第36話 虚仮落とし
一方ここはヒメノとトゥルースが対峙している部屋の真下。
アズミを庇ったガクリンが彼女に覆いかぶさって倒れていた。
直感的に防ごうにも当たるだけで危ないと判断したガクリンは床を貫いて下に降り爆発の衝撃を和らげたのだがそれでも全身がズタズタである。
すぐ下にミオが待機していなければ命も危なかったであろう。
「これでわたしはヒメノちゃんを手助けできないね。ただでさえ病み上がりで本調子じゃないのに」
すぐさま大怪我をしたガクリンに活気の術をかけたミオはボヤく。
「俺に構う暇があったらヒメノを助けてやってくれ」
「黙って寝ていなよ好青年。このままじゃ死んじゃうよ。それにヒメノちゃんなら無事だよ」
「なんでそう言い切れる。さっきまで眠らされていたぞ。アイツに襲われそうだったし」
「キミは感じないのか」
「何を?」
「ヒメノちゃんの怒りさ」
ミオが言うように怒りに満ちたヒメノの精気は下の部屋まで届いている。
彼女はガクリンらが爆発によって消し炭にされたからだと推測していた。
そんな状況で届く一本の矢。
ミオはそれをヒメノが無事だからこそ飛んできた流れ矢だとアピールするように抜き取ってガクリンに見せた。
「ほらね」
だがそれを見たガクリンは違う意味を見出していた。
「ちょっと貸してくれ」
小首を傾げながら矢を手渡すミオの前でガクリンは意識を集中する。
彼がヒメノとの組打ち稽古で何度も披露した見切りの剣気術。
欠点の距離を補う手段としてヒメノが差し伸べたのは自分からも伸ばした精気のパスだった。
自分の精気とヒメノのそれが繋がったことでヒメノの状況を知覚したガクリンは怪我を押して立ち上がる。
ヒメノが助けを求めているのに寝ていられるものかと。
「やっぱりそうだ。これは単に偶然飛んできたモノじゃなくて俺に合図を送るために意図的に狙って届けたモノだ」
「そのパス……もしかしてストーンヒル王国近衛騎士団に伝わる剣気術ってやつ?」
「ああ。それに壁越しでも攻撃するのにうってつけの技もあるんだ」
剣を杖代わりにして立ち上がったガクリンは大上段に構える。
狙うのは壁越しでの虚仮落とし。
しかしチャンスは一度だけなので構えたガクリンは息を整えて合図を待った。
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