第12話

 葵さんが家を出てしばらくして、私も家を出た。出てしまえば、葵さんに迷惑をかけてしまうかもしれない。でも、実際にこの目で見ておかないと納得出来ない私がいた。だから、パジャマにサンダル姿で夜の街を走っている。そもそも葵さんがどこに行ったか分からない、と気がついたのは出発したすぐ後のことだった。葵さんが住むマンションのロビーを出た辺りで私は立ち往生して、それからはたと気がついた。


「マジカルカードのGPS機能!!」


 マジカルカードには、紛失時にどこにあるのかを把握できるシステムがある。スマホのアプリでカードが存在する位置を確認できる。そして、私のカードは葵さんが持ったままだ。これなら葵さんがどこにいるのか分かる。アプリの現在地情報が指し示すのは、有海公園。ここから徒歩で20分ほどの場所にある公園だ。それから、私は脇目も振らずに走っている。街灯の少ない道は真っ暗で、何か恐ろしいものが出てきそうだ。でも、目指すべき場所は分かっている。だから怖くはなかった。

 

「間に合え……!!」


 何に間に合う気なのか、と言われると困る。でも、急がなくちゃいけない、そんな気がしていた。葵さんがどこか、私の手の届かない場所に行ってしまう気がした。

 有海公園は北側に病院が隣接していて、南側には駅がある。今までは横を通るだけだったから、そこを目的地にするのは初めてだった。不謹慎かもしれないけれど、胸は高鳴っていた。


「何……!?」


 有海公園の入り口に足を踏み入れた時、大地を揺るがすような爆音が鳴り響いた。それまでも何度か爆発音は聞こえてきたけれど、今度のは一番大きかった。巻き上がる砂埃が収まるまで、顔を庇う。庇いながらも進む。不思議と同じ様に周りで苦しんでいる人は居ない。いつもなら、結構トレーニングをしている人がいるはずなのに。

 有海公園の目玉、巨大なTの字展望台が見える場所まで来た時、そこに葵さんと昼間の司令官幼女がいるのが見えた。駆け寄ろうとして、様子が変なことに気がついた。二人はすぐそこに見えているのに、手が届かない遠くにいるみたいに見えたからだ。


「────。」


 ハンドガンを握る葵さんは普段の冷淡さにいくらか熱がこもっている様に見えた。引き金にかかった指が押し込まれ、青白く光る弾丸が飛び出していく。対する司令官幼女は目をつぶったまま、ただその時を待っていた。

 止めてももう間に合わない。私には力も魔法もない。でも、たとえ止められなくても応急処置をすれば生命は助かるかもしれない。私の味方は葵さんで、司令官幼女を撃つのは自分の仕事と私のためだと分かっている。だからこそ、葵さんに誰かを殺させてはいけない、と思うのだ。矛盾しているような、根拠も何もない考えに従って、私は駆け出した。

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