第一章 覚醒!男の娘の嫁創り!

001.とある男の娘の人生~追憶~

お読みいただきありがとうございます。


初日更新はここまでですが、明日からもよろしくお願いいたします。

※夜更新予定です

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 ――何もかもが、どうでもいい日々だった。


 オレ――佐倉さくらりんは、世間が新世紀だミレニアムだと浮かれているくらいの年に、役者の両親を持って生まれた。


 『親ガチャ』なんて言葉がある昨今の中では、他人から見れば恵まれた生まれだったのかもしれない。


 ただその両親が特殊すぎる人たちだったというだけで。


 父親が……いくつになっても少女にしか見えない可愛らしい見た目でとしてテレビやドラマで活躍していて。

 母親が……『おっぱいのついたイケメン』を体現する人でとしてミュージカルやドラマにファッション誌にと活躍していたくらいで。


 そんな2人から生まれたサラブレッドのオレだから……父と母の特徴を引き継ぎ、性別は男でありながら生まれてからずっと女の子にしか間違われない『男の娘』になったのも必然だったのだろう。


 両親はオレを溺愛し、自分たちの役者としての技のすべてをオレに注ぎ込み、小さな頃から現場に引き出しては子役などをやらせるといった経験を積ませた。

 小学生低学年くらいだったかのときには、国営放送で流れる連続テレビ小説の主人公のなんかもやったりして、世間でも学校でもそれなりに有名人になったりしていた。


 小さな頃のオレは、何の疑問も持たずに女の子の格好をしていた。

 役者の仕事でも、学校に通う時も。

 大人になったら母のように胸が膨らんできて股の間がスッキリするものなのだとさえ思っていた。


 ただその頃になると、どこにでも生意気なガキが湧いてくるようになる。

 あまり普通の子供と遊ぶという経験もなく、大人ばかりの世界で仕事をしていたので妙に礼儀正しく、ある意味で世間知らずとして生活してきたオレは同年代の子供からすると異質に見えたのだろう。


 見事にイジメられた。


 そうなるともう、あとはお決まりの展開だ。


 わけも分からずイジメられてピーピー泣き散らし、女の子は見た目が一緒のオレの味方をするから、そのことが面白くないイジメっ子連中からの当たりが陰湿になり過激化する。

 反抗期も手伝って自分の容姿を呪い、両親に当たり散らかし、数多くのオファーが来ていた子役も断ってそのまま役者も辞めた。


 有名子役が辞める原因となったイジメはワイドショーなどで大きく取り上げられ、学校側が謝罪会見を開くくらいの大事になったりしたが……ともかく、小学校後半のオレは手のつけられない子供だったと思う。


 そんなオレが最初に変わったのは、中学に上がってからだった。


 簡単に言うと、恋をした。初恋だ。


 役者を辞めて同年代と同じ感覚が身についてきていた頃で、あまり居ることがなかった自分の家の近所に住んでいることを知った可愛らしい娘に見事に惚れ、自分の中の男を自覚した。


 ヘンに恋愛については知った気になっていたので、男らしくすれば振り向いてもらえると思ったオレは、生まれた時から伸ばしていた髪を切った。

 そしてどんな男が好きかと聞き出し、『強くてカッコいい男の子』と言われたのを真に受けて、なにか武術を……と思って時代劇に出演したときにかじった剣道に精を出すことにした。


 そして毎日汗をかき努力して、三年生のときには中学生の部の全国大会で優勝した。

 勉強もしっかりと続け、その娘と同じ高校に受かることが確定してから、満を持して告白……したのだが。


『私、汗臭い男の子よりもぉ、キレイでぇ、どちらかというと可愛い男の子のほうが好きかなぁ~?』


 と、そいつは言いやがった。


 それでも惚れた弱みか、ならばと高校生活で目指したのはその娘が言うような……元の、一度は捨てた男の娘としての道だ。


 もう今思うと『いやいやソイツの言ってることおかしいだろ、やめとけよオレ』と思うが、恋は盲目とはよくいったものだ。


 中学の時に目指した男らしさなど全て消し去るため、髪を伸ばし直して女の子の流行を勉強し、もともと身についていた演技も手伝って女の子になりきった。


 なにをトチ狂ったかオレに告白してくる男どもをバッタバッタと切り捨て続け、そしてついに、敏感な高校生というお年頃にも関わらずオレが女子の着替えに混ざっても違和感なく受け入れられるまでになった。

 むしろオレが男子と一緒に着替えようとすると女子更衣室に引っ張っていってくれるくらいだった。


 その時のオレは確信した。今ならイケる! と。

 すべては、ただ1人の女の子を振り向かせるために……。

 努力してきたことが今、実を結んだのだ! と。


 そして告白するため、可愛らしい便箋に丸文字で書いた手紙を入れて呼び出しをして……しかし、彼女は待ち合わせ場所に現れなかった。


 というより、その日は学校を休んだ。


 純粋だったオレは『生理かしら? 体調が悪いならしかたないわね』なんて思いながらその日は大人しく家に帰ったのだが……その帰り道に、オレは現実に絶望することになる。


 帰り道、なんとなく見上げた愛しのあの娘の部屋は……閉め忘れたのかわずかに窓が空いていて。

 声でもかけようかと思ったら、家の前には男物のチャリがあって。

 聴こえてくるのは、ギシアンと励みに励んでいる知らない男とあの娘の声。


 オレの6年間の努力も、初恋も、あっけなく崩れ去り……オレは絶望し、見事に引きこもりになった。


 現実から逃げるようにオタク文化に傾倒し、失恋の反動からか主人公とヒロインが結ばれてイチャイチャするような物語に特にハマった。


 ああ、二次元の女の子はオレを裏切ることはない……なんて素晴らしいのか。

 女の子はやはり素晴らしいものだったのだと、そのまま男要素すらない百合ものにも傾倒していく。


 ゲームでは時間を忘れさせてくれるネトゲに特にハマった。


 ボイスチャットでオレが少し声を出せば、ホイホイとレアアイテムをくれる男どもを嘲笑った。

 大学を受験することすらせず日夜どっぷりとハマっていく内に、ゲームの実況配信の存在に出会い、なら自分もと手を出してから……。


 オレの世界は変わり、オレは今のオレになった。


 多くの配信者が3Dの美少女アバターを使って配信する中で、オレは素の見た目にちょっとコスプレでもすれば2.5次元美少女の出来上がりだ。

 オタク文化に精通しオタクが好む美少女の演技も身につけたオレに、敵はいなかった。


 当然ながら昔の知名度のせいで身バレは早かったが、『こんな可愛い子が女の子なわけない! リンちゃんはリンちゃんだ!』という謎のムーブが配信界隈では広がり、特に問題になることはなかった。


 そしてチャンネル登録者はどんどん増えていき、ついに世界一位となった……。


 オレは嘲笑った。


 これが、オレがここにたどり着くことが、俺が生きる意味だったのだと。

 とうにひん曲がってしまった性格を自覚しながらも、どうしようもなく快感を覚えた。


 一度配信をするだけでオレをチヤホヤともてはやすコメントと共に、そこらへんの人間では稼げないであろう投げ銭が懐に入ってくるのだ。


 本当に愛せるのは裏切らないものだけで、他人というのは男女の区別なくオレをいい気分にさせてくれる存在にすぎない。

 働かなくても、オレがいい気分になっているだけで、金はどんどん増えていく。


 オレは嘲笑った。


 しかし……そんな生活を何年も続けていたある日、冷める時があった。


 頂点に君臨し続けて一生遊んで暮らせるだけの稼ぎを得ても、買えないものはある。

 こだわり抜いて生み出し何度も抜いたネトゲの自キャラで嫁は、画面の向こうから出てくることはない。

 気に入って推していた配信者は、いつの間にかオレを推しにして再生数を稼ぎ、ゲストに呼んだうえに配信後に『ほんとに男の子なのか確かめさせてぇ♡』と自分から股を開く始末。


 人生とはこんなものなのかと、現実とはこんなものなのかと、全てがどうでも良くなってしまったのだ。


 その頃には両親ともそれなりに折り合いをつけていたが、今さら役者の道に戻ることも面倒で、適当に配信をしながらラノベに漫画にアニメにゲームと……ひたすら時間を潰して毎日を過ごしていた。


 そんなある日、オレの健康を心配した母親に、母親の知り合いがやっているという病院に連れて行かれることになった。

 特に断る理由もなく……というよりもあのイケメンに引きずられて、病院と言うより研究所ともいえる建物に入った。


 ……ああ、そこまではちゃんと覚えている。


 覚えているんだが……。


「いま、なんて言った……?」


『復唱。現在位置は超長距離型航宙移民艦SRY-K1の中枢ブロック、特別制御室。現在の当艦ノ座標は――』


 ――気がつくとオレは、なぜか宇宙船に乗ってしまっていたらしい。





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あとがき

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ファンタジー世界を舞台にTS主人公が女学院で繰り広げる恋愛話もしっかりめのイチャラブも連載中ですので、合わせてお読みいただけると大変嬉しいです。

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次回、「●●●しないと出られない部屋?~お目覚めは超未来~」

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