第5話父親の落日

僕は4年前の秋に2週間、実家のある九州に里帰りした。

昼間は両親が働いていた為、ご飯の準備や執筆活動をしていた。

初めて同人誌に載った、「親孝行泡沫記」を父は何度も読んでいた。

両親が休みの日は、父の運転で霧島方面をドライブした。

そして、夕闇せまれば、父と2人で酒を飲んだ。

母は飲まない。いや、飲めない。

父が名古屋に初孫を見にきた時は、料亭に連れて行ったり、魚太郎で海鮮バーベキューをご馳走した。

父、母、弟、皆喜んだ。

話しを戻すと、4年前の秋に2週間滞在して、空港で別れ際、父は僕にそっと1万円札を渡した。

僕は、ニヤリとして父の背をポンポンとして、

「名古屋で頑張って働けよ」

と、言って別れた。最後は、飛行機に乗るタラップから手を降ると両親は手を振った。

それが、父との最後の別れであった。


翌年の4月、父は近くの川に転落して、溺死した。

4月の水は冷たかったろうに、と涙がはらはらと落ちた。

遺体発見後は、実感が湧かなかったが、2日目の夜に泣いた。泣くなんて、何十年ぶりか思い出せない。

あの、強き男の落日。

享年68歳。

しかし、問題が。

当時、コロナの緊急非常事態宣言が発出され、身動きが取れなかったのだ。

せめて、葬式には出ないといけなかったが、地元の人間が帰ってくるな!と、言う。

お前の気持ちは十分理解している。だが、もしコロナが広がれば迷惑が大なので、堪えてくれと。

僕は親の死に目にも会えなかった。

無念の極み。

今、父はにっこり笑った顔の写真を写真立てに入れて、缶ビールと焼酎を備えてある。

朝、晩、手を合わせている。


亡くなった父は、僕の心の中でいきている。

僕は長生きしたい。父の分まで生きないと失礼だ。だから、薬は飲み続ける。

残された家族で楽しく、生活している。

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