第8話

 「なんで、あなたが泣いてるの?」


 「いや、つい。ごめん」と言って、僕は涙を腕で拭った。


 「なんか、優しいね」


 「それは、だって守護霊だし。私は、マリナを守ってあげたかった」


 あずさは悲しげな表情で、奥の方に歩き出した。そしてすぐ立ち止まって、目の前にあるブランコを見つめた。


 「これ、彼女がよく乗っていたの。家族と一緒に」


 孤独な遊具はギー、ギーと風に揺られて音を立てていた。そんなわけないけど、僕には一瞬だけこれが誰かを待っているように見えた。誰かというのは、きっとマリナという子なのだろか。


 この公園は、マリナが家族と、もしくは一人でも毎日のように来ていたらしい。そのたびに、彼女はこのブランコと遊んでいたのだ。


 「でも、もう少しで彼女の未練も晴らせる」彼女は夕日の空を見上げてこう言った。

 

 あずさはマリナが、町の人たちを同じ目に合わせれば安心して成仏できると本気で考えていた。この考えに、もし僕が今まで普通に生きていたら大いに賛同していただろう。実際、マリナの憎しみは計り知れないと思う。


 ただ、僕の考えは少し違った。


 「それ、ちょっと違うと思う」


 「へっ?」


 「多分、そんなことしても、その子はきっと不幸なままだよ」


 「なんで? あなた話聞いてたでしょ? 彼女は今もこの町にずっととらわれてるの。きっとこの町に対する憎しみが消えてない。だから、一刻も早く彼女を助けてあげないと・・・・・・あなたにはわからないでしょう? 彼女が、どんなにつらい思いをしたか」


 彼女は勢いよく僕に迫ってきた。これまで《部外者》の僕には見せてこなかった敵意を、今初めて向けられた気がする。ただ、僕はそれに動じなかった。


 「わかるよ。僕も、小学生の時、いじめられたから」


 「あなたが?」


 「うん。君が言ってる子ほどじゃないけど、少なくとも、僕は学校ではいつも無視されてた。まるで、いない人みたいに。そんな扱いを受けて、つらかった。やり返したかった」


 「・・・・・・」


 「けど、あの時僕が一番思ってたこと、それは、誰かと、仲良くしたい。普通に、学校を楽しみたい。それだけだった」


 「普通に、楽しみたい?」


 「うん。でも、中学にはいって友達ができて、高校に入ってかずのりとともやに出会って、本当に僕は救われた」


 「多分、その子もそうなんじゃないかな」


 僕は夕日を見つめていった。




 

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