結成

 <陽菜ひな>と名乗り自ら望んで客を取っていた少女、<仁美ひとみ>にとってはその仕事はとても好都合なものだった。

 会員制と言われていただけに客も身なりの良い割と丁寧な者が多く、無茶をされることはなかったからだ。

 まあ、客側の要望として、ランドセルを背負わされたり、ブルマを穿かされたり、スクール水着を着させられた上でいささか特殊な趣向のプレイを要求されたり、『お兄ちゃん』とか『先生』とか呼ばされたりということは往々にしてあったものの、それさえ我慢すれば概ね面倒なこともなかった。金も毎回ちゃんと支払ってもらえた

 仁美、いや、陽菜は、三人いた小学生チームでは二番目に人気だった。

 さらには、その彼女に続く三番人気だった<莉愛りあ>という少女もいたのだが、莉愛りあは、小学生にしては背が高く胸もやけに大きく、一見しただけでは中学生にも見えるのがネックになっていたらしい。

 しかも、少々態度も悪かった。呼ばれても「あ?」と不遜な態度だし、とにかく可愛げがないのだ。だが一定のファンはいるらしく、莉愛の客はほぼ固定客だったようだ。

 そして、小学生チームの一番人気は、<玲那れいな>と呼ばれる、チームでも一番幼い少女だった。胸までのサラサラの髪に強く抱けば折れそうなほどの華奢な体。いつもおどおどとして上目遣いで、おとなしくていかにも言いなりになってくれそうな、なるほどこれは幼い少女を求める人間から人気を集めるのは当然というタイプであった。

 しかし玲那は、いつも暗い顔をしていた。予約が入った日は待機室の方に来て呼ばれるのを待っていたが、顔色は青褪めて泣いていることもよくあった。

「何だこいつ。いっつもいっつもめそめそしてよ。ウザいんだよ」

 莉愛はわざと聞こえるようにそう独り言を漏らし、玲那を怯えさせた。だが、陽菜はそこまでのことはしなかった。

「大丈夫…? ジュース、飲む…?」

 そんな風に声を掛けてソフトドリンクを差し出したりもした。

 最初は怯えていた玲那も、陽菜がそういう風に接しているうちに懐いてきたのか、自分から彼女の隣に座るようにもなった。そんな玲那の頭を、陽菜は優しく撫でたりもした。

 だからか、

「玲那、行くよ」

 と事務所から声を掛けられればその顔はさらに血の気を失い、涙を滲ませて、

「……!」

 助けを求めるように陽菜を見ることもあった。

「……」

 だが、陽菜も、助けられるような立場ではない。ただの職場の同僚にすぎないし、助けを求められても困る。そんな時は決まって、目を逸らして黙るだけなのだった。一度、腕を掴まれて強引に部屋から連れ出されようとしていた際に玲那が、

「ひーちゃん……」

「!」

 やっと絞り出したような小さな声で玲那が呼んだ時にはさすがに思わず視線を向けてしまったりもしたが、結局はただ黙って見送るしかできなかったのであった。


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