第14話「紅葉との通話」
久しぶりに誰かと話しながら帰ったせいか、思った以上にあっという間だったなと思っていると、
「あのさ
「いいよ、出来るようになったら教えて」
「じゃあまた明日ね」
「バイバイ」
手を振ってくる紅葉に振り返していると、名残り惜しそうにドアが閉められた。
ただちょっと話足りないなって思ってたからよかった。
◇
夕飯を終え、通話まで何して時間を潰そうかと考えあぐねていると一通のLINEが届いた。
紅葉かなと思って開くと
『ねえ今日の夜って紅葉ちゃん空いてるかな?』
『九時以降は俺と通話するから、なにかあるならそれ以前じゃね?』
『九時以降かー、ねえ紅葉ちゃん借りてもいい?』
『なにか話したいことあるなら別にいいけど、本人に聞けよ』
『あーそうだよね、わかった』
もし通話できないなら、もう少し話したかったから残念ではあるけど、あれこれ指示するような彼氏になりたくないしな。
それに話そうと思えば澪より自由に話せる。
なら仲良くなった初日だし紅葉が望むなら今日ぐらい譲ってもいいだろう。
そんなことを考えながらしばらくすると紅葉からのLINEが届いた。
『ごめん澪さんに通話誘われたんだけど、話してもいい?』
『いいよ、また明日にでも話そう』
『私から誘ったのにごめんね。ありがとう』
もともと紅葉と通話すると決めていたせいだろうか、九時過ぎると急にそわそわした気分になってきた。
堪らず澪にLINEをすると予想の何倍も早く返信が来た。
『紅葉となに話してるの?』
『私に取られちゃうとか心配してる?』
『そういうわけじゃないけど……』
『安心して私の恋愛対象は男の人だから』
『そっか、よかった』
まあもし同性も恋愛対象に入ってるって言われてもあんまり紅葉と澪が付き合うのはピンとこないな。
ずっと友達だった楓と澪を見てきたからだろうか?
『で、なに話してるかだけど。いつから付き合い始めたかとか、悠が嘘ついてないか確認してる』
『あんまいじめんなよ……』
倉庫での詰問を思い出したせいか、背中には嫌な汗がにじむ。
あれをやられたら紅葉は耐えられるんだろうか。
『友達の妹にそんなことするわけないじゃん、怒られちゃうよ』
『そういえばもう話してるんだよね? 返事早くね?』
『打ちながら話してる』
『器用なことするな』
『慣れると意外と難しくないよ』
そんなもんか?
試しに全く別のことを話しながらなにか打とうとしたがやっぱりうまくいかない。
どうしても口か指の集中している方に反対側が引っ張られてしまった。
『そうそうこれ見て』
打ちながら話す練習をしていると、一枚の写真が届いた。
昨日行ったからよく覚えてる、楓を納骨したお墓だ。
『楓の?』
『そうそう』
『暗いけど怖くないの?』
夕方言っていた予定とはこのことなのだろうか。
写真の四隅は薄暗くなっており、フラッシュしか光源がないのがよくわかる。
『私は楓ちゃんに恨まれるようなことしたことないし。別れてすぐ元カノの妹と付き合いだしたとか』
テキストだけで送られて感情がわからないせいか、そのLINEからは倉庫で詰められた時と同じようなテンションを感じた。
『あのさ、やっぱ怒ってるでしょ……』
『怒ってないから!』
『ごめん……』
普段使わないくせにわざと!を使う当たり怒りを隠そうとしているのが伝わってくる。
まあ「友達が遊ばれてたんじゃないかって不安になるのわからない?」って言っていたし怒るのもわからなくはないけど……。
『謝るってことは楓ちゃんのこと裏切ってるって思ってるわけ?』
『いやそんなことはない』
『前も言ったけどさ、期間被ってなくて楓ちゃんのことがちゃんと好きだったら何も言わないから』
『わかってるよ』
『ただ今の彼女は紅葉ちゃんなんだし、いつまでも元カノのコピーじゃなくて本人を大切にしてあげなよ』
『そのつもりだよ……』
コピー、か。
楓の服を着せて、話し方を似せてもらって、雰囲気まで作ってもらって。
改めて言われると、これをコピーと言わずしてなんと言うんだろうか。
やっぱ紅葉には悪いことしてるよな。
『ところでその今カノさんなんですけど……』
『なに?』
『泣かせちゃったから慰めてあげてほしいって言ったら怒る?』
は?
どういうこと?
そのLINEを見た時一瞬何を言われたのか理解できなかった。
『それは冗談かなにか?』
『ごめんほんと……。余裕があったら会いたいとか送ってあげて』
『マジで泣かせたの? ふざけんなよ』
『本当にごめん……』
今までの会話の手前、「他人の彼女泣かすなよ」とは送れなかったが、なんでこんなにムカつくんだろう。
あの帰り道に見た今にも崩れてしまいそうな紅葉を思い出すと、自然と舌打ちをしていた。
どうにか深呼吸で自分の中に生まれてしまったどろっとした黒い感情を抑えると、それが紅葉に伝わらない様気を付けてLINEを送る。
澪と話していたせいだろうか、送ってから数秒の内に返事が来た。
『ねえ紅葉、話せない分ちょっとだけでも顔見たいんだけどいい?』
『外で待っててください、すぐ行きます』
通話の代わりに会えるという嬉しさと、泣き顔で出てくるであろう彼女に不安感を覚えながら外へ飛び出した。
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