第13話「二人の対面2」

「ただいま」

「おかえり」


 笑顔で迎えてくれた二人の間にさっきみたいなギクシャクした雰囲気は感じられなかった。

 コーヒーを買っていたあの短時間で何があったんだろうか。

 不思議に思いながらコーヒーをすする。


「ごめんねゆうかえでちゃんとの付き合った流れとか話しちゃった」


 みおは悪びれる様子を見せず形だけという感じに手刀を切る。


「きっかけって何?」

「例えばお互い私には相談してきたのに、一向に相手には告白しないとか。楓ちゃんが明らかに好きですよっていう雰囲気出したのに、全く気が付かなかった悠のこととか」

「悠真って結構鈍感だったんだね」


 まるで同調するかのように紅葉もみじはおかしそうに笑った。


「鈍感って……。恥ずかしいこと思い出させんなよ」


 紅葉と付き合う前後は自分で振り返っても結構ヘタレだったと思う。

 まあそれも一種の青春と言ってしまえばそれまでなのかもしれないが、やはり恥ずかしいものは恥ずかしい。


「ねえ紅葉、それ忘れてくれない?」

「やだ、絶対覚えてるから。私だけそういう経験無いのは不公平だし、その代わりってことで」


 なんでそんなこと教えたんだよと抗議の視線を澪に送るが、俺の目線に気づくとニヤニヤと笑うだけでそれ以外の反応はない。


「不公平って、何ヶ月にもわたって友達なのか付き合ってるのかわかんないギクシャクした関係になるより良くない?」

「私はそういうの憧れるけどなあ。まあお姉ちゃんの代わりだから悠真とそういう初々しい感じになれないのは仕方ないのかもしれないけど」


 そこで「なら素の紅葉と付き合おうか?」という言う勇気もなかったし、そんなことが言えるほど楓の死を割り切れてもいなかった。

 ただほんと付き合いたてだけど、今の紅葉は楓のようで新しい彼女という感じを全く覚えさせない。

 長年付き合っていたような居心地の良さと安心感があった。


「そういえば悠真の好み澪さんから聞いたから、明日以降楽しみにしててね」

「え、何で俺の好み澪が知ってんの?」

「悠は今まで私が一回も楓ちゃんからの惚気を聞いてないとでも思ってたの?」

「それは少しぐらいはあったかもしれないけど……」


 俺だって楓に直接言えないけど、可愛いなって思ったこととか澪に話してたし。

 ただ、俺の好みがわかるほど惚気てたのか?


「少しで済んだらよかったんだけどね~」


 わざとらしくそう言うと「ほら見て」と楓とのLINEを見せてきた。

 最後の方は自分の病気に関することとか俺を一人置いていく不安とかが綴られていたがそれ以外は殆ど惚気だった。

 見てるこっちが恥ずかしくなるようなのが大量に送られている。


「よく今までこれに耐えてたね」

「毎日胸焼けしてたよ、山盛りの砂糖食べさせられてる気分だったし」

「なんか俺まで送ってごめん。嫌だったら言ってくれてよかったのに……」

「悠のは悠ので面白かったから気にしないで。それに紅葉ちゃんにも愚痴とか惚気があったら聞くよって言ったし、言ったほど嫌な思いはしてないから」


 もうそんなことが言えるぐらい仲良くなっていたのか。

 やっぱり姉妹だと同じようなツボを押さえておけば仲良くなるなどコツがあるんだろうか。


「あ、けど。私は誰かに惚気られるんだったら直接言ってくれた方が嬉しいな」


 恥ずかしそうに俺の袖を引くと紅葉は呟くようにそう言った。


「分かったなら直接言うよ」

「ほんと二人って数日前に付き合った感じじゃないよね、自然体で羨ましいな」

「楓にばれたらすごい妬かれそうだけどな」

「案外もうバレてるかもよ?」

「バレてない方がいいんだけどなー」

「浮気になっちゃうもんねー」


 可笑しそうに笑う澪を見ながらカップを傾けると、二杯目のコーヒーまで空になってしまっていた。


「そろそろ行く?」


 二人の目の前で空になったカップを振って見せると二人ともほぼ飲みきってしまっていたらしい。

 澪は最後に残った分を一気に口に流し込む。


「そうだね結構長居しちゃった」

「ねえ悠真このあとどうする? どこか行く?」

「あーどうしよう」

「澪さんも一緒に行きませんか?」


 紅葉がそう尋ねると、澪は頭を振って答えた。


「いや私はこれで帰ろうかな、朝も邪魔しちゃったしちょっと行きたいところがあるんだ」

「ならタイミングが合った時にでも」

「そして紅葉ちゃんがいいなら私はOKだから」


 そう言ってバイバイと手を振るとだんだんと澪のシルエットは小さくなっていった。

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