大文字伝子の休日12
クライングフリーマン
大文字伝子の休日12
伝子のマンション。午後1時。「デート?誰が?」「辰巳君と金森さん、。」「まさか。」依田が福本と話していると、EITOのPCの画面が起動した。
「ごきげんよう、諸君。実は、君たちに話していなかったのだが、メンバー全員が狙われていた。死の商人音無英子は、知り合いであった、福本祥子君に近づき、このマンションに来た。先日、物部君が留守番に入る際に、調査させたところ、5つの盗聴器が見つかった。4つは、君たちがいつも座っている辺りにあったが、5つ目は何と台所の非常用バルコニーの近くにあった。察するに、お隣の藤井さんが留守の間に藤井さん宅経由で仕掛けたものと思われる。ピッキングの痕があったからね。藤井さんには了解を得て既に鍵を替えてある。」
「理事官。かなり優秀なスパイだったという事ですか?」「その通りだ。祥子君がいた劇団は解散。その後、音無の入った劇団にいた団員の影響を受けて共産主義になった。南原君の事故のトリックは簡単だったが、本命の『新宿駅』キーワードの攻撃は危ういところだった。よく見破ったよ、大文字君。」
「ありがとうございます。」と伝子が言うと、理事官は話を続けた。
「その音無が白状した作戦が『大文字関係者皆殺し作戦』だった。白状させた経緯は勘弁してくれ。依田夫妻、物部夫妻、南部夫妻が危険に晒される。護衛を張り付けるしかなかった。そのマンションは、盗聴器を外した上でガードした。新しい『死の商人』前畑は、音無も組織も嫌っていた。そして、がんだった。死ぬ前の彼が言ったキーワードは、信用していいと思う。敵が大文字君でなかったら、教えなかったかも知れない。」
「しかし、理事官、『ギャンブル』じゃあ、範囲が広すぎるでしょう?」と、福本が不服そうに言った。
「確かに、福本君の言う通りだ。だが、解明して、先回りして食い止めなければならない。大文字君を介して、DDの諸君にいつも協力して貰って感謝している。しかし、危険とも背中合わせだ。依田君、囮にして済まない。この通りだ。」と理事官は頭を下げた。
「いいですよ、俺たちは一蓮托生。『毒を食ラワバ皿まで』って言いますよね。」
「ヨーダ。例えが違うよ。それは、悪いこと始めたら止められない、って意味。『死の商人』がそうだよ。」と、高遠が言うと、「そうだな。みんな解放された顔をしていた。」と伝子が応えた。
「また、情報が入ったら、報せる。ああ。今、新婚旅行中の物部夫妻には、橘一佐が警護している。念の為だ。」
画面は消えた。伝子は物部にLinenでメッセージを送ってみた。「そちらはどうだ?なぎさは役に立っているか?」
折り返し、伝子にLinenのテレビ電話の着信があった。「大文字。それとなく警護、止めさせてくれないか。監視されているみたいで動きづらい。」という物部の懇願に、「なぎさと替わってくれ。」と、伝子は言った。
「はい。」「それとなく警護はもういい。一緒に行動して、いざと言うときは盾になれ。それがSPだ。あ。寝るときは別の部屋な。」「はい、おねえさま。」
伊豆のホテル。伝子との通信を終えた物部と栞は、フウっと息をついた。
「と、いう訳だ。三島大社と修善寺をお参りしただけで充分疲れたな。一緒に温泉入って、一緒にメシ食おう。」と物部が言うと、なぎさは素直に「はい。」と返事をした。
露天風呂に物部と栞が入っていると、なぎさが入って来た。二人は唖然とした。手ぬぐいは持っているが、前は隠していない。
「一佐。前はー隠してね。混浴は問題ないけど、一朗太は男だから。」「はい。失礼しました。粗末なものをお見せして。」「いや、そういう訳では・・・。」と物部は言葉を失った。
夕食のため、栞はなぎさに一緒に食べよう、と誘った。仲居さんが用意をして部屋を出て行くと、なぎさは小皿に料理を少しずつ入れ、味見をした。「大丈夫です。」物部と栞は、ぎこちなく笑った。
「ねえ、一佐。気を悪くしたら、ごめんなさいね、一佐は結婚しないの?」と、栞が尋ねた。「長谷川伝子先輩のことを気遣ってくれているんですね。特に一生結婚しないとか男は用がないとか、そんなポリシーはありません。」
「一佐はほら、忙しいから。お前も気が利かないなあ。」「悪かったわね。結婚ラッシュが続いたら、秋には出産ラッシュが続くから聞いたんじゃないの。ごめんね。」
「相手がいれば、結婚も出産もするかも知れません。叔父の勧める見合い相手が、どうも性に合わないような方ばかりで。」「ほらー。陸将もちゃんと一佐のこと、考えてくれているんだよ。俺たちがヤキモキするのは僭越だよ。」
「あのー、私からも少しお伺いしてもよろしいですか?」「何でしょう?」「物部さんご夫妻とおねえさま、それと高遠さん、依田さん、福本さんは学生時代の部活の仲間だとお聞きしていますが、そんなに長く続くものなのですか?お付き合いは。」
「一佐は我々の絆が珍しいものかどうか、と思っている。一般的なことは分からない。だが、確かに部活の延長みたいな付き合い方をしている。結論から言うと、関係が再結集みたいなところだな。普通は、同窓会でも開けば一時的に学生に戻るものなんだ。我々は事件が関係を再結集したようなものだ。依田と高遠と福本は、時々は連絡を取っていたが、それだけだった。高遠と大文字は再会し、愛が再燃した。高遠を応援している依田と福本が頻繁に大文字家に来るようになった。俺や栞は、その後の事件で再会し、3人の後輩と大文字に会うようになり、お互いに助け合うようになった。」物部の説明に、「偶然、ということですか。」となぎさは尋ねた。「そうだね。」
「実は、五十嵐伝子先輩は、高校の先輩でした。先輩に誘われて、自衛隊に入りました。叔父の影響じゃありません。五十嵐先輩のことは、高校の時から好きでした。私はLBGTでした。でも、五十嵐先輩は、高遠さんが言うところの『スタンダード』でした。私が一時的に躁鬱病だったことは、聞いて貰っていますか?」「聞いている。」「私は、大文字伝子という、偉大な女性に救われました。だから、おねえさまと呼ばせて貰って、慕っています。機会があれば、『スタンダード』な恋愛をし、結婚をするかも知れません。」
食事が終わった後、なぎさは自分の部屋に引き上げた。「ねえ。一朗太。明日、帰ろうか?」「いいよ。子作りは、家の方が捗るだろうし。」
事件は夜中に起った。誰かが部屋にいることを栞は感じた。なぎさではない。
栞が動こうとすると、枕元に出刃包丁が刺さった。物部が明かりを点けた。その物部目がけて、抜いた出刃包丁を中居が刺しに行こうとした。なぎさが取り押さえた。
「物部さん、フロントに。」物部は頷き、フロントの番号を押した。
中居は泣き崩れた。支配人補佐の、穂積が「有田さん。なんでこんなことを・・・。」
翌朝。物部達が朝食バイキングを食べていると、支配人の吉田がやって来た。「申し訳ありません。物部様。早めに出発されるとか。小田社長にも伊豆をご案内するよう、言付かっておりますので、僭越ながら、ホテルの車でご案内出来れば、と用意してございましたが。」
「いや、気を悪くなさらないで下さい。今日は雨ですし、また利用させて頂くとして、予定を繰り上げることにしました。」「では、これを。」と吉田が用意したのは無料クーポン券だった。物部は事件のことは口に出さないことにした。
列車の中で、なぎさは物部達に報告した。スマホで、伝子達にもテレビ電話で中継した。
「病気で一時療養していた、中居の小暮道代は、ある日、宿泊客の男に大金を渡され、依頼されたそうです。療養費が嵩み、金に困っていた道代は金を返しそびれたそうです。」
「やはり、やつらか。」「はい。それと、大阪のホテル火災の犯人は、あのホテルの元従業員だそうです。おねえさまが、バイトの格好の法被だけを見て違和感を覚えたのは、元々の従業員だったからです。南部興信所のお手柄ですね。コロニーの時に借金が出来て、ある男に金を渡され、再就職しました。支配人が替わっていたから知らなくて、ウチの従業員じゃない、と言ってしまった、と支配人が謝っていました。伊豆の中居の有田は、旅行が延期になった為、殺さなくても良くなった相手がやって来た、と言っていました。」「義務感か。その男っていうのが前畑か。」「ええ。でも、大阪の方の犯人は、前畑のことを知らない男だ、と言ったそうです。」
スマホから伝子の声が聞こえた。
「すると、死の商人は複数いたことになるな。全く油断出来ない。なぎさは、物部達を送り届けたら、帰れ。それから。物部。理事官から要請があって、自宅マンションの鍵を交換した。鍵は留守番をしている、馬越、右門から受け取ってくれ。」「安全第一か。」「その通り。私の独断で決めた。他の者は責めないでくれ。」
「誰にも責めたりしないわよ、伝子。ねえ、あなた。」と言いながら、栞は物部に寄りかかった。
物部は何も言わなかった。なぎさは通信を切って、「今の内にお二人とも仮眠をとって下さい。」と言った。
物部と栞は約2時間、深い眠りに入った。
物部のマンション。各部屋は掃除され、整頓されていた。「すまないなあ。鍵だけじゃなく、掃除まで・・・待てよ。」と、馬越に言ったが、「改造はしていませんよ、盗聴器もなし。ただ、緊急ボタンは炊飯器の奥にセットしてあります。DDバッジと同じ仕組みです。」と、なぎさが言った。
3人が帰ると、「出前取ると、怒られるだろうなあ、危険なのに、って。」「こういう時はね、栞、腹減った、って言えばいいのよ。カレーでいい?」「いい。」
伝子のマンション。「ところで。物部に、なぎさの裸を見せる案はどっちが出した?」と、伝子は、あつことみちるを見比べて言った。二人はお互いを指さした。
「ちょおと来い。」と伝子はあつことみちるの耳を持って、奥の部屋に入った。
福本夫妻と養田夫妻、山城、服部、瞳は『這々の体』で出ていった。
高遠が治療セットを用意すると、「婿殿。引き受けたわ。終わるまで覗いちゃダメよ。」と、綾子がウインクして受け取り、奥の部屋に消えた。
「またやらかしたの?」と、藤井と編集長が入り口で高遠に言った。
頷いて、高遠は、藤井と編集長に煎餅を渡した。煎餅をかじりながら、3人は、じっと様子を伺っていた。」
―完―
大文字伝子の休日12 クライングフリーマン @dansan01
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