第11話「澪の尋問2」

「なんで付き合ったかか……」

「そうだよ、かえでちゃんが亡くなった日の夜に付き合うなんてそれ相応の理由があるんでしょ?」

「まあないわけじゃないけど……」


 自殺しようとしていたところを止められて、楓の死に整理がつくまで付き合うことになったって言って信じてくれるだろうか。

 多分無理だろうな……。


「言えないの?」

「いや……」


 ただこの場で言わないという選択肢もないだろう。

 みおの目からは絶対に逃がさないという強い意思が感じられた。


「楓ちゃんを裏切るような理由?」

「それは違う!」


 裏切ったわけじゃない。

 生きてればどんなに強く誘われても絶対楓以外とは付き合うつもりはなかった。


「けどそこで妹さんが好きだから付き合ったって言わないことは、好きじゃないんだ」

「いやそんなこと……」


 紅葉もみじが好きかどうか、か。

 どうなんだろう。

 ドキッとすることはあるが、そう感じる時はいつも楓の面影があるような気がするし。

 いつも見せてくれる性格は楓の真似をしたものって考えると……。


ゆうは楓ちゃんのこと好き?」

「好きだよ」

「妹さんは?」

「……好きだよ」

「正直だね」


 そう言うと、安心と残念が入り混じったような顔で笑う。

 やっぱりまだ楓を好きじゃなかったと疑われていたんだろうか。


「さっきから何のつもりだよ」

「なにって、友達が遊ばれてたんじゃないかって不安になるのわからない?」

「わかるけどさ」


 ただどんなふうに付き合っていたかは澪をよく知っているはずだ。

 よく三人で遊んだこともあったし、喧嘩したらお互いの相談相手や仲介役になってくれたりもした。

 今までずっと本当に好きか疑われてたってことかな。


「ねえ楓ちゃんの秘密一つ教えるから、なんで付き合ったか簡単でいいから教えてよ」

「楓の秘密って?」

「耳貸して」


 そう言うとそっと優しい声で囁いてきた。


「楓ちゃんは自分が死んだら二人が付き合うの知ってたよ」

「え? なんで?」


 楓が知ってた?

 まさか?

 そんなことがあるわけ。

 澪は答える気がないのか飄々ひょうひょうとした態度を見せてくる。


「さあ? ほら私は教えたんだから、教えてよ」


 なぜそんなことを思っていたかすごく気になるが、この態度の澪からそんなことが聞けないことくらい容易にわかった。

 それに聞いてしまった手前、理由を言わないわけにもいかないだろう。


「紅葉には内緒にしとけよ」

「わかってるって」

「――ためだよ」

「ごめん聞こえなかった、もう一回」

「お互い楓がいなくなった穴を埋めるためだよ!」


 改めて口にすると、そんな理由で誰かと付き合ってしまっていいのかと思う。

 ただ俺たちが付き合うことを予想していた楓は後追いすることを望んだのだろうか。

 本人の口から真実が聞けない以上、どっちが正解だったのかわからない。


「埋めるって、楓ちゃんみたいに話してたことも関係ある?」

「なんでそれを」

「いや来るとき、服装とか髪型、話し方全部楓ちゃんの生き写しみたいだからそうなのかなって」

「そういうことか……」


 やっぱあの姿は付き合っていたりしなくても楓ってわかるくらい完璧なんだな。

 そんなことを考えていると、澪の顔は急に真剣そのものという感じになった。


「ねえ紅葉さんにひどいことしてるってのはわかってる?」

「ひどいことって?」

「今悠のメンタルは楓ちゃんの振りした紅葉さんに支えられてるわけじゃん?」

「そうだね」


 楓ではないとわかってはいても、紅葉がいるだけで大分生きようという気持ちがわいてくる。

 支えられてると言っても間違いないだろう。


「誰かに必要とされることで一時的には紅葉さんも落ち着くかもしれない。けど、素の彼女は誰に支えてもらうの?」

「それは……」


 考えてなかった。

 もしかしたら知らず知らずのうちに無理をさせていたのかもしれない。

 付き合っている間ずっと偽りの自分を見せるのは確かにつらいよな。


「まあそれは自分で判断することだから、『素の私を支えてください』とか頼んで来たら考えればいいと思うんだけど。向こうにばっかり負担強いてない?」

「そうかもしれない」

「楓ちゃんはもういないけど、私に辛いとか言ってくれてもいいんだよ。友達でしょ? それに恋人や家族ではなかったから悠や紅葉さんほど濃い時間を送ってきたわけじゃないけど、私だって大事な友達亡くしたんだから辛いってのよくわかるよ」

「ごめんありがとう」

「楓ちゃんがいたから仕方なく悠と一緒にいたわけじゃなくて、楓ちゃんも大切な友達だと思ってるのと同じように、悠のことも大切だと思ってる。だから気にしないで、いつでも相談していいから。楓ちゃんと付き合ってた時みたいに」

「わかったそうする」

「あとそうだ、楓ちゃんからの伝言。『私はどこにいてもずっと悠真のこと見てるよ』だって」


 急に思い出したようにそう言う澪は本当に楓のようだった。

 錯覚だとわかってはいるが、澪の背後に楓の面影が見えた気がする。

 紅葉もうまかったし、なにか楓の様に話すコツでもあるんだろうか。


「なんか楓に直接言われたみたいだ」

「実はちょっと似せられないか頑張ったんだよね、まあ血は繋がってないから妹さんほど完璧とはいかないだろうけどさ」

「変わらないくらい上手かったよ」


 別れてから必要以上に落ち込まないものこういう周りの気遣いがあるからなのかもな。

 紅葉も頑張ってくれてるし、折を見てお礼しなきゃな。


「そう言ってくれると嬉しいな、私の口からじゃなくて、楓ちゃんの口から伝えたかったし」

「じゃあそろそろ行く?」


 休み始めてから数十分、さっきから入店の音が増えてきた。

 倉庫にいてもなんとなく忙しい雰囲気は伝わってくるし、時間帯的にも混んできてもおかしくない。

 怒られる前に戻らないと。


「そうだね。あ、今日って帰りに妹さん来るの?」

「来るよ」

「ならさ、ちゃんと紹介してよこれからも仲良くしたいしさ」


 あーそっか、そう言えば前会ったときはろくに紹介してなかったっけ。

 変な誤解を抱かれても嫌だし、楓っていう共通点がある人と仲良くなってもいいのかもな。


「わかった、じゃあ今日言うわ」

「ありがとう」

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