000.プロローグ-2~いつか咲くサクラ~

本日は次の第一章の1話まで更新いたします。

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//リン・サクラ//



 銀河共通歴10XX年☓月●日



 真っ暗な空間の中で、多くの女達が息を潜めて待機している。


 ここはサクラの船内、その上層部にある物資搬入用ゲートのひとつ。


 目的が目的だから仕方がないんだが、この船の中では珍しい地味で閉塞感を感じる場所だ。

 早く出たい……なんてオレが思っていると、この場において俺の周りを囲んでいた数人の女達が順番に声を上げ始めた。


「ますたー! コロニーからの誘導ビーコンを受信、自動入港システム起動、同期が完了したよーっ!」


「よしっ、じゃあもうクレハの操縦制御は必要ないな?」


「うんっ!」


 くりくりの瞳に赤毛のツインテール、フサフサのウマ耳にフサフサの尻尾をちょこちょこと動し、小柄な体型に見合わない大きなおっぱいを無重力空間でプルプルと揺らしながら報告をしてきた可愛い嫁のひとり――クレハを、オレは頭を撫でて労った。


「ん~~♡」


 褒めてもらえて嬉しいのか、俺の手にすり寄って子供っぽく目を細めて尻尾を揺らすのが愛らしい。


 今すぐベッドに連れて行ってそのおっぱいも撫で回してオレのニンジンさんを与えたくなるが、そういうわけにもいかないのが悔やまれる。


「既に管制局からの入港許可も降りております。どうぞご安心ください、主様」


「ああ、ユミネは美声だからな。管制官のヤツは驚いてたんじゃないか?」


「まぁ♡ くすっ、わたくしの声でよろしければ、主様あるじさまにでしたらいくらでもお聞かせいたしますわ」


 次に透き通る美声で報告を上げ鈴を転がすように微笑んだのは、膝裏に届きそうなほどの輝く金髪が眩しい超美人の嫁、ユミネだ。

 嫁たちの中では背が高く、スラッと伸びた手足と引き締まった細い腰、それでいて胸は大きさがしっかりとあって形の良い美乳で、尖った耳が特徴的。

 今は喜びの感情からかピコピコと動いていて、ファンタジー小説とかに出てくるエルフのような美人顔なのにも関わらず、そんな仕草がこれまた愛らしい。


 今すぐベッドに連れて行ってその耳を甘咬みしたりおみ足を舐め回したり頬ずりしたりして美声を上げさせたいが、そういうわけにもいかないのが悔やまれる。


「ふふっ。みんなお肌の状態もツヤツヤで、健康状態は良好ねぇ~。いいコンディションよ~♪ ……といっても、ここにいるみんなはわたしも含めてみ~んな、毎晩マスターちゃんから『あっつぅーいミルク』をい~っぱい飲まさせてもらってるからぁ、それも当然よねぇ……ウフフ♡」


「今夜から営業があるから……終わったらな」


「あぁン、期待しちゃうわ……♡」


 3番目に物欲しそうに絡みつくような熱い視線を俺の股間に向けながらそう言ったのは、ゆるふわな薄ピンクの長髪と爆乳を揺らし、先っちょのほうが膨らんだ黒いアクマっぽい尻尾を生やしたむちむちえっちボディなお姉さんタイプの嫁、モモカだ。

 期待しちゃうと言いながら指先を口元に持っていってペロリと舐める姿がエロ可愛くてグッとくる。


 今すぐベッドに連れて行って今夜と言わず今からそのやわらか爆乳で絞り出してもらって上からも下からも飲ませてやりたいが、そういうわけにもいかないのが悔やまれる。


「ん。艦載機隊は現在全行程の86%を完了した。調整したMIM展開装置の出力も安定散布中。あるじ、もうすぐ時間」


「ああ、それならよかった。宣伝のためにも、派手な演出は必要だからな」


 4番手に、閉じていた目を開き、瞳の中に電子の輝きを宿しながら静かに事務的な口調でそう言ったのは、銀色のMIM素子で出来た髪の上に金属質のメカっぽい狼ミミを乗せた小柄な無口クールタイプの嫁、シズクだ。

 そっけない口調でありながらも髪と同じ素材でできたフサフサ銀色の尻尾が揺れていて、オレに甘えたいけど気持ちを抑えているといった本音が見受けられていじらしいじゃないか。


 今すぐベッドに連れて行って激しい愛の全工程を120%出力で完遂したくなるが、そういうわけにもいかない。


「着港まであと60秒です、マスター。観客のみなさんは盛り上がっているようですし、キャストの娘たちも妹たちも準備万端ですね」


「わかった。接舷したら予定通り通用ゲートを繋げて、その後にタイミングを見てここのハッチを開放だ。お前に傷を付けたくないから、慎重にな?」


「イエス、マイマスター。ありがとうございます……♡」


 最後……5番手に綺麗なお辞儀をしながらオレたちの連邦における緒戦が近いことを告げてきたのは、オレが最初に創り出した嫁であり全ての嫁達の長女的な立ち位置にある、シラユキだ。


 純白のサラサラな長髪、普段はメイド服だからヘッドドレスが乗っている頭の上には髪と同じく純白のフワフワネコ耳、ゆらゆらと動く尻尾、オレの理想を全て詰め込んだ可愛くもあり美しい顔立ち、美しい形を保ちつつ大きくなりすぎないギリギリのラインを攻めたお椀型のおっぱい、キュッと引き締まったウェスト、小さめのお尻、むちむちではないが手触り抜群の太もも。


 オレが愛し、オレを愛してくれる嫁たちのまとめ役にして、この船……宇宙娼艦サクラとリンクする自律制御型航宙艦インターフェイスシステムが俺の理想で生まれたボディを得た姿……それがシラユキだ。


 信頼と深愛を全開にした白銀の瞳が俺を見つめ……オレの胸にも温かいものが広がっていくのを感じる。


 今すぐベッドに連れて行って一晩中かけて愛を確かめ合いたいところだが……そういうわけには、いかないんだよな……。


 なにせ今日はようやく……ようやくオレ達が連邦入りを果たす日なのだ。


 ここまで、長かったな……。


 ずいぶん遠いところまで来た気がする……なんていうのは昔読んでいたラノベとかだとありきたりな表現かもしれないが、まさかオレもそんな思いをすることになるなんてな……。


 色々あったが……この広い宇宙で旅を続けてきたオレたちの夢が……安住の地が!

 惑星を購入できる可能性が、この連邦にはあるんだ……!


 だからこそ……今日から始まる連邦での第一歩は、絶対に成功させないとな!


「――マスター、いけます!」


 オレが気合を入れ直し、胸につけた超高性能な偽乳の具合を確かめたり自慢の黒髪を整えていると、シラユキから合図が来た。


 その声で近くにいる5人の嫁たちだけでなく、この場にいる全ての女達の視線がハッチのすぐ前にいるオレに集まった。


 オレは嫁たちとの夜に惹かれそうになっていた思考を一瞬で切り替え、素になっていた声質を切り替え……宇宙娼艦サクラの女主人、リン・サクラとなる。


 何度も……それこそ地球にいたころから繰り返してきた、もはや無意識でも行うことができる行為だ。

 こういうところは、オレの中に流れる役者の血とやらが関係しているのだろうか……まぁ、今となってはどうでもいいか。


「――みんなっ、準備はいいかしらっ?」


『はいっ!』


 オレが向き直って声を張り上げると、それは何十倍もの大きさとなり返事として返ってきた。

 みんなの瞳に希望の光とヤル気がみなぎっているのを見て取ったオレは、大きく肯いてから再度声を張り上げた。


「貴女たちの夢のためにっ!」


『館長の夢のためにっ!』


「貴女たちの可愛さと美しさでっ!」


『館長の素晴らしい美でっ!』


「枯れてしまった人たちに、夢を届けにいきましょうっ!」


『はいっ!』


「夢を対価に……稼ぐわよっ! 搾り取るわよっ!」


『はいっっっ!!!』


「よろしいっ! シラユキさん、10秒後にハッチ開放よ!」


「イエス、マイマスター」


 恒例となった出発前の声掛けは……夢を叶えるための儀式みたいなもんだ。

 これ、いつ始めたんだっけな……まるでブラック企業の朝礼だなんて思った覚えはあるが、もう思い出せない。


 っとと、そんなこと考えてないで、オレが準備しないとみんな死んじまう。

 ネトゲ廃人みたいな考えだが、オレの場合は事実だ。


 ハッチが開放されることを知らせる警報をカウントダウン代わりにしながら、オレは自分の内側に意識を向け、展開した電脳領域でちょちょいと作業を完了させる。


 艦内や宇宙のどこにでも散布されているMIMミーム――ナノマシンのようなもの――がオレが組み上げ発信したプログラムに従って、この場にいる全員を包むように特殊な膜を形成していく。

 ついでに今頃は、コロニーのゲートウェイにあるスピーカーからゴキゲンな音楽が流れているだろう。これもちょちょいと拝借させてもらった。


『リンくん、シラユキさん! 周辺クリアだ! 今ならいいよ!』


「了解よ」


 展示飛行を続ける艦載機からの通信で船の周りが安全であることが告げられ――。


「3...2...1...ゲート開放します!」


 ――シラユキの合図で、オレたちはMIMバブル(オレが勝手に命名した)に包まれたまま宇宙空間に放り出される。


 真空中で瞬くことがない星たちに支配された、どこまでも続く闇の空間。


 うちの船に乗るようになってから最初の頃はキャーキャー言っていた女の子たちも慣れたもので、オレがMIM操作で1人ひとつずつのバブルに分割して宇宙空間を進ませても慌てた様子はなく、降り立つ先であるゲートウェイのほうをしっかりと確認していた。


 各員が入っているバブルの状態を表す変数とやらが脳内で目まぐるしく変わっていくが、それをなんとなくでねじ伏せて制御しながら、全てのバブルを気密シールドに突入させる。


 シールドによってバブルは弾けて消え、空気抵抗を受けてドレスの裾をはためかせながら、女の子たちは人口の重力とやらに引かれて落ちていく。


「キャーーッ!?」


 おー、驚いてる驚いてる。


 確かにそのままでは地面に叩きつけられることになるが、オレが居る限り大事な嫁やついてきてくれた女の子たちをそんな目にあわせることなんてないぜ!


 内側の電脳領域の出力を少し上げてやれば、本来は厳重に管理されているであろうコロニーの基幹制御系にもバレずにちょちょいと侵入成功っと。

 ピンポイントで重力制御に干渉しつつ、オレ自身からもMIMへ干渉して空間に力場を形成、見かけだけなら女の子たちは優雅にゲートウェイの中を飛び回ることができているという寸法だ。


 この演出は……なんだっけ、確か元のサクラと同じ宇宙移民船を舞台にしたアニメでやってたのを参考にしたんだよな。

 厳密には違った気がするけど、空から着飾った女の子たちがいっぱい降ってきて、歌って踊りだすって、なんか良いじゃん?


『降ろしますよ』


『はいっ!』


 適度に女の子たちを宙で舞わせて披露したあと、これまたオレ製の特定通信回線で合図を出してから、パレードで練り歩く列の通りに全員をゆっくりと着地させた。


「私たちっ!」


「「「宇宙娼艦うちゅうしょうかんサクラ!」」」


 そして華麗に決めポーズっと。


『うおおおおおぉぉーー!』


 いいぞ、いい感じに盛り上がってるな。


 何度体験しても、この瞬間の歓声と注目を集める快感はたまらないねっ。


 みんながみんな、オレや嫁たち・女の子たちを見ているんだ。

 自己肯定感やら承認欲求やらが一気に満たされて、脳内でドバドバと何かが生み出されている気がする。


 そんな捻くれた考えを頭の何処かで考えつつ、オレは手を一振りして通路にモデルが歩くようなランウェイを派手に作り出すと、気分良く一歩を踏み出した。


 オレに続いて女の子たちもそのランウェイを進み始め、練習したとおりにステップを踏み、クルクルと舞い……パレードを進行していく。

 合間合間でオレは組んであったプログラムで衣装チェンジを行いつつ――


「キャア~~! リンお姉さま~~!」


「……(ニコッ)」


 ――オレの気分を良くしてくれるファンへのサービスも忘れない。


 今の子は『お姉さま』なんて呼んできたから、大人っぽいカッコいい女性を意識した視線を贈っておいた。

 この辺りの演じ分けは地球時代から実践していたので慣れたものだ。


「キャーッ!? キャ~~!」


 前と比べると、ここのコロニーでは女の子の割合が多くなったか?

 店に来てくれたらオレとしては大変喜ばしいが……フッ、オレは高いぞ?


 ……っと、当然だがヤローも多いな。


 おいコラそこ、客とはいえオレの嫁をエロい目で見るなっ。

 そんな目を向けたり触れて良いのはオレだけなんだからなっ。


 ただ安心したまえヤローども。

 サクラは客であればちゃんともてなすからな。

 スッキリしたくなったら、後ろの方にいるプロのお姉様方が天国を見せてくれるだろうよ。


「……………………」


 ん……? なんだキサマ、オレをジッと見てるな?

 ……しょうがないにゃぁ~?


 あのヘンな視線がオレの嫁たちに向くよりはいいか。


 ええと、なんか真面目クンっぽいな……じゃあコレだ。

 踊りながら、妖艶な大人の女性の表情を意識して……流し目と微笑みをドーンとプレゼント!


 『オレ様の美に酔いなっ』なんてな。


「――――ッ!?!?!?」


 うーん、いい反応してくれるねぇ。

 新しく生まれた感情に戸惑ってるって感じだな。


 あれはいい客になってくれそうだ。

 ただすまんな、君が来てくれてもオレはそっち方面で絶対に男の相手はしない。


 オレの役目は超絶美人で絶世の美少女なこの見た目でトップを張って注目を集め、『あの店に行けばこんなイイ女と!』と思わせて店まで来てもらうことだから。

 それで女の子たちに仕事を振り分け金を落としてもらって、その一部を『アガリ』として頂戴する。

 俺も女の子たちもハッピーというわけだ。


 まぁ『なんであの女達が相手をしてくれないんだっ!』なんて言うやつもいるが……サクラだけに、ってね。

 未来人に言っても意味は分からないかもしれないが……それはともかく。。


 ぜひ横のヤツとお誘い合わせの上、ご来店をお待ちしておりますっと。


 そうして、嫁たちもサクラとして笑顔で夢と希望を振りまき、順調に進むパレードの集団がコロニー内部へ続くゲートに近づいてきた頃だった。


「(…………ん? なんだ、この反応は)」


 サクラと連動した俺の電脳領域のセンサーが何かを感知し――


 ――ビィーーーッ! ビィーーーッ!


 ――た途端に、宇宙港エリア全体にけたたましい警報が鳴り響いた。


 ゲートウェイ内のあちこちに赤と黄色の縞模様を枠組みにした警告文が浮かび上がり、そこには『襲撃警報』と書かれシェルターへの避難を促す案内が記載されいた。


「(レベル・スリーって……いきなりかよ。えーと相手は……ああ、お決まりの宙賊か)」


 サクラが捉えている襲撃者たちを網膜に映し出して確認してみれば、バラバラな規格の装備をゴチャゴチャとつけまくった小規模の船団が、船尾に加速の光を灯しながらまもなくこのコロニーを射程圏内に収めるといった位置まで来ていた。


「(あいつらホント何処にでも湧くな……ったく。せっかくオレたちの連邦初仕事だっていう晴れの日に、空気の読めない奴らだ。だいたい、連邦軍の警備隊の連中は何してたんだ? たしかレベル・スリーってことは、もう完全に防衛ラインを突破されてるだろ……あー、もう連邦軍の船だったものしかないのな。南無南無)」


 表面上は落ち着いてにこやかに、内心では不甲斐ない防衛体制に悪態をつきながら、オレはとりあえず嫁たちとサクラの女の子たちの安全を確保するべく行動を開始した。


『全員、オレの後ろ……シラユキのところに集合だ。シラユキは念のため船にシールドを展開させておけ』


『は、はいっ!』


『イエス、マイマスター。さぁみなさん落ち着いてください。何の心配もありません。私たちにはマスターが居てくださるのですから』


 限定通信に返ってきた返事を聞いて、女の子たちの声に緊張が混じっているのを感じたであろうシラユキがにこやかな微笑みを向けて安心させようとしてくれていた。

 まったく、いつもながらよく出来た嫁で嬉しい限りだぜ。


 ――緊急限定通信・発信者・ミズキ。


 おっと、外からか。


『ミズキか。どんな感じだ?』


『すまないリンくん! どうやら奴ら、ありったけのステルス装備を積み込んで奇襲を仕掛けてきたらしい! 正規軍の艦隊は初撃でやられてしまったっ!』


 着信に応えて回線を開くと、オレの視界の端に申し訳無さそうな顔をした黒髪美人が映し出された。


 彼女はミズキ。真面目を絵に書いたような美人さんで、元は傭兵をしていたが今ではサクラの防衛や軍事面を任せている。

 オレが創り出した女ではないが、愛する嫁の1人だ。


 通信中のミズキの背後には戦闘機のコックピット内が映っていて、全周スクリーンには星明かりがものすごい勢いで流れ、ビームやら何かが爆発するような破壊の光が通り過ぎていく。


 今まさに戦闘中といったようで、彼女の黒曜石のような瞳は目まぐるしく動いていた。


『しかも奴らの船舶IDを調べてみたら、どうにもこの前に私たちが壊滅させた宙賊団の生き残りみたいなんだ』


『あー、なるほどな……さしずめお礼参りにでも来たってところか。律儀な奴らだなー、まるでミズキみたいだ』


『リ、リンくんっ!? それはどういう意味だいっ!?』


『ん? ミズキみたいに真っ直ぐで義理堅くて……いや、奴らはミズキみたいに美人だったり可愛げがあったりしないからな。前言撤回だ』


『はぅっ!? リ、リンくんっ! こっちは戦闘中なんだっ! そ、そんな……嬉しいことは……ふ、ふたりきりのときに言ってくれ……』


 普段は凛々しい表情をしていることが多い、戦闘機に乗せれば最強の傭兵と名を馳せたこのサムライガールが、実は恥ずかり屋で女の子らしい一面があるというのを知っている男はオレくらいだろう。


 店でサクラとして売り出せば集客アップ間違いなしなんだが、『わっ、私はそんなヒラヒラした綺麗な服は似合わないよっ』と恥ずかしがってキャストはやってくれなかった。


 通信映像越しでも、頬を染めてモジモジとする様子はとても愛らしい。


 そんなイチャイチャした会話中でも、敵艦と敵戦闘機を示すマーカーはミズキの機体が通り過ぎた後は根こそぎ残骸に変わっていっているわけだが。


『ハハっ、そう言いつつも余裕があるじゃないか。まぁそうだな、ミズキが頑張ってくれないとコロニーごと客が居なくなりそうだし、営業が終わったらいつも通り……な?』


『っ……うん、わかった。や、約束だからね……?』


『もちろん。可愛いミズキを、たっぷり可愛がってやるよ』


『ぅぅっ、だからぁっ……いや、いかんいかんっ! そうと決まれば、リンくんやみんなのためにも早速、だ! いざ参るっ……!』


 また顔を真っ赤にして照れていたミズキだったが、ふるふると首を振って元の凛々しい顔に戻り――きらずに口元が緩んでいるが、本人的には『キリッ』とキメた表情になってから――通信を閉じると、猛烈な勢いで敵を殲滅し始めた。


 そんなにオレとの夜が楽しみだとは……ういやつよ。


「(って……はぁー、今度は何だ?)」


 オレも内心で夜の楽しみが増えたとニヤけていると、またサクラのセンサーに引っかかる反応が……それもオレたちのすぐ近くにあった。


 そしてそれに気づいた直後。


 ――ドガァァァンッ!


「キャアーーーーッ!?」


 派手な爆発音を撒き散らしながら、オレたちがいる場所から見ると前方にあたるゲートウェイの壁が破壊され、粗野な風貌のヒャッハー軍団……もとい、宙賊の機甲歩兵部隊と思われる10人程度の野郎どもが突入してきた。


 全員がゴツゴツとしたパワードスーツを身につけていて、機械の腕にはガトリング砲のような武器がマウントされている。


「全員動くなぁっ! ようやく見つけたぜぇ、サクラのクソ女どもぉっ!」


 宙賊たちは逃げ惑う観客とオレたちにそのガトリング砲を突きつけ、リーダー格らしき男が三下の悪役っぽいセリフを披露してくれた。


「……どちら様でしょう? どなたかとお間違いではなくて? あと、そんな物騒なものは置いていただけるかしら?」


「ほざけぇっ! サクラのリーダーで黒髪の女っつったらお前だろうがっ! 兄貴の仇だっ! タダで済むと思うなよっ!」


 ちぇっ。面倒だから理性的で文明的な方法で済ませてやろうかといってるのに……。


「はぁー、嫌ですわ。これだから脳みそまで筋肉で出来てる男っていうのは……」


 あと残念だったな。

 オレはお前が言う通りサラサラの黒髪ロングが自慢な美少女だけど、生物学的には男だから『黒髪の女』ってのは正確じゃないぜ?


 まあ? オレが男であることは公表してないから仕方ないけどけど?

 まあ? それだけオレが完璧美少女だってことだし?


「てめぇっ! もういい、死ねぇぇぇぇーっ!」


 おっと、悦に浸ってる場合じゃなかったな。


 こめかみに血管を浮き上がらせた宙賊の男が叫びながら構えると、ガトリングが唸りを上げて高速回転を始めた。


 イマドキは実体弾なんて廃れてるらしいが、取り回しが悪い代わりに貫通力と連射力に優れている。

 生身の人間が操作できるMIM出力ではシールドを生成できても豆鉄砲クラスのレーザー弾くらいしか防げないだろうと見越して持ってきていたとしたら、少しは考える頭もあるということだろうか。


 ドドドドドッ!

 と断続的な重低音を響かせながら、当たったら人間の身体なんてミンチになりそうな口径の実弾を吐き出し始める。


 だが……またまた残念だったな!


 オレにそんな武器は――効かない。


「なっ、なんだと……!? 弾が、空中で止まって……!?」


 オレが銃声に合わせてヒラリヒラリと手を振るような仕草をすれば、爆発力によって推し進められていた無数の銃弾は見えない力に押し留められるようにグググッと勢いを失っていき、青白い光をまといながらオレの前のある一定の空間で揃って停止すると、キンキンと甲高い音を立てて地面に散らばった。


「フ●ースと共ににあらんことを」


 なんてな。


 手を振る動作はなんとなくやってるだけで、実のところは、やべーレベルらしいオレの頭の処理能力によってMIMを操作し減速空間を作り出して銃弾を止めただけだ。


 素晴らしきは未来のナノマシンっぽい超技術とサイバネティクス技術だ。ビバ未来。


「あ……ありえないっ!! 30mm弾を止められるほどの出力なんて、人間に出せるわけがっ……! どこかに操作端末を隠し持っていたのかっ!?」


「でもアニキっ!? あの女、ほっせー身体してるし、あのよくわからないヒラヒラのスーツの中にあるとも思えないですぜっ!?」


 失礼な。これはドレスっていうんだ。

 未来人たちのファッションセンスの欠片もない、ダッサい機能性重視のスーツと一緒にするんじゃねぇ。


「そ、そんなことはわかってらぁっ! いいから撃てっ! 女どもを殺せっ!」


「へいっ! うおおおおおぉぉーー!」


 男が焦ったように合図を出すと、観客に銃を向けていた宙賊たちまで一緒になってオレに向かって銃弾の雨を叩きつけてきた。


 一人当たり毎分4,000発近い圧倒的な発射速度の重機関銃が斉射される光景は見ていて圧巻だ。

 だが結果は先ほどと変わらず……奴らの足元には空の薬莢が、オレの前にはパラパラと弾頭が積み上がっていくだけ。


 ハッキリ言って時間の無駄だった。


「なんだっ!? 何なんだこいつはっ!?」


 便利なもので、電脳化されたオレの頭はこんな銃声の大合唱の中でも焦ったような宙族の声を拾い、マズルフラッシュが眩しい中でも強張っていく表情が見える。


「ぅぅっ……シラユキさまぁ……」


「大丈夫です、みなさん安心してください。マスターが何とかしてくださいます」


 っと、フィルターをかけたらオレの後ろでうずくまっている女の子たちと、それを抱きしめて励ましているシラユキの声も聞こえてきた。


 絶対に許さんぞ宙賊どもめ……!

 よくもウチの女の子たちを怖がらせてくれたなっ!


 ……いや余裕ぶっこいてたのはオレだけどさ。

 一人コントなんてしてないで、さっさと片付けるか。


「飛びなさい」


 脳内で組み上げたプログラムを走らせながら、突きつけた手を指揮者のように振り上げれば、数百キロはあるであろうパワーアマーごと宙賊共が浮かび上がった。


「うおっ!? なんだっ!?」


「くそっ!? う、動けねぇっ!?」


 ジタバタして推進用の小型スラスターをふかしたりもしているが、これは無重力で浮いているんじゃなくて空間ごと浮かせてるので意味はない。


『……全員、目と耳を閉じてろ』


『っ……はいっ!』


 限定通信で身内だけに指示を出してから、オレは宙族どもに向けていた手を握る。


 動作に合わせて硬く分厚いごとパワーアーマーが外からの力に押しつぶされるようにひしゃげていき……。


「ぐぁっ、なんだっ!? や、やめろ……! やめっ――」


「ギャァッ!?」


 グシャリと、耐久力の限界を超えたところで丸まった鉄くずになって転がった。


 中にいた宙賊共がどうなったかなど言うまでもないが、この宇宙において宇宙海賊という存在は常に排除しなければならない対象だ。

 ここで容赦して取り逃がしでもしたら、そいつらはまたどこかで悪さを働く。


 その悪さの犠牲になるのは、当然ながら女も含まれる。


 この時代に生きることを決めた身として、全ての女の子の味方を自称する身として、コイツらの命を奪うことに何のためらいもない。


 むしろ賞金でもかかってたら儲けものだな。


『もういいぞ』


 ひしゃげた鉄くずの間から漏れ出す赤いものに冷たい視線を送ってから、嫁と女の子たちにグロシーンを見せないために出していた指示を解除する。


「す、すげぇ……なんだいまのは……」


「リンお姉さま、お美しくてお強いだなんて……ステキ!」


 衝撃的な光景だったが、観客たちにとっては宙賊の末路よりもオレのカッコよさのほうが驚きだったらしい。


 フフ、良いぞ。もっと褒めてくれ。


 これで少なくともこのコロニーでは、調子に乗ってうちの女の子にオイタしてしまう客はいなくなるだろう。


 ――緊急限定通信・発信者・ミズキ。


『っと、またか。どうした? こっちにも来てたやつらなら、いま片付いたぞ』


『リンくんっ、マズイことになった! 敵の増援だ! どこに隠れてたのか次々とワープアウトしてきている! 質は大したことないが、この数は流石にっ……っと!? くそっ……すまないが私だけでは対処しきれないっ! このままではコロニーごと押しつぶされるぞっ!』


 珍しく切羽詰まったようなミズキの通信を受けて、リンクしているセンサーを長距離索敵モードに切り替えてみれば、確かに……大小合わせて100は超えるであろう船のワープアウト反応が生まれていた。

 その進路は、予測させるまでもなくこのコロニーだろう。


『なんだこりゃ……ほんとにすげぇ数だな。わかった、オレも出る』


『すまないっ! 5分はなんとか保たせて見せるっ! だからリンくん、頼むっ!』


『貸しひとつだぞ~? さーて、今度は何を着てもらおうかな~?』


『うぐっ……き、君が好きなのを着るからっ! だからっ――』


『ああ、わかった。急ぐから、ミズキは無理するなよ? 機体なんかよりお前のほうが大事なんだからな』


『はぅっ……!? い、いってくる!』


 ハハッ、また赤くなって慌てて通信を切ったな? 可愛い奴め。


 まさか今日という日にここまで大事に巻き込まれるとは思ってもいなかったが、迎撃に当たった軍はもうやられてるし、位置的に増援は時間がかかるだろうし、寂れた商業コロニーだから内部に予備戦力なんてないだろうし……こうなった以上はオレたちで何とかするしか無い。


 正直に言うと宙賊退治はどこまでいっても人殺しなので何も思わないわけではないが、奴らの狙いはオレたちのようだし、コロニーに住む無辜の市民数十万を巻き込んでコレ以上に危険に晒すわけにもいかない。

 

 ……というような正義感ではなく、単に嫁と身内の女の子を守るのが最優先で、客が居なくなるのは困るからだけど。

 いや、コロニーに住む女性たちのためと思えば、もう少しやる気は出るか。


「さて……」


 サクラのカッコいい女主人の姿を、観客に見せるとするか。


「シラユキさん、外をなんとかします。準備ができ次第、私の機体をカタパルトへ」


「イエス、マイマスター! 30秒ください!」


「ああ、シズクちゃん。機体の整備は――」


「ん、完璧。あの機体は主みたいにすごい」


「ならよかったわ。ユキネさんは避難誘導を。貴女の声ならよく届くでしょう」


「承知いたしましたわ。おまかせください、主様」


「モモカさんはユキネさんについて、怪我人が居たら対処を」


「はぁ~い、わかったわぁ」


「ますたー! あたしっ、あたしはっ?」


「クレハちゃんは……どこかにパワーアーマーでも残っているでしょう。それに乗って、避難誘導をするユキネさんを援護して市民のみなさんを守って」


「はーい! 探してくるねっ!」


 次々と嫁たちや女の子たちに指示を出している間にも、ミズキの奮闘によって宇宙に咲く閃光が徐々に近づいてきていた。


「マスター! 準備完了です! いつでもどうぞ!」


「ありがとう、予定より早い仕事ですねシラユキさん。……今夜、ご褒美をやろう」


「マイマスター……♡ ありがとうございます♡」


「あぁっ、ズルいですわユキ姉さま!」


「そうよぉ! マスターちゃん、わたしには~?」


「ま、ますたー……」


「……ん!」


「わ、わかりましたから。ちゃんとお仕事ができたら、みんなまとめてご褒美をあげますから。ほら、行動開始よ」


『はいっ!』


 ったく……緊急時だというのに我ながら緊張感がないが……可愛い嫁たちに求められる幸せに勝るものはないから仕方ないよな!


 さてさて、100隻ごとき……オレがロマンを詰め込んで創り出した機体にかかればなんてことはないし、これもさっさと終わらせてしまおう。


「来ぉーーい! 私の機体ィーッ!」


 オレは片腕を突き上げると、パチンと指を鳴らす。


「専用ビーコン受信! 認証クリア! マスター専用機、射出しますっ!」


 気分は自分の機体を呼ぶ格闘型なロボットアニメの主人公だったが、指を鳴らしたのはやっぱり気分だけで、実際はシラユキが言ったようにオレ専用機の主機に火を入れるためのビーコンを発信しただけだったりする。


 すぐにサクラのカタパルトから猛烈な勢いで青白い粒子を撒き散らしながら飛び出した人型ロボットが、気密シールドを突き抜けてオレの前に降り立った。


 呼び出し方は某ガン●ムだが、その見た目はとても身体が闘争を求めそうな感じだ。タイプとしては軽量二脚か。


 見た目の通り、操縦方法は操縦桿を握って……とういうわけではなく、オレの電脳領域の出力と特性を頼りにした思考操作だ。


 つまり脳波コントロールできるというわけだ。

 オレが創り出したものだから、光が逆流して自滅する心配もない。


「では、行ってくるわ」


「お気をつけて、マスター」


 綺麗なお辞儀を披露するシラユキに見送られて、オレは自分の身体をふわりと浮かせる。


「おぉっ!?」


「浮いたぞっ!?」


 開いていたコックピットへ乗り込むと、ハッチが閉まると同時に……オレは素っ裸になった。


 なんでも服を着たままだとオレの特性が機体に伝わりにくいとからしいけど……狭いコックピットなのに開放感がありすぎて困る。

 必殺技を使う時なんて、アタッチメントにオレの極太プラグを挿入しないといけないという謎仕様まであるし。


 まぁ宙賊ごときに使うことはないだろうし……今はそんなことはいいか。


 機体を重力制御と力場形成の合せ技でそっと浮かせ……気密シールドを抜けてから一気にブースターで加速し、火花散る戦場へと飛び出していく。


 グングンと流れていく全周モニターに映る無数の敵マーカーを見ながら……なぜか急に、オレはこの時代に目覚めたあの日を思い出していた。


 みんなを守るため、オレたちの夢を叶えるためとは言え、ロボを創り出して戦闘まですることになるなんて……あの頃には思わなかったよなぁ。

 嫁たちとイチャイチャだけしていられればどれだけよかったか。


「フフ……そうだったな。もう、そんなに前か……」


 あまりに色々なことがあった日々を思い出しながら……オレはさらに機体を加速させるのだった――。






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あとがき

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ファンタジー世界を舞台にTS主人公が女学院で繰り広げる恋愛話もしっかりめのイチャラブも連載中ですので、合わせてお読みいただけると大変嬉しいです。

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次回、「とある男の娘の人生~追憶~」

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