プロローグ

000.プロローグ-1~あの娼艦がやってくる!~

宇宙イチャラブハーレム物語の、始まりはじまり……。

――――――――――――――――――――――――――――――――







*****

//とあるコロニーに居住する一般労働者//



 銀河共通歴10XX年☓月●日



「なぁっ、いよいよ今日だなっ!」


「……何がいよいよなんだい?」


 手にしたグラスを傾け、隣りにいる同僚で長年のツレに話題を振ってみたものの、クソ真面目で根暗なコイツはツレない返事を返してきやがった。


 ここはフィーデン自由銀河連邦……その中でも端の方の星系にある辺鄙な商業コロニー、その中にある現実で酒を提供する珍しい店――酒場だ。


 酒場といっても暗い雰囲気で全く流行っておらず、俺とコイツ以外に客は居ない。


 MIM-NETミームネットが作り出す仮想空間ではなく現実空間リアルにある店だが、店員の人間どころか機械生命ドロイドすらおらず、端末で酒を注文すれば店の何処かから給仕ドローンで運ばれてくるという……俺からすれば味気もなければ色気もないサービスの店。


 だが、とりあえずリアルで酒が飲める店がここくらいなので利用している。


「んぐっ、んぐっ……プハァッ! なんだ知らねぇのかよ! これだからお前ってやつはっ……」


「僕じゃなくて君のほうがおかしいんだ。だいたい最近はどうしたんだい? 急にリアルであれこれやり始めて」


 相変わらず何にも興味がなさそうにしているこの男だが……この宇宙においてはコイツのような無味無臭の干からびたような人間がウヨウヨいやがる。

 かく言う俺も、ついこの前までは同じだった。


 ――あの船と彼女たちの存在を知るまでは。


「いいからこれ見てみろって」


 俺は得意顔で懐からタブレットサイズのMIMミーム端末を取り出すと、俺たち前にとあるホロ映像を投影させた。


 明るく期待感を煽るような音楽や効果音とともに、きらびやかな衣装を身にまとった何人もの女達が、キラッキラな演出の中で登場する。


『私たちっ!』


宇宙娼艦うちゅうしょうかんサクラ!』


『絶対に忘れられない、一夜のめくるめる夢と欲望をアナタに!』


『美味しいお酒とお料理もありますよー!』


『共通歴10XX年☓月●日、ついに連邦デビュー!』


『ぜひ遊びにきてねっ♡ たっぷりサービスしまぁす♡』


 映像は女達を舐めるようにいろいろな角度で映し出し、女達はまるで映像を見ている俺たち……いやっ、俺に目線を送るようにしながら――半物質で出来ているのかホロなのかは分からないが――次々とその場で衣装を変えては弾けるような笑顔と艶めかしい肢体を見せつけるように、なんともたまらないポーズを取っていく。


『お客様のお越しを、我ら一同心よりお待ちしております』


 そして最後に、一際目を引く美しすぎる黒髪の女が現れ。彼女をを中心にズラッと並んだ女達が映し出され、色違いだがデザインは同じのドレス(っていうらしい)を身に着けた女達が帝国貴族の使用人もかくやというお辞儀を見せる。


『クーポン取得済♡ お待ちしてます♡』


 女達の姿がフェードアウトし映像が終わると、俺が初めて見たときに思わずタップしてしまった『持っていくと割引になるという電子コード』が取得済みである旨の一文と、背景として映像の中の最後に並んでいた女たちのうちの誰かだと思われる女の肌色多めな静止画が映し出されて……。

 俺がコイツに見せたかった短くも素晴らしい映像データはそこで終わった。


 ああくそっ……!

 今映ってる女も素晴らしいが、これはもしかして色々なパターンがあるのかっ!?

 他を見るにはどうしたら良いんだ……。


 これを考えたやつはなんて人間の欲を分かってるやつなんだっ……!

 何度見ても股の間が熱くなってきやがるっ!


「なっ? なっ? どうだっ? すげーだろこれっ! これ女達は全部現実の女で、しかもめちゃめちゃイイ女ばっかりなんだぜ!?」


 俺がリアルに目覚めるきっかけとなり、これまでの人生158年間で覚えることがなかった種類の興奮を感じたこの宣伝映像は……やはり何度見ても素晴らしい!


「興味ないね」


 だというのにコイツときたら、俺が触れられないと分かっていてもつい手を伸ばしたくなるのを我慢しているのを横目にしながら、根暗な雰囲気を全開で振りまいてやがる。


「この映像が言っているサービスというのは生殖行為を指すものなのか? だとしても、性欲なら自室にあるカプセルに入って仮想空間ネットに行けばでいくらでも満たせるだろう。コロニーの市民税も嵩むから子供を作る気もないし、本当だったらこの酒だって……酔う感覚なら仮想空間で事足りるからね。君がどうしてもっていうから付き合ってるだけだよ」


「かーっ! 相変わらず理屈っぽいというか……そりゃカプセルは生命維持から排泄物処理まで何でもやってくれるけどよ……枯れてる、枯れちまってるよお前は!」


「枯れてるって何さ。だいたい、現実の女がそんなに良いものなのかい? さっきの映像データに出てた女だって、仮想の女とそう変わらないように見えたが。あれでサクラとやらは商売が成り立っているのか?」


 こいつは……分かってない、分かってないぜ相棒。


 生身の女だからこそ感じる仕草のゆらぎ、意思や感情がこもった絶妙な表情……完璧に調整された仮想とは違う、完璧じゃないからこそ感じるリアルな女体の色っぽさ……。


 まだ目覚めてない人類がどれだけもったいないか分かっていやがらねぇ……どうにかしてこいつも目覚めさせてやりてぇってのに。


 ……おっと、そういえばちょうどいいものがあったっけ。


「……あった、これだっ。おい、それだけ言うならコレを見ろ。理屈っぽいお前向きのすげーニュースだ」


 俺はMIM端末で映し出していたホロ映像を一旦消し、今朝見つけたばかりの連邦の民間企業が発行しているニュースペーパーを映し出した。


「ニュース? 『全宇宙に衝撃!? 全人類の生殖行為経験率が大幅に上昇! かの宇宙娼艦サクラの影響か!?』……なんだいこれ?」


 ニュースには今コイツが読み上げた見出しがデカデカと載っていて、統計データ付きで本文が下へと続いていた。

 とりあえず見出しで興味を持ったらしい相棒は続きに目を向けながらも、これが何かと俺に聞いてきた。


「書いてある通りだぜ。俺もお前も含めて、全人類の95%は生殖行為未経験者……つまり童貞か処女だ。どいつもこいつもお前みたいにリアルに興味が無いからな。特に純正は改製と比べてその割合が高いらしい。機械生命は……このデータでは省かれているな」


「それが『大幅に上昇』……いや君の言い方だと大幅に減ったってことか。ええと、『割合は95%から94%に』……って、なんだ。たった1%じゃないか。しかもこのペーパーの発行元、聞いたこと無い企業だな。君がそんなに言うほどのことなのに、本当にこのデータは合ってるのか?」


「おいおい、らしくない見落としだぜ? 1%といっても、それは『全人類の』1%だ。この宇宙にどれだけ人類がいると思ってんだ? あとそのデータは確かだぜ。裏では帝国様が絡んでるって噂の企業だからな」


「帝国が……? なるほど、それなら確かに……すごいのかもしれないな」


「そうだろぉ? サクラのおかげで目覚めて動いたか、もしくはサクラが寄港した場所であの船で直接経験したか……どちらにせよ、あの女達には人類を動かすほどの素晴らしい何かがあるんだっ! しかもそのサクラが今日! ついに! このコロニーに来るんだぜ! おっと、しかも予定時刻までもうすぐじゃねぇか!? なぁ、せっかくだし港まで見に行こうぜっ!」


 待ちに待ったサクラの女達……!

 素晴らしい現実の女だけしかいないという夢のような場所……!


 開店は夜になるって話だが、サクラは行く先々で派手な到着パレードとやらを行うとMIM-NETにある掲示板の同志達は言っていたからな。

 それが見られるチャンスを逃す手はないぜっ!


「君が『いよいよ』って言ってた意味は分かったよ。ただ、わざわざ港まで行かなくても……そんなに有名なら、中継映像が配信されるかARサービスでも展開されるんじゃないのかい? 間近で見たいと言うなら『潜って』でも現地に行けば良い」


 コイツが言う『ARサービス』っていうのは、リアルタイムで配信される遠隔地の情報を元に作り出された仮想空間にアクセスしてまるでその場に居るような臨場感を味わうことができるという、旅客会社が始めたサービスのことだ。


 確かに、遠すぎてサクラの寄るコロニーに行くことができない同志はそれを利用すると聞いたが……幸運にも本物を目の当たりにした同志たちは『ナマで見ると全然違った』と言うのだ。


「馬鹿っ、こんな辺鄙なコロニーにサクラが来るなんてチャンス、滅多にあることじゃねぇんだっ! 仮想は仮想、満足できるかっ!」


「はぁ……わかった、付き合うよ」


「よしっ、そうと決まればっ!」


 空になったグラスを置き、律儀にも脳内で決済アプリを起動しようとしていたらしい相棒を制してサッサと2人分の会計を済ませると、俺は足取りが重い相棒を急かして港……このコロニーで1番デカい宇宙港へと向かった。





「……君みたいな人間が、こんなにいるとはね」


「言っただろぉ? サクラはすげーんだって」


 宇宙港エリアまでやってきたところで、相棒が停泊所から続くゲート前に集まった人混みを見て珍しそうに口にしたことに、俺は気分良く胸を張って答えた。


 コロニーでは数十万の人類が暮らしているとは言え、全てが仮想で事足りる今の時代にこれだけの人がリアルで集まっているというのはとても珍しいことだ。


 宇宙港エリアは、おおよそ円柱形のコロニーの中心近くに円環状の構造体を浮かべ、そこから伸びる何本もの停泊所兼ゲートウェイが古代の機械部品――歯車のように見えるのが特徴的だ。

 ただ歯車と言っても全ての歯……つまり停泊所は間隔も長さも一定ではなく、様々な艦級を受け入れられるようにできている。


 俺たちが今いるゲートウェイは、かなり長い。

 つまりそれだけ停泊予定の船がデカいことを意味している。


 さすがに軍の戦艦みたいな超キロ級ではなさそうだが、500m以上は確実にあるな……サイズだけなら重巡洋艦級ってところか。


 そんなデカさの船に女しか乗っていないというんだから、またすげーよな。


「見ろ! 来るぞっ!」


 とそこで、誰かが気づきの声を上げた。

 見ると、期待感を募らせる俺たちの目の前で、真っ暗な真空に閉ざされた宇宙へ向けてコロニー側から味気ない色合いのゲートビーコンが灯っていく。


 そしてビーコンが伸びる方向の宙域に、MIMが励起れいきしていることを表す粒子状の青白い光が広がっていき、平面上に広がったその光の輪からワープアウトしてきた船が……待ち望んだ姿が現れた。


 ワァッと、ただそれだけで集まった観客達は歓声を上げる。

 もちろん俺もその1人だ。


「あれが……宇宙娼艦サクラか!」


 まだワープアウト直後であるせいか船に明かりは少なく、チカチカと点滅する航行灯が暗い宇宙の中に僅かにその船体を浮かび上がらせているのみだ。

 ただそれだけでも、俺が予想した通りかそれ以上にデカい船であることが伺えた。


 仕事柄、船は見慣れているから分かるが……ありゃ全長は700m~800mくらいはあるな。

 しかし見たこと無い型だ……帝国でも連邦でもないし、まさか同盟ってこともないだろうし。


 全長に対して船幅もかなりあるくせに、全高は低くてかなり平べったく見える。

 低いと言っても150m~200mくらいはありそうだが。


 各部から突き出て角ばってるところもあるから一概には言えないかもしれないが、おそらく真上から見たらほぼ円形になっていて、その円形の前方中央に凹型の区画、後方の推進機関部分が逆三角にせり出している感じだろうか。


 俺が不思議な威容を誇る船を観察していると、サクラに動きがあった。


 ――暗闇に、桃色の光が灯る。


 その存在を知らしめるように、スポットライトを浴びる女優のように……ホロの光で自艦を宇宙に照らし出したその途端。


 今度はゲートウェイ中に『ブツッ』とノイズ混じりの音がしたかと思うと、明るくテンポの良い音楽が……宣伝映像でも使われていた否応なく期待感を煽ってくるリズムが気密シールドで覆われたこの空間に響き渡った。


「……? 管理局の公表データには、こんな音声が流れるなんて予定はなかったけど……」


 隣から興奮する場の空気に置いていかれているような冷めた声がするが、そんなのは無視だ。


 あれは……サクラが保有する戦闘機だろうか。


 本船と同じように平べったくて流線型を描く直掩機のような小さな機影が飛び出たかと思うと、複雑な軌道を描き、その道筋にホロの光で軌跡を作り出していき……。


『おおっ……!』


 宇宙に、一輪の花を咲かせた。


 あいにくと無学な俺にはわからないが、きっとどこかの環境惑星で見られる植物の花というやつだろう。

 全体の色は薄い桃色で、5枚の丸みを帯びた花弁の先は僅かに凹んでいる。

 中央には何かを表しているのか黄色い線が引かれていて、周りの桃色を引き立てていた。


 たしかあの桃色の花は……。


「出たっ! 艦載機部隊の変態軌道による曲芸飛行! あれはサクラのエムブレムなんだぜっ! しかもリーダー機は有人機だっていうからすげーよな!」


 おおそうだ、宣伝映像にもあったし、同志の証としてSNSのプロフィールにそっと添えてるやつも多いアレだ!

 誰かが知識をひけらかすように言った声で、俺はそれが何であるかを思い出すことができた。


 サクラの巨大な船体は誘導ビーコンに従ってまっすぐと近づいてきているが、ますます熱を上げていく観客の様子に気を良くしたのか、艦載機部隊はその周りを華麗に飛び回りサクラに華を添え続けている。


 そして、ゲートに接舷すると周囲の宙域に信号弾のような光の玉が射出され、それが弾けていくつもの色の光の花で宇宙を明るく染め上げた。


「「キャー! ステキー!!」」


 それを見た観客の女達が甲高い歓声を上げ――そう、サクラに目覚めさせられたのは男だけではない――ついに接舷部分から昇降用ゲートが伸ばされてきた。


「………あれ?」


 しかし……ゲート同士が繋がり終わっても、一般の入場が制限されているゲート脇からいくら身を乗り出して待っていても、口を開けたゲートからは一向に待ち望んだ姿は現れない。


 ザワザワと、『どうしたんだ』という疑問や不安のの声が広がっていく――と思った瞬間!


「っ!? 上からくるぞっ!」


 バシュッと音がしそうな勢いで、俺たちが目を向けるはるか上方の気密シールド――真空空間と構造物内部を半透明状のシールドで区切り、空気が漏れ出さないようにするための気密機構――越しに見える巨大な船体の上部から光が溢れ出した!


 溢れ出した光は大きな球形をしていて、泡のようにフワフワと真空中を漂うかと思いきや……無数に分かれて気密シールドへ――ゲートウェイに向けて始めた!


 青、赤、黄、白……様々な色をしている半透明な泡の内部には……なんと、それぞれに着飾った女達が入っているじゃないか!


「なっ、なんて人たちだっ……!? あの泡のようなものは、MIMで作り出した気密フィールドかっ? 一歩間違えば真空中に放り出されるというのに……!?」


 相棒がなにやら『らしい』驚き方をしているし俺も驚いたが、これまた俺はその驚きを無視した。


 なにせ今の俺は、気密シールドを抜けると同時に割れた泡から舞い降りてくる、女達が身につけているヒラヒラに夢中なのだ。


 全宇宙の殆どの人類が着用している、身体に密着する形状をした一般的な多機能スーツと比べると……気密性も保温性も電子拡張性もないであろうが、ただ見た目だけを重視したような色とりどりのその格好がまた、女達の魅力を引き立てているようでならない。


「キャーーッ!?」


 珍しいことにこのゲートウェイの中は今、1Gで重力制御が行われている。

 つまりは今、どこかで悲鳴を上げた観客の女が予想する通り、このままではサクラの女達は気密シールドが張られているゲートの上部――数十メートル以上の高さから床に叩きつけられることになってしまう……!


 しかししかし……!

 サクラというのはとことん俺たちの想像を上回っていたようだ。


『イッツ……ショータイムッ!』


 パチンッと。

 先頭で突っ込んできていた黒髪の女が指をこすり合わせて小気味いい音を鳴らすと、なんと重力制御下にも関わらず、全ての女達は無重力空間にあるかのように空中を舞い始めたじゃないか……!


 女達は金持ちの趣味のひとつと聞くミュージカルとやらのように優雅に、軍が行う戦闘機の展示飛行のように寸分の狂いなく、ただ自分たちの輝きを振りまく。


 推進力があるわけでもないのにどうやって浮いているのかはわからんが……そうして円を描くような動きで宙を舞いながら徐々に地面に近づいていき――やがて一斉に降り立った。


「私たちっ!」


「「「宇宙娼艦サクラ!」」」


 バラバラに降り立ったようでキチンと規則性がある並びをしている女達の先頭……やはり先程の黒髪の美しい女が声を上げると、それに続くように全ての女達が声を揃え、演出なのか先ほどと同じような光の玉が彼女らの足元から弾けて場をいっそう華やかに彩った。


『うおおおおおぉぉーー!』


「待ってたぞー!」


「サクラーーーーッ!!」


 観客たちの興奮が最高潮に達する中、まっさらなゲートウェイの地面がホロの光でコーティングされていき、華やかな女達が歩むべき道……ランウェイを作り出した。


「歓迎、ありがとう!」


「「「ありがとうございます!」」」


 女達は黒髪の女を先頭に、軽やかにステップを踏み踊りながら、少しずつそのランウェイを進んでいく。


 途中途中で女達がクルッと舞えば、その瞬間にその場で衣装が変わり、また違った女達の魅力を俺たちに見せつけてくる。


「「キャアアーーーーッ! ステキーーーッ!」」


「「「おっ……おぉっ!」」」


 これが……パレードってやつか!


 観客の女達はサクラの女達の可憐さと華やかさに夢心地で黄色い悲鳴を上げ、男たちも同じように歓声を上げながら……その実、衣装が変わるタイミングで分解されるように溶けていき再構成されていく僅かな時間……その瞬間に垣間見える女達の肢体をどうにか見ようと鼻息を荒くしていた。


 そんな男女問わずの視線を特に集めているのが、他のサクラの女達と比べても明らかにレベルが違うと分かる先頭集団の、さらに先頭。


 あの黒髪の女こそが……この場にいるやつなら知っているであろう。

 サクラの艦長であり館長、公式にも非公式にも『人気No.1嬢』と名高い――『リン・サクラ』だ!


「おい見てるか相棒っ!? あれがリン・サクラだ! くぅぅっ、あのツヤツヤの黒髪、やべーくらいの美人顔、ほっそい身体、そしてあの視線っ……たまんねぇなっ! あっ、すぐ後ろにいる5人が見えるかっ? ありゃ俺たちの間じゃ『ファースト・レディース』なんて呼ばれてんだ! 『5人だから『五天王』とか『五芒星』じゃないのか?』なんて余計なことを言った日にゃ戦争が起こるから気をつけろよ? にしてもっ……こりゃ噂以上だぜ! 『リン・サクラ』も『ファーストレディース』も、俺なんかが手を出せるレベルの女じゃねぇな……せいぜい後ろの方の女が身の丈にあってるってもんだ。ははっ、それでも十分に良い女ばっかりだけどな! あんなやべー女達が……金を出せば隣に座って酒を注いでくれたり、手を繋いでくれたり、それ以上のあんなことやこんなことまでっ……! 待ってた……あぁ待ってたぜこの日をよぉ……!」


「…………」


 おっとしまった、あまりに興奮してアングラのギークどもみたいに早口で語ってしまった。


「……おい聞いてるか? 相棒? ……どうした?」


 我に返った俺が隣を見ると、根暗真面目野郎の相棒は……なんだか呆然としていた。

 俺の語りに呆れているというわけではなく、その目は近づいてくる女達の先頭……『リン・サクラ』に向けられていて――。


「……なんだこれ……!? なんだっ……なんだか股間が……!?」


 ――さらには、自分の身に起こっていることが信じられないという様子で、前かがみになって股間を押さえていた。


「まさか……ハハッ、嬉しいぜ相棒っ! お前も『目覚めた』かっ!」


「目が……僕があの黒髪の女を見ていたら、黒髪の女も僕の方を見てきて……目が合って、笑ったんだ……。なんだあの目は……あの微笑みは……!? なんなんだこの感覚はっ……!? ムズムズ……? ゾクゾク……? 上手く言葉にできないっ……!」


「ハッハ! お前も『リン・サクラ』の得意技、『覚醒の流し目』と『妖艶の微笑み』の合せ技にやられたんだなっ? 同志達が言うには、目覚めるきっかけとして1番多いらしいぜ?」


 まぁ得意技といっても、名前も含めて同志たちの間で勝手に言われているだけだが。


「現実の女も良いものだろう、そうだろう?」


「よ、よくわからないけどおかしいんだ僕っ! な、なぁ、コレ……どうすればいいんだっ!?」


「なーに、お前も運がいい。目覚めた日がちょうど、サクラが来ている日だったんだから! 今夜、俺と一緒にサクラに行こうぜ! この機会を逃す手はねぇよな!」


「君と一緒に行けば……この何とも言えない感覚や感情は収まるのか……?」


「あぁ! そりゃもう『スッキリ』させてくれるって話だぜ?」


 ……料金が高けぇからハマりすぎるとやばいとも聞くが、まぁそんな無粋なことは今は黙っておこう。


 同志たちの話では、こういう真面目なやつほどかえって『禁忌のガチ恋勢』とやらになりやすいらしいが……そこは俺が見ておいてやるか。

 サクラで『おイタ』をした奴の末路も有名だからな。


「わかった……僕、行くよ!」


「そうこなくっちゃなぁ! あ、お前も昨日が給料日だったろ? それと貯金はどれくらいある?」


「え? ……今確認したら、合わせて700ICちょっとだね」


「うぇっ……マジか」


 網膜に映し出した情報を見ていたらしい相棒が答えた数字を聞いて、同じ職場で働いている俺は驚くことになってしまった。

 こいつ……年収以上の貯蓄があるなんて、意外と持ってやがるな……。


「よ、よーし! それだけありゃ1番上のコースを選んでも何とかなるだろ!」


「えぇっ!? これでも足りないかもしれないのかいっ!?」


「ガッハッハ! 大丈夫だろ! さぁ、夜が楽しみだなぁ!」


「う、うん……」


 金額の予想をして気が引けそうになっている相棒の背中をバシバシと叩きながら、俺はゲートに向かって行進を続ける女達を見て……いろいろなモノを熱くするのだった。







――――――――――――――――――――――――――――――――

あとがき

お読みいただき、ありがとうございます。

少しでも「性癖に刺さった(刺さりそう)」「おもしろかった」「続きはよ」と思っていただけたのでしたら、「フォロー」「レビュー評価」をよろしくお願いいたします。

皆様からいただく応援が筆者の励みと活力になり、更新が早くなるかもしれません。


ファンタジー世界を舞台にTS主人公が女学院で繰り広げる恋愛話もしっかりめのイチャラブも連載中ですので、合わせてお読みいただけると大変嬉しいです。

作者情報または下記URLよりどうぞ!

https://kakuyomu.jp/works/16817139554967139368


次回、「プロローグ-2~いつか咲くサクラ~」

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