仕事
その狙い通り、玲那は一切逆らうような素振りさえ見せず男の部屋へと連れてこられた。
部屋に入るなり男は京子に十万円を渡し、京子はそれを数えた。
『わたし…うられたんだ……』
その光景に、まだ十歳になっていない玲那でさえ、自分が売られたんだと察してしまった。だけどそれでも、何かの間違いだと思いたかった。売られたのは自分じゃないと思いたかった。
けれど、幼い少女のそんなささやかな願いさえ、聞き届けてはもらえなかった。
「ほら、さっさと脱ぎな。時間がもったいないだろ」
数え終えた十万円をバッグに入れながら、京子が玲那に命じる。
「っ!」
人としての情の欠片もないその言葉に小さな体がビクンと跳ねた。
「……」
青褪めた顔で縋るように母親を見詰める娘に、母親はどこまでも冷酷だった。
「もたもたすんな。これはお前の仕事なんだよ。『働かざるもの食うべからず』と言ってね、なんにもできないお前は自分の体で稼ぐんだ。それが社会ってもんなんだよ」
ぬけぬけとよく言うものである。親としての義務すらロクに果たしていないでどの口が言うのかという話だが、この時の玲那にはまだそれを面と向かって指摘し反抗するだけの力はなかった。
「……」
胸の奥の深いところでドロドロと粘つく仄暗い熱を持った何かが渦巻いてはいたものの、この時点のそれはとても小さく、玲那自身でさえ気付くことができない程度のものでしかなかったのだ。
ガタガタと手が震え、足にも力が入らない。それでも彼女はなんとかワンピースを脱いだ。同じ年頃の少年とさほど変わらないのに、何故かやはり少女のそれだと分かる体が露わになり、男はニヤつきながらごくりと唾を呑んだ。
「さっさとしな!」
下着に手を掛けたところで動きが止まってしまった自分の娘に、母親の叱責が飛ぶ。
「……っ!」
再びビクッと玲那の体が跳ねて、ついに彼女は諦めたかのように自ら下着を下した。
「おぉ~!」
一糸纏わぬ姿となった少女に、男の感嘆が投げかけられる。
「いい! これはいいよ! うん、最高だ!」
一体何が最高なのかさっぱり分からないが、男は顔を真っ赤に紅潮させて興奮していた。呼吸も荒く、涎さえ垂らしそうにも見えたのだった。
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