姫扱いが関の山
いつものように玲那を弄びつつ、
『この子ももうそろそろか……』
もう少し年齢がいって、大人びてきてしまえばもう用はない。大人になった彼女は、見た目には美しくなったとしてもそこに多くの人間を引き付けるような<華やかさ>は滲み出てくることないだろうと、彼は見積もっていた。
『まあ、せいぜい、オタクが集まるサークルで姫扱いが関の山かな』
そういう風には見積もりながらも、本当の少女である今の彼女のことはすごく気に入っていたのだった。もちろんそれは、玲那にとってはおぞましいもの以外の何物でもなかったが。
そして弄り倒され、ぐったりとなった玲那を、やはり母親が叩き起こしてシャワーを浴びさせ、家へと送り届けた。この日の仕事はそれで終わりだったからだ。
しかし翌日にはまた、事務所兼待機室に連れてこられた。まるで人形のように意思を感じさせない虚ろな目をした彼女に、
「あ~もう! ウザイウザイウザイ!」
と罵声を浴びせる者がいた。
なのに、ある日、莉愛はやけ上機嫌だった。それと言うのも、昨日、いつも自分を買ってくれる常連客がチップを奮発してくれたからであった。だからいつも以上にサービスしてやったら客も喜んで、上機嫌で見送ってくれた。
そうやって自分を必要としてくれる人間がいるのは嬉しかった。何しろ彼女の両親は、莉愛のことを必要としていなかったからだ。
莉愛の両親は、愛し合って結ばれた訳ではなかった。お互いに打算と妥協によって結婚を決めたのである。それぞれ、そうしないといけない理由があった。
父親の方は、いつまでも独身でいては仕事の上で不利になるからということで焦っていたし、母親の方は、勤め先で次々と同僚が寿退社していくことに焦っていた。だからお互いに、共通の友人を介して知り合った人間で手を打ったのだ。共に、ステータスは決して悪くなかったが故に。
しかし、そうして結婚した二人の間には、愛情などまるでなかった。昔は見合い結婚というものもあったことだし取り敢えず結婚して一緒に暮らし始めれば多少は情も湧くかと思ったが、その気配すら微塵もなかった。体も何度も重ねてみたが、やはり結果は同じだった。二人の間には、何かが決定的に欠けているのだ。
なのに、そんな関係でもすることをすれば結果が伴う。妊娠だ。二人にとってそれは決して喜ばしいことではなかったが、周囲は二人の気持ちなど知らずに祝福し、それ故に要らないとも堕胎するとも言えないままに莉愛が生まれてしまったのだった。
だが、そんな形でこの世に生を受けてしまった我が子のことさえ、両親は愛おしいとは思えなかった。事ここに至って、二人は、根本的な問題として自分達が結婚に向いていない性分なのだということにようやく気付いたのである。
目立った虐待こそなかったが、二人の莉愛に対する態度はあまりに冷淡で、生まれたばかりの頃の彼女はそれを敏感に察したのか、いつも酷く不機嫌で泣いてばかりの子供だった。
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