第3話「二人の現実」
「お待たせ」
「ありがとう急いで準備してきてくれて」
「大丈夫だよ、こちらこそ待たせてごめん」
誰かと外に出ることが久々だったので、色々やっていたら結局三十分近く
「あれ、その服?」
さっき部屋にいた時と違うなと思ったがその服装には見覚えがあった。
明るめのノースリーブのブラウスに黒のフレアミニスカートは
「気が付いた? お姉ちゃんが好きだった服。お母さんに『着ていい?』って聞いたら私が着たいのがあれば好きしていいって。捨てちゃうより私が着たほうが浮かばれるだろうし」
その場でファッションモデルの様にくるりと回って見せた。
姉妹で骨格が近いというのもあるのだろう。
その服はとても彼女に似合っていた。
「かわいいよ」
「よかった」
よく見ると髪型も後ろ結びから楓似の下ろした感じになっていた。
時折鼻をくすぐるこの香りも確か楓が好んで使っていたヘアオイルの物だ。
「紅葉無理してない?」
「してないよ?」
どうして?という顔でこちらを覗いてくる。
「ならいいんだけど、あんまり楓に寄せ過ぎて好きな恰好出来なかったら悪いなって思って」
「
「実際は年子だけどね」と冗談ぽく笑う。
「ごめん楓しか見てなくて気が付かなかった」
「まあ私としてもそっちのがいいけどね、そんな一途に愛されてたお姉ちゃんは幸せだったんだなって思えるし」
「そうだね」
罪悪感が全くないと言えば嘘になる。
これは自分の納得させるための幻影かもしれないが、不思議と紅葉が笑っているのを見ると、楓も笑っているように感じ、少しだけ心が軽くなった。
「そういえばまだどこ行くとか決めてなかったよね」
「決めてないね」
確かに朝迎えに来られた流れで外に来たが、これからどこに行くなどは全く決めていなかった。
「ならアクセサリーとか買いたいんだけど、いいかな?」
「いいよ行こう」
アクセサリーか、お金足りたっけな。
頭の中で大雑把に最近の収支を計算してみる。
まあ何枚か一万円札も入ってるし、婚約指輪とかでも買わない限り何とかなるだろう。
「ありがとー! 次は悠真が行きたいところ行こうね」
「わかった」
よく楓と行ったカフェとかなら紅葉も楽しめるかな。
「あ、そうだ……」
「どうしたの?」
「お姉ちゃんとも手、繋いでたんだよね?」
「繋いでたね」
外ではあんまりべたべたしたくないと言いながら手はしっかり繋いできたのを思い出す。
「手をつなぐのはありなの?」と聞くといつも決まって「繋がないと迷子になるでしょ」って言われたっけな。
「なら繋ごう」
そう言うとまるでダンスのパートナーを誘うときの様に手を差し出してくる。
そっと手を取ると、触感を確かめるようにぎゅっと握ってきた。
「……結構ごつごつしてるんだね」
少し俯きながらそう言う。
表情を見ることはできなかったが、耳は真っ赤に染まっていた。
「紅葉の手は柔らかいよ……」
握り返した時の感触はマシュマロのようで、少しでも力加減を間違うとほろほろと崩れていってしまうのではと思うくらい儚かった。
「ごめんね、こういうの慣れてなくて。お姉ちゃんと違うと戸惑っちゃうよね」
「大丈夫だよ、無理に全部楓の振りをしようとしないで」
「ありがとう。ごめん……お姉ちゃんの振りしようと思うと……どうしても思い出しちゃって。もう……いなんだなって……」
そうしゃくりあげながら泣き始めた。
「大丈夫だよ、俺がいるから」
体を預けてくる紅葉の背中を
「ごめんなさい……悠真さん。私が誘ったんだから……しっかりしないといけないのに……」
「無理しなくていいんだよ。辛いときはちゃんと言って」
「少しだけ……このままでもいいですか?」
俺の胸に完全に顔を埋めるような格好で泣き止もうと頑張っていた。
「落ち着くまでこのままでいいよ」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます