第4話 四聖痣
夜明けとともにオバタを出発したヒメノはストーンヒルの王都パチゴーを目指す。
その頃、ミュージンと相打ちになった仲間の情報を伝えるべく、生き残った能力者が飛ばした伝令がサンスティグマーダーの本部に到着した。
徒歩で移動したら10日はかかる距離なのだが、それを半日で伝えられるのは風の痣が持つ力の賜。
霧に変えた精気にメッセージを乗せて飛ばすことで遠く離れた相手と会話をする伝心の術である。
「オバタにいる小隊から連絡が入った。ミュージンを見つけて交戦したが、火、水、土は相打ちになって死んだそうだ」
報告を受けたのは同じ風のサンスティグマを持つ始まりの四人の一人シロガネ。
伝心の術を考案した斥候のエキスパートで、それぞれの痣を持つ人間を四人一組にして運用することを提案したのも彼である。
彼の考案したマニュアルに従ってミュージン襲撃の際には安全地帯で待機していた彼の部下は仲間が相打ちになったのを知ると、現状を本部に報告するとともにヒメノの追跡を開始していた。
「相打ち? ではアイツのサンスティグマはその風が死体から引き抜いたか。まったく、お前のところばかり大手柄というのはシャクにさわるな」
「そうイキることはないですよ火師父。風組は生き残りを徹底させる過程のシゴキも徹底していて裏切るなんてありえません。帰ってきたらアタシら三人で競争して、改めてソイツからサンスティグマを奪い取ればいいじゃないですか」
「元風組らしい意見だが、そういうミオちゃんも喧嘩早いのを治さないとオクチョウの旦那が草葉の陰で泣いているぞ」
「逆に土師父は陰険だねえ。自分だって罠を仕掛けて奪う気なくせしてさ」
「残念だったなお前ら」
お前らとはシロガネが呼び出してこの場にいる他三人のサンスティグマ持ちのこと。
始まりの四人のうち火のサンスティグマを持つ隻眼の男カグラと土のサンスティグマを持つの初老の白髪男アポトー。
そしてその二人を火師父、土師父と呼んだ若い女が、始まりの四人だった父オクチョウから水のサンスティグマを受け継いだ紅一点のミオ。
それにシロガネを加えた四人がサンスティグマーダーの最高幹部「四聖痣」である。
シロガネの報告でひとまずミュージンの痣が手に入ったと考えて、仲間内での奪い合いを想像していた彼らには続く報告は肩透かしであろう。
「痣はヒメノという小娘が受け継いでいるようだ。ミュージンの娘でアイツを看取った際に渡したようだ」
「アイツに娘がデキたとはねえ。嫁の顔が見てみたいわ」
「いや……ヒメノと言えば15年前に拾ったあの子のことだろう。ミュージンはあの子に入れ込んで、俺たちのところからが出ていくときに連れて行ったからな。当時はまだ物心もついていなかった幼子が大きくなったというだけの話よ」
「いわゆる義理か。でも娘だって言うんなら、ミュージンさんが死んでアタシらのことを恨んでいるんじゃない?」
「父娘仲が最悪だった反抗期娘が言えた口かよ」
カグラが言うようにサンスティグマーダー内の公然の秘密としてミオは父親と仲が悪く、オクチョウが死んで彼女が水のサンスティグマを受け継いだのも、彼女の謀殺によるものだと思う人間もいるほど。
実際ミオは元風組とさきほど呼ばれたように、父親への反抗からかつてはシロガネ配下「風組」に所属していて風の入れ墨を貰えるだけの信頼を得いる。
彼女もシロガネのことだけは「シロ様」と呼び特別な思いを抱いていた。
「そう昔のことをイジるんじゃないよカグラ。ミオだって人の子さ。年頃の近い彼女が言うのだから、カグラやアポトーもそのつもりで差し向ける部下を選んでくれ」
「サンスティグマを得たばかりの素人。ただし復讐心はトビキリか」
「手負いの獣と思えばよかろう」
「だな」
三人はヒメノを追う風に合流させる火水土を本部にいる中から選別すると馬を手配して彼らをオバタに送り込んだ。
特にミオが選んだ水はカグラやアポトーの反発を受ける格好になったのだが、シロガネの沙汰がそれを鎮める。
沙汰に納得した二人は自分らのどちらかがミュージンのサンスティグマを手中に収めると皮算用を始め、ミオは二人を冷めた目で見てからその場を立ち去っていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます