閑話 11/11


「ポッキーゲームがしたい」

「は?」


 突如ヒナタに捕まった私は、謎のゲームを口走るヒナタに困惑の声を上げた。

 ぽっきーげぇむ…?ぽっきーって…なに?


 そう困惑と疑問が頭の中で交錯する中、ヒナタは鼻歌混じりに愉快そうな笑みを浮かべていた。まるで、とてもいい案を思いついたマッドサイエンティストみたいで凶器的だ。


「ねぇ、ティアナは知ってる?ポッキーゲーム!!」

「いや、知らないわよ…なにそれ?」

「んふふふっ♪このゲームはね?ボクがいた国で流行ってたゲームなんだけどさぁ」


 ヒナタが説明するには…それは棒状のお菓子を使ったゲームだそう。

 食べ物で遊んだりするんじゃありません…と叱りたいところだけど、ヒナタのいた国で流行っていたと聞いて耳を傾けてみる。

 もしかしたら、ヒナタの弱点となる情報がこのゲームにはありそうだと思ったからだ。


「チョコレート?」

「そうそう!棒状のクッキーのまわりにチョコが塗られていてね?甘くて美味しいんだよ!サクサク〜って感触がたまらなくてさぁ!」


 古い思い出を語るように、ヒナタは楽しそうにそのお菓子を語る。

 むむぅ、聞いてるとなんだか食べたくなってしまうわ……。


 じゅるりと、自然によだれが出てしまいそう。

 最近、甘いの食べてなかったし…そういうの聞いたら食べたくなっちゃうじゃん…。


「そ、それで?急に言い出すってことはなによ…」

「うふふっ…キミに作って欲しいからかなぁ?久しぶりに食べたくなっちゃったからね〜」


 それに…と付け足してから、ヒナタは押し黙る。何か企んでそうな、にんまりとした笑顔を浮かべて危機感が私を襲うけど…。

 それだけ聞いたら、作ってみたいと思ってしまう…私なのでした。


「いいじゃない!作ってあげるわ!」

「いやったぁ!」



 とはいえ…。

 私の知らない未知のお菓子…それもレシピもないときたら手探りで作るしかない。

 改良による改良…失敗に続き失敗…。

 ヒナタの求めるポッキーには近付けずに、私は苦戦を強いられた。


 そうして、何時間もの苦闘の末に…。


「おおっ!これだ!!」


 私は遂に正解へと辿り着いた!!


「ふ、ふふふっ…ど、どんなものよ!!」

「流石ティアナ〜!君は料理に関しては世界一だよ〜!!」

「ま、まぁね!苦戦はしたけど私にかかればちょちょいのちょいよ!」


 あははは!とポッキー作りという大きな山を乗り越えた私は、テンションがハイになっていた。

 にょいーんっと鼻を伸ばして、ヒナタの褒め言葉に浸りながら…私はどさりとソファーに腰を掛けた。


「…ヒナタの説明がふわっとしすぎてたから、苦戦したけど…案外簡単なものね」

「あはは〜ごめんごめん」

「ま、いいわ…とりあえず!私が作ったんだから私も食べさせてよ!!」

「うんうん♪じゃあ食べるついでにさぁ…?ほら!最初に言ってたゲーム!!しちゃおっか!」


 ゲーム…?

 あ、そうだった…お菓子作りの始まりってヒナタがゲームの話をしだしたからだ。

 でも、肝心のゲーム内容は聞いてもないし…そもそも、こんな棒状のお菓子でゲームなんて出来るわけが…。


 そう考えてるのも束の間、ヒナタはポッキーの端を口に咥えた。そして、口に咥えたポッキーを私に向けてから「んっ」と小さな声で促す。


「え?ん?え??」


 えと…どういうことかしら?

 察するに私もポッキーを咥えろってことなんだろうけど…どうしてそんな事を?


「んっ!」

「わ、わかったわよ!急かさないで!」


 と、とりあえず…急かされるままに私はポッキーを咥えてみる…。

 そして、咥えてから私は気付いた…気付いてしまった。


(顔…ちっかぁ……)


 細長い…棒状のクッキーとはいえ、それでも私達の距離はとても近い。

 視界いっぱいに広がる、ヒナタの美形に思わず赤面しながら、私はこのゲームの真意に近づきかけていた…。


(今になって理解したけど…こ、これってつまりそういうことよね!?というかヒナタって…こんなふざけたことをしたくて私に作らせたの!!?)

(…って思ってるんだろうなぁティアナは♪)


 ニヤリと…ヒナタの口角が歪む。

 その笑顔に嫌な予感がして…私は咄嗟に口を離そうとした時…瞬間。


 さく、さくさくさくさくさくっ!


 小気味良い音が迫ろうとしていた!!


(え、え、えええええええっ!!?)


 心臓がばくんっと跳ねた。

 迫るヒナタに驚いて、肩が大きく揺れると…私は口を離すチャンスを逃してしまった。

 そして、そのチャンスを突くようにヒナタは距離を詰めていく!


 さくさくさく!


 鼻が…当たりそうな距離…!


 さくさくさくっ!!


 鼻が…当たってるぅ!!


 さくさくさくさく!!


 あ、やばいこれ…これ、あれだ!キ、キス…キスしちゃうやつだ!


 さくさくさくっ!


「そ、それはっ…だめええええっ!!」


 声を上げて、私は口を離す。

 危うく…ヒナタの唇が、私の唇に当たる…ところだった…!

 女の子同士で…き、ききき…キス!しちゃうところだった…!!


「な、なななっ…なんてことすんのよバカヒナタ!!」


 赤面しながら、ゲームを提案したヒナタを糾弾する。けど、当の本人はケロリとした表情で「あーあ!口離しちゃったかぁ〜」と残念そうにしていた。


「もう少しで…キスできそうだったのにね♪」


 にやっといじわるに、ヒナタは笑う。

 かぁ〜!っと頬が熱くなった。

 心臓がばくばくと鼓動を打って、血流が速くなっているのを感じる。


 全身を紅に染めて、私は。


「ば、バカヒナタ!バカバカバカ!!もう残りのぶんは食べさせてあげないからねぇ!!」


 最大級の罵倒をヒナタに向けて。残りのポッキーを持って自室へと逃げていった。



 ティアナが自室へと逃げ込んだあと、ボクは一人ぽつんと部屋に佇む。

 いやぁ…反応が楽しくてからかいすぎたかな?


 少し反省してみるけど、やっぱりティアナはからかっていると可愛くて面白い。

 それに…ただの思いつきで語ったのに、ほんとに作るなんて思わなかった。


「口の中、あまいなぁ…」


 昔、食べすぎてお母さんに怒られたっけ。

 歯医者に行かせるよって…なまはげみたいな感じで脅されてきたのを今でも覚えてる。


「なつかしいなぁ」


 唇にそっと触れて…過去を思い出す。

 それと同時に、先程の光景を脳裏に浮かばせていた。


 焦るティアナの表情は…紅く、羞恥に満ちていて…とてもかわいかった。

 あと少しで、あの桜色の唇に触れられたらって思うと…少し心が踊った。


「キス、したかったなぁ…」


 無理矢理にでも、強引にでも…あの唇にボクの唇を押し付ければよかった。

 そうしたら、後悔しなくても良かったのになぁ…とボクは思った。


(あとがき)


 そういえばポッキーの日だなぁと思ったので、急ごしらえで書いたやつです。

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