第2話

 桜は一度話すと止まらない。友人と呼べる人間が僕しかいないので、なかなかおしゃべりをする相手がいないのだ。

 「今日はね、数学の教科書を忘れちゃって、りゅ~くんに借りに行こうとしたんだけど、机の中から出てきたの」

 「教科書を学校に忘れたのか?」

 「そうなのそうなの。いつもおかあさんと一緒に準備してるんだけど気づかなかったの」

 「あって良かったじゃないか。中二の夏休み明けに資料集を全部捨てたって慌ててたよな」

 「それは昔のことでしょ!もうそんなことしたりしないもん」

だらだらと話しているともう日が暮れかけていた。

 「もう5時か、そろそろ帰るか」

 「わかった。続きはまた明日話すね!」

桜は食べかけのチョコの箱を鞄にしまい、早々に立って公園の入り口まで行ってしまった。

 「りゅ~くん、遅い!」

 「ちょっと待てよ」

入り口に立つ桜を見て、違和感に気づく。

 「あれ…足首に血ついてないか?」

 「あれ?今日転んだかも…?」

 「一回ベンチに戻ろうな。」

 ベンチに座らせて右の足首を見る。くるぶしソックスの少し上から血がにじんでいた。桜が怪我をするのはいつものことなので、鞄から消毒液と大きめの絆創膏を出して簡単に手当を行う。

 「結構大きいな…。怪我したときはどこに行くか覚えてるか?」

 「保健室でしょ!うっかりしてただけだもん。」

いじらしくそっぽを向いてしまった。

 「でも…怪我するとりゅ~くんが手当してくれるから好き」

好きと言われても悪い気はしないし。むしろ言って欲しいと思ってしまう。本当はよくないんだろうけどいつまでもこうして世話をしていたい。

 「何言ってんだ。ある程度のことは自分でできるようにならなきゃだめだろ。もう高二なんだから。」

 ベンチから立たせて、公園を出る。絆創膏が気になるようで、剥がれちゃったらどうしよう…としきりに話していた。

僕等の家は道路を挟んでほぼ向かい同士に建っている。桜の母さんはこの時間になると、桜の帰りを待つのと庭のバラの手入れとで玄関先にいることが多い。

 「ママ、ただいま~」

 「さくらちゃん、おかえり。隆一くんもいつもありがとね」

家に入る2人を見送ってから自宅に帰る。両親は共働きなのでこの時間には帰っていない。さて、晩ご飯でも作るとするか。まずは自分の部屋に鞄を置きに二階の自室に向かう。今日使った分の絆創膏も補充しないとだな。しかし、血が出る程の傷に気づかないなんてさすがにありえなくないか…?

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

桜色のちょこ 佐々木 煤 @sususasa15

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る