うちで働かないか
金が要るからだった。
とは言え、
『月経が始まっていなければ決して妊娠はしない』
わけでもないので、リスクは高くなる。
だから莉々は仁美に言った。
「実はさ。私の客からうちで働かないかって誘われてるんだ。派遣の風俗だって。と言っても本番アリの裏だけどね。そうなると今までみたいに全部自分の金にはならないけど、客を紹介してもらえるし、しかも客とのトラブルとかも店の方で対処してくれるって。だから今までみたいにヤリ逃げされることも減るんじゃないかな」
「その話、詳しく聞かせて……」
トイレのドアが静かに開き、中から仁美が顔を出しながら言う。
リビングでテーブルについて、ソフトドリンクを飲みながら仁美は莉々の話を聞いた。基本的な内容としてはトイレで聞いたものと大差ない。これまでは自分で客を取っていたのが店から派遣される形で客と会い、受け取った金の三割を店に払う代わりに、客とトラブルになった時には店が間に入ってくれるし、客も会員制にして身元の確かな者にだけ派遣するので安全だということだ。
自分で相手を見付けていた時には何だかんだと金をちゃんと払ってもらえなかったり、暴力を振るわれそうになったり、写真を撮ってそれを脅しに使おうとしたりする奴もいて、五人に一人くらいの割合でトラブルになっていたのだった。一度は、拉致されそうになったことさえある。その時は、相手の家族がたまたま自分のことを見付けて逃がしてくれて難を逃れた。逃がす際、『このことはお互いになかったことにして』と念を押されたが。
雇われてそういうトラブルを回避できるのであれば、悪い話ではないと思った。そして仁美は莉々に、
「分かった。その話、私も乗る……」
と応えていた。
それからは、とんとん拍子だった。形だけの面接も行い、地味なマンションの二室を用いて作られた事務所兼待機室は住み込みも可能ということで、仁美はそこに住むことになった。
実は彼女は、家出中だったのだ。両親が不在気味の莉々の家に転がり込んでいただけで、いずれは金を貯めて自分で部屋を借りて住むつもりだったのである。その為に早く金を貯めたいという事情があったのだ。
こうして就いた仕事は、彼女にとっては楽なものだった。
自分で相手を探す必要がなくなって、派遣の依頼が入れば指定の場所まで自動車で送ってもらえて黙って客の言いなりになっていればいいのだから。
だがそれがいったい何をもたらすのか、未熟で経験に乏しい少女が正確に具体的に想像することは難しいだろう。だから本来、子供には保護が必要なのだ。自分で間違いのない答えを出せるのなら、保護など必要ないだろう。
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