004.レッツ・嫁イキング~初の嫁・シラユキ~
AIちゃんの回答を聞いて、オレは柄にもなく大口を開けたまま叫び声を全力で吐き出してしまった。
「んなっ!? ちょっ、ちょちょちょマジッ!? つっ、つつつ作れるにょかっ!? AIちゃんの身体をっ!? オレの理想の嫁をっ!?」
驚きのあまり心臓の鼓動が一気に跳ね上がって、役者としてはありえないほど……かつて無いほどに動揺したせいで呂律まで回らなくなってしまっていた。
『はい。私は自律制御型航宙艦インターフェイスシステム。ある意味で当艦そのものが身体ともいえますが、システムとしての私は電子的に存在しているのみでございますので、別途で作成した身体を外部インターフェイスとして利用することは可能です。それがリン様のお望みであるならば』
「いやいやそういうことじゃなくてだなっ!? いやいや、そりゃ『お望み』なんだけどさっ!? そもそも身体って……人間そのものだよなっ? 作るってそんな簡単に……できるのかよ……?」
クローンがどうとかは言ってた気がするけれど、人を、イチから作り上げるなんて……しかもAIちゃんの言い様だと外見まで自由にできるってことだろ……?
『はい。『簡単に』という定義は技術的なお話になりますので今は省きますが、当艦の特別製MCであれば、リン様が想像できるものであれば『何でも』作成可能です』
「マジか……マジなんだな……!?」
『ん? いま何でもって』とオタク特有の脊髄反射でネタを繰り出すことさえ忘れ、耳元で鳴っているかのような心臓の鼓動の奥から、ジワジワと期待感が湧いてくるのを自覚した。
『はい。私の存在意義、それはリン様のためにございます。そこにはリン様の肉体的・精神的な健康状態を保持することも含まれますが……ここ数日のリン様は感情値のプラスマイナスが不安定で、私はその役割を十全に発揮できているとは言えませんでした』
「むぅ……」
ここ数日……あのカレーを食ったときから、だろうな……。
このオレがそんな……と言いたいところだが、感情値とやらで数値化されてそれを指摘されると、何も言い返せない。
『しかし、リン様がその『嫁』というものについて考えていらっしゃる時は、感情値がプラスで安定しておりました。私がその『嫁』となることでリン様のためになるのでしたら……リン様がそれを望まれるのであれば、それは可能――いえ、人の感情に置き換えれば、それは私にとってとても嬉しいことです』
「お前……なんだかすげぇ可愛いやつだな……」
『ありがとうございます、リン様』
オレの記憶を通じて学習が進んだのかどうかは分からないが……これまでとは違い感情が籠もった声で『オレのためになるのが嬉しい』なんて言われて、喜ばない男はいないだろう。オレは男の娘だが。
そんなことを言ってくれるAIちゃんなら、オレの夢を……理想の嫁を体現してもらうに相応しいかもしれない。
「しかし、なんだ……。その、人間を作り出すなんて、本当に大丈夫なのか……? 倫理観とか宇宙の法律とかどうなってるんだ……? オレ、AIちゃんが理想の嫁になってオレの目の前に現れたら……絶対に我慢できないぞ? もちろん性的な意味で、だ。自分で作った人間にそういうことをするなんて、なんかエロいことするための奴隷みたいで都合が良すぎるんじゃねぇのかと……」
異世界転生ものの小説とかを読んで『オレもカワイイ奴隷ちゃんでハーレムとか作ってエロいことしてぇ~』とか思ったことは当然あるが、これでも20年ちょっとを現代日本で過ごしてきた身だ。
この宇宙船とやらで目覚めてまだ数日。
身に染み付いた倫理観とか常識などが、目が覚めたら超未来の宇宙にいたなんてぶっ飛んだ状況でもオレの中に最後の砦のように存在していた。
『はい。リン様がご懸念されているようなことは、倫理上でも法律上でも問題ございません』
しかし……宇宙の広さの前では、そんな最後の砦もあっさりと崩れ去ってしまう。
『私がリン様が想像されている身体を手に入れた場合、人類の分類上では改製人類にあたりますが、そもそも改製人類は起源は人の手によって創り出されたものです。目的は様々ではありますが、例えば現在も労働力確保のためなどで生み出され続けていますし、リン様がおっしゃるような生殖行為の相手や配偶者――伴侶として生み出されることも、ケースとして稀ではございますが存在しております』
「なるほどな……宇宙の広さに対して人の数が追いついていないってことか……」
表現は淡白だったが、ご丁寧に『えっちなお相手』や『嫁』として創り出しても問題ないとまで言われてしまったし……。
そうだな、うん。
『郷に入っては郷に従え』と言うし、きっとそんなことを気にするオレのほうがおかしいんだな、うん。
「AIちゃん」
『はい』
「確認だが、オレがそこのMCで身体を創ったとしてAIちゃんの意識は……人格はちゃんとその身体に宿るんだな?」
『はい。通常は作成する際に設定されたある程度の人格を持って生まれてくるため、別で存在するものを移行するというやや特殊な工程が必要になりますが、私は私としてその身体を当艦とは別の外部インターフェイスとして利用することになります』
「わかった……そこまで言うなら、オレはもうためらわないぞ?」
夢を、理想を叶える手段が、目の前の特別製MCにはある。
そんな状態で『倫理的にも法律的にもオッケー!』なんて言われてしまって、オレはもう……ワクワクが100倍になって押し寄せてきてこの宇宙(パーティー)の主役にでもなったって気分だ!
『はい。どうかリン様のお望みのままに』
「よっしゃ……! オレの理想の嫁創り、やったろうじゃねぇの……!」
『はい。ただ専門知識がないままの人体の作成では人の想像が及ばない部分もありますので、専用の作成プログラムを利用したマニュアル作成をお勧めいたします』
「ん……? あぁ、そりゃそうか。全部思いのままってことは、人体機能までちゃんと理解していないとヤバいことになりそうだもんな……」
『私の妄想力は無限大です』と言いたいところだが、流石にオレに詳しい医学的知識なんてないし、人体構造に造詣が深いわけでもない。
失敗しないためにも、ここはAIちゃんのおススメ通りマニュアル操作とやらで創るのが良いだろう。
「わかった。そのマニュアルプログラムは……あぁ、これか」
決意を固めてどうすれば良いか聞くと、脳内にAIちゃん経由で『生体作成プログラム・改製人類編』というような内容の実行プログラムが送られてきた。
『はい。作成に当たり法的に制約がある箇所がございまして、そちらについてはマニュアルに記載がございますのでご一読ください』
「おっけー。よし、そうと決まればさっそく……」
待ってろよ……必ず最高の嫁を作り上げてみせるからな……!
余計な情報を頭に入れないために目を閉じたオレは、気合十分でプログラムを起動する。
「(……おぉっ……!?)」
プログラムを起動すると、まるでネトゲのキャラクタークリエイトのような画面が展開された。
『ようこそ』という一文が大きく表示され、その後に各種設定画面がタブで分けられて表示されている。
その設定項目は無限とも言えるほど多岐にわたっていて……控えめに言っても最高だった。
キャラクリを売りにしてたゲームなんて目じゃない。
まさしく人間1人をイチから作り上げるための圧倒的な項目数。
これなら……もしかしたら、既に最高だと思っていたネトゲの嫁以上の、もっと最高で素晴らしい出来にできるんじゃないか……!?
……いや、する! やるぞやるぞオレはやるぞ!
あ、AIちゃんが言っていた法的な制約ってやつは……これか。
せっかく創り上げた嫁を『これは違法嫁です。ボッシュートでございます』とかされたらオレは泣くどころか死ぬしかない。
法律はきっちり守らなければな。海賊版はダメダメ。
ありがたいことに文字は勝手に日本語に脳内変換してくれているようで、オレは上から順に法的な制約とやらを読み進めていった。
販売目的で製造してはいけません(人身売買は禁止)とか。
自立能力がない状態のもの(赤ちゃんとか)を製造する場合には保護責任を負うとか。
過度な攻撃性をもたせるのは生体兵器扱いになるので禁止とか……。
『そりゃそうだろ』とツッコミたくなるような色々とぶっ飛んだことが書いてあったが、オレがこれから創り上げる嫁に関係しそうなのは、最後の方に書いてあった共通項目だけだった。
そこには『新たに改製人類を製造する場合には、外見的特徴として純正人類とは区別できるような特徴を設けること』とある。
純正人類は……つまりは普通の人間だ。
ここに書いてある限り、改製人類は動物の特徴を持っていたり、耳の形が違ったり、腕が多かったり……ファンタジーで言うと亜人種とか獣人種みたいな特徴を持っているらしい。
そして記載されている耐稼働年数……つまり寿命がベラボーに長い。
気になってMIM-NETとやらで調べてみると、この宇宙の人類の寿命は遺伝子的強化が無いもしくは控えめな純正人類でも200年とか300年、ガチガチに強化されている改製人類とかの長いものだと余裕で500年を超えるらしい。すげーな未来。
そしてどうやら『つよつよ遺伝子』をもつ基幹人類とやらのオレも、それくらいかそれ以上に生きるようだ。すげーな宇宙。
話を戻すと、外見的な制約があるということだが……むしろオレにとってはバッチコイだ。
合法的にネコ耳っ娘やエルフっ娘を創ってもヨシ!ということだからな。
ますますみなぎってきた。草が生えそうだ。
「(さて……やるか……!)」
そうして注意書きを閉じると、オレはいよいよ嫁の製作にとりかかった。
中央に表示される現在の作成状況を見ながら……まずはネトゲの自キャラ嫁のおおまかな再現だ。
全体を創り上げてイメージを固めながら、最後に調整に調整を重ねてこだわり抜いていく。
この工程はネトゲのときと変わらない。
身長……。
オレと並んだときに頭半分ほど小さくなるように。160cmくらいか?
顔……。
目指すのは可愛いと綺麗の絶妙なバランス。これも調整は後回しだな。
髪……。
色はやっぱり純白だ。汚れのない白こそ最高。
現実にはありえないからこそ素晴らしい。
あ、銀ではなく白だ。異論は認める。
二次元美少女の髪色で『白髪』と書いて『しらが』と読むヤツとは一生友達になれる気がしない。『しろかみ』か『はくはつ』だろ常識的に考えて。
長さはロング。それも結構なロングだ。オレが髪を下ろすと尻にかかるくらい長いから、バランス的にはお揃いを目指そう。
長いといろいろといじって楽しめるんだよな……コスプレもしやすい。
目と瞳、睫毛……。
目は、顔の中でもものすごく大事なパーツだ。
優しくて、オレのことを愛しげに見つめてくれるような……そんな瞳を目指そう。
瞳の色は、銀色だな。こっちは白くしすぎると少し怖く見えてしまう。キラキラとして透き通った……吸い込まれそうな瞳。
たっぷり睫毛で長めなのは基本だ。オレも親の遺伝子のお陰でそうなっている。ありがたや遺伝子。
眉毛……細め。
鼻……可愛らしい小鼻で。ここも顔全体を見ながら要調整だ。
唇……小さめで、でも柔らかそうな感じで……吸い付きたくなるような。
舌……なんてのもあるのか。この舌で……ふむ。妄想が捗るな。
頬……これも重要だ。顔のラインに関わってくるから、丸すぎると可愛い系によりすぎるし、シュッとしすぎると美人系に寄りすぎてしまう。おおまかに決めたら、後で要調整だ。
…………。
……………………。
………………………………。
「(…………ふぅ)」
とりあえず顔の基本形はこんなところか。
ん……あれ? もうまる一日経ってたのか……。
まぁキャラクリに時間をかけるのも基本だ。
途中で別のことをするとイメージが崩れそうだし、このまま続けよう。
待ってろ、オレの嫁……!
次は首から下だ。
首の細さ……肩の細さと腕の細さのバランス……きれいで女の子らしく見えるような指……おかしくならない程度に細く、最小限の肉付きのお腹周り……。
そして、顔と同じくらい重要ポイントと言えるのは!
胸……おっぱいだ!
形は……この嫁を再現するならお椀型。
大きさは当然大きめで。小さいのも好きだが、大きい方がもっと好きだ。
ただ体のバランスを考慮して、巨乳ではあるけれど爆乳にはならない程度のラインを維持する。正統派の嫁を目指しているし、不自然に大きいのは美しさを損なうからな。
お腹周り、腰回りとのバランスも考慮しなければならない。
や、柔らかさだと……そんなの触ってみないとわからないだろうがっ……!
いや、これも吟味を重ねなければ……。
乳首……そりゃ当然、設定できるよな。
割りと小ぶりが好みだ。ちょこんとして可愛らしく、ほんのりピンク色くらいで……。
尻は……小ぶりだが肉付きはいい感じで。
太ももは……触ったときに程よい弾力があるくらいの細さ。
この嫁にむっちりは似合わない。これも腰や尻とのバランスが大事だ。
あと基本的なところで触ってないのは足だけ……じゃないだとっ!?
なっ……!? 完璧美人で美少女なオレでも唯一無い、正真正銘の女の子の証のひとつ……アソコまで……!?
なになに……生理的機能としてどこまで機能をもたせるか……?
排泄……当然必要。食べられるようにするんだから出るところも必要だ。
生殖機能…………言うまでもないさっ!
え? 形は内外ともにしっかり作りつつ、機能は後付が可能……? もしくはオンオフが可能……?
子供は……別に今はいい。大事なのは愛だ。その行為だ。
ずっと嫁とイチャイチャしていられるならオレはそれで……。
…………。
……………………。
………………………………。
「…………で……でき、たぁっ……!」
集中、しすぎた……頭がクラクラするぅ……。
調整に調整を重ね、手を入れていない部分がないほどにこだわり抜き……気がつけばプログラムを起動してからぶっ続けで三日間という時間を使っていた。
我ながらアホほどこだわっている。
しかし、しかししかししかしっ!
そのおかげもあって、オレの頭の中にはいまっ、完璧を超えた完璧な嫁の姿がッ……!
『……様、リ……ま。リン様?』
「うへへっ……ぁっ……ああ、すまん。なんだ?」
集中していた状態でハイになっていたのか……ようやくAIちゃんが語りかける声を認識することができた。
もしかしたら何度か話しかけてくれていたのかもしれない。
『完成されたのですか?』
「あぁっ……! かんっっっっぺきだ! これを……実行すればいいんだな?」
『はい。ただ人体という複雑な構造を生成しますので、これまでのように実行してすぐに完成するわけではございません。システムを――私の意識を身体に移す処理も必要となります』
「わかった……ゴクリ……よし、『実行』っ……!」
専用のプログラムから製造開始を選択すると、これまでで一番規模がデカい処理が頭の中で走り回り、部屋の中のMCが輝き始める。
「……これで、ついに……」
この光が収まる時……オレの夢が、理想の嫁が、オレの前に現れてくれるんだ……!
『お疲れ様です、リン様。血中糖度や水分量が著しく低下しています。意識レベルも危険域です。完了まではお時間がかかりますので、どうか水分とお食事を取ってお休みください』
「……わかった……そう、させてもらうよ……」
正直に言うとこのまま出来上がりまで眺めていたい気はするが……気を抜けばすぐにでも意識がぶっ飛んでしまいそうだ。
結局オレはAIちゃんの――最後の最後で新しい名前を与えることに決めた嫁の言う通りに、眩しい青白い光を見ながらなんとか水を飲んで、試しにと作っていたゼリー飲料を流し込むと……そのままベッドに倒れるようにして眠りについたのだった……。
*****
「(あ、れ……?)」
ああそうか、オレは寝てたんだった……。
なんだろう、温かくて……柔らかい……。
これがもし冷たくて硬かったら……また目が覚めたら知らないところにいるなんてことがあるかもしれないが……。
これならそんなことは無いだろうし、なんだかとても安心する温もりだ……。
フワフワと漂うような意識が、その優しい温かさに引かれて浮上していくのを感じる。
もうずっと、目が覚めるという瞬間はオレにとっては嫌なものでしかなかった。
どんなに良い夢を見ていても、目を開けば絶望した現実が待っていたのだから。
でも、今日なら……この温かさの中でなら、最高の目覚めになりそうな気がする。
さぁ……目を、開こう――――!
「ぅ……」
開いた目に天井の明かりが差し込み、思わずオレは目を細めてしまった。
すると、ぼんやりとしていて焦点が合わない視界に、大きく何かが写り込んでくる。
「……あ、リン様! おはようございます。お目覚めになられたのですね」
焦点が合ったオレの視界いっぱいに映っていたのは、オレの夢そのもの……いや、現実となった嫁がオレの顔を覗き込み優しく微笑みかけてくれる、そんな姿だった。
輝く白髪が眩しく、その愛しさすら感じるオレ好みの顔をいっそう輝かせているようにみえる。
後頭部に感じる絶妙な柔らかさと温かさは……どうやら寝ていたオレを膝枕してくれていたようだ。
服をまだ作っていないからだが、一糸まとわぬ裸で膝枕というのがまた夢のシチュエーションじゃないか。
視線を少しズラせばこだわり抜いた柔らかそうで程よく大きい胸に、その先にある桜色の果実まで丸見えだ。
「あぁ……おはよう……ははっ……こりゃいいな、ありがとう。おかげさまでオレの人生で最高の目覚めだ……」
「ふふっ……それは良かったです」
「お、おう……」
愛おしそうにオレの頭をそっと撫でながらまっすぐに微笑みかけられ……なんだか柄にもなく照れてしまった……。
こんなまっすぐにオレに優しくしてくれる女の子が……嫁が本当にここにいるなんて……。
「ありがとうございます……リン様。私を生み出してくださって……」
眼の前に目に見える形でそれが現れたせいか、それとも何か別の要員があるのかは分からないが……オレには彼女が纏っている雰囲気だけでなく話し方まで変わっているように思えた。
「きゅ、急にどうした?」
「リン様が私をお創りになられているとき……私がこの身体に――私が私になったときに……リン様がどれだけ私を愛してくださっているかが伝わってきたのです。本当の感情を……こんなに必要とされる嬉しさも、お一人でいるということの寂しさも、リン様のおかげで知ることができました……」
「あぁ……いきなり泣くなよ……」
オレの頬にポツリと、その瞳の端から温かな涙がこぼれ落ちてきた。
「これは……嬉しい、のでしょうか……。すみません、まだ感情が不安定で……リン様の想いが私の中でいっぱいになっていて……」
「そうか……。気にするな、これからゆっくり……分かっていけばいいさ」
この娘の感情はオレ自身の感情を元にしたものらしいから、なんだか気恥ずかしい気もするが……オレはその涙をとても綺麗で愛おしいと思った。
「ありがとうございますっ……。リン様、私はリン様の手で生み出され、私として生まれ変わりました。これからもずっと変わらず、私の全てはリン様のものです――マイマスター」
「……あぁ……」
――なんで……
「マスター、あなたの命尽き果てるその時まで、ずっとずっとお側におります。いえ、いさせてください……!」
「あぁっ……!」
――なんでオレは……
「決して、マスターをお一人にはいたしません。マスターが寂しい思いをすることなどないように……私はマスターを愛します。マスターも、どうかお望みのままに私を愛してください」
「っく……あぁっ……あぁっ……ありが、とうっ……!」
――なんでオレまで、泣いてるんだよぉ……!
「っ、ありがとう……オレの夢を叶えてくれて……。オレの心に触れてくれて……オレを独りにしないと、愛すると言ってくれて……!」
その言葉は、自分に向けられるその想いは。
オレがついぞ手に入れることができなかった……望んでも願っても手に入らず、諦めてしまっていたもの……。
こんな嬉しくて、温かな気持ちになったのなんて……初めてだよくそぅ……!
本当の嫁がいるっていうのは……この感情こそが、愛しいってことなのか……オレのほうが元AIちゃんに教えられるなんてな……。
「マスター、涙が……」
「お前が可愛すぎて嬉しすぎることを言うからだっ……! オレも、ずっとお前を大切にするっ。絶対に守るからなっ……! この先何があっても、お前はオレの嫁だ――――シラユキっ!」
「あぁっ……それはもしや、私の……」
「オレの大切な、初めての嫁……お前の名前だ、シラユキ。オレの嫁なんだから、『シラユキ・サクラ』か」
「ステキなお名前です……ありがとうございます、嬉しいですっ、マイマスター……! ……んっ……」
ふたりして最高の笑顔なのにポロポロと涙をこぼしながら、オレたちは絶対に記憶に残るであろう初めてのキスを交わした。
その唇は、オレが設定した通り――いや、それ以上に柔らかく瑞々しくて、温かく、なにより……想いという最高の物質が添加されていた。
「……んっ……はぁっ……最高だ、シラユキ……」
「んんっ……ありがとうございます、マスター。マスターにそう言っていただけるように生み出してくださって……」
「とことん嬉しいことを言ってくれるじゃないか……」
「ふふっ……私も嬉しいです」
なんだこの最高すぎる可愛い生き物は。
あ、オレの嫁っていうんだった。
「……なぁ、シラユキ……」
オレは身体を起こすと、ベッドに腰掛けているシラユキの横にそっと近づき、ほんのりと上気している頬に手を当てて涙を拭ってやった。
「はい、マスター」
呼びかければ、微笑んで返事をしてくれる。
添えたオレの手にそっと手を重ねてきてくれる。
ただそれだけのことが愛しくて……。
「オレは……もっとお前が欲しい。……意味は、わかるか……?」
オレはとても穏やかな気持ちで、我慢の限界を告げた。
理想の嫁を手に入れたら……なんて妄想をしてた時は、いざこうなるともっとどす黒い欲まみれの何かが湧いてくるのかと思っていたけれど……実際には温かなものが溢れて止まらない感じなんだな……。
「はい……わかります。その……マスターの想いが、伝わってきますので……」
頬の赤みを強くして僅かに視線をそらし……そんな可愛らしい様子で恥じらったような仕草をする、もうどう見ても普通の女の子なシラユキは……。
「どうぞ……マスターのお望みのままに。私を、愛してください――」
自分からベッドに仰向けで寝転がると、オレを迎え入れるように……微笑んで両手をオレの方に伸ばしてきたのだった。
「っ――シラユキっ……!」
オレがどうしたら堪らなくなるかまで、どうやら熟知されているらしい。
「ぁっ……んんっ……!? ちゅっ、ちゅぅっ……ふぁっ……ちゅるっ、れろぉっ……んっ!? マッ、マスターっ……ぁんっ……!」
誘われるままにシラユキに覆いかぶさったオレは、愛しい嫁との初めての夜を迎えるために……オレの理想を確かめるように……。
強めに唇を押し付け舌を差し込むと、その身体をまさぐり始めるのだった……。
――――――――――――――――――――――――――――――――
あとがき
お読みいただき、ありがとうございます。
少しでも「性癖に刺さった(刺さりそう)」「おもしろかった」「続きはよ」と思っていただけたのでしたら、「フォロー」「レビュー評価」をよろしくお願いいたします。
皆様からいただく応援が筆者の励みと活力になり、更新が早くなるかもしれません。
ファンタジー世界を舞台にTS主人公が女学院で繰り広げる恋愛話もしっかりめのイチャラブも連載中ですので、合わせてお読みいただけると大変嬉しいです。
作者情報または下記URLよりどうぞ!
https://kakuyomu.jp/works/16817139554967139368
次回、「ファースト・ナイト~シラユキ~」
昨晩はお楽しみでしたね! とならないのが筆者の作品。
つまり、次回はえちえち注意(閲覧注意)です。
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