——
「霊体化は無駄だ。万物溶解液を錬成した。貴様を取り囲んだ溶解液は霊子さえも分解する。深層異空域の魔犬を殺せる数少ない手段だ。貴様如きの霊体化など意味を成さぬ」
ベアトリアは森の木々を巻き込まないようにしてくれている。
渦状にルナローネを取り囲んだ万物溶解液は肉を溶かし、骨を削り、魂を消滅させる。
「くそっ! ——何なんだよ。お前は!! 聞いてない! お前みたいな奴がいるなんて聞いてない!!」
最期の瞬間、ルナローネは憎悪を込めて叫んだ。
圧倒的な力で蹂躙するはずが、遥か格上の魔術師が現れ、叩き潰されたのだ。
恨み言くらい叫きたくなる。
常に態度を取り繕っていたが、ルナローネは焦っていたいし、内心は荒立っていたみたいだ。
極悪非道な妖術師だったから同情はしない。
厄介な相手だった。なにせ物理攻撃が一切効かないのだ。それをベアトリアは有無を言わせず叩き潰してしまった。
「ベアトリアさん⋯⋯。貴方は何者なんだ?」
ギャリーの疑問は至極全うだ。僕だって正体を知らなければ問い詰める。
これほどの力を持つ大魔術師だ。無名なわけがない。
国王がオールドマン男爵を心配して派遣した宮廷魔術師と名乗っても信じてくれるだろう。
「ルーファの婚約者だ」
想定の斜め上を行く回答。ベアトリアは僕の肩を強引に抱き寄せて宣言する。ギャリーはそういうことを聞きたかったわけじゃないと思う。
「——来月、ルーファと結婚する」
周囲の視線が僕に集まる。
僕が何も言い返せない状況を利用して、ベアトリアは宣言をしてしまった。もう敷かれた道を進むしかない。
かくしてアンクハースト辺境伯の仕組んだ襲撃計画はベアトリアの活躍で防がれた。
僕ら森番の一家に対する村人達の評価も変わりそうだ。
父さんと母さん、そして僕は村人達の前で勇敢に戦ったのだ。
あの戦いぶりを見れば、今までのように蔑ろにされることもない。と願ってる。
(まあ、父さんと母さんは気にしてないだろうけね。賞賛がほしければ、こんな田舎でスローライフなんかしてないだろうしさ)
周囲の安全を確認し、ベアトリアは魔術防壁を解除した。
「敵は殲滅した。自警団を村に帰してやれ」
「ありがとう。ベアトリアさん。貴方がいなければ恐ろしいことになっていた。アンクハースト辺境伯め。クズとは思っていたが、あんな危険な妖術師を送り込んでくるなんて」
ルナローネの死骸は骨片すら残っていない。万物溶解液で消滅してまっていた。
装備していた
「⋯⋯⋯⋯」
僕は魔道書らしき古びた本を見つけた。禍々しい気配を放っている。
この本がここに落ちているのは、万物溶解液で溶けなかったからだ。
(ベアトリアは〈深層異空域の魔犬〉さえも万物溶解液なら殺せると言っていた。魔犬が何なのか僕は知らない。だけど、きっとどんな生物でも溶かしてしまう液体なんだ。なのに、この本はまったく傷んでいない。不気味だ)
異様だった。ルナローネが為す術なく溶けてしまったのだ。
防ぐ手段は皆無。なのに、当たり前のように魔道書は残っていた。
(不用意に触れないほうがいいかな⋯⋯)
ルナローネが最期に唱えた〈尸解奥義——
発動する瞬間、この魔道書に膨大な魔力を注いでいた。
「ルーファ。魔道書に触れてないだろうな?」
「うん。危なそうだからね。ベアトリアはこれが何なのか分かる?」
「分からぬ。だが、アーティファクトだな」
「アーティファクト?
「
「使い手を選ぶ⋯⋯」
「アーティファクトは宝具とも呼ぶ。万物溶解液に耐える防御結界。この魔道書を造った者の技量は、至高の域に達している。造ろうとは欠片も思わぬが、私では一生を費やしてもこの魔道書は生み出せぬ」
「これ。どうすればいいかな?」
「破壊耐性があるのなら、とりあえず封じてしまえば⋯⋯」
ベアトリアが封印魔術を使おうと魔力を向けた瞬間、魔道書は発火した。
万物溶解液に耐えたアーティファクトは、あっけなく灰となった。
「所有者が死んでから一定時間が経つと自壊する魔術式か。手の込んだ仕掛けだ」
僕は一抹の不安を覚えた。
所有者の死後、自動的に魔道書は破壊された。ルナローネ本人が施した魔術式だろうか?
その可能性は低い。だが、仮に本人だったとしても魔道書を破壊した意味だ。
(仲間がいるのかもしれない。あるいは組織に所属していた⋯⋯? 情報を隠滅する理由はそれしかない。ルナローネが一匹狼だったなら、自分の死後に魔道書を破壊する仕組みは施さない)
危険な魔道書がこの世から消えたのは喜ばしい。だけど、仲間がいる可能性は高い。
アンクハースト辺境伯あたりが首魁だったなら問題ない。
(問題となるのはアンクハースト辺境伯が何も知らなかった場合。あのルナローネは雇われただけで、他に別組織が⋯⋯)
死人に口なし。敵に生存者や遺留品があれば、もっと情報が得られたかもしれない。
「⋯⋯これで一件落着だと良いんだけどね」
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