第7話 調査開始、アリエスの戦闘


 事件の原因が判明し調査に向かうため、アリエスはグレイ伯爵の騎士に案内され門の前に向かう。



 アリエスが門の前に着くと、グレイ伯爵の指示を受けたと思われる兵が、既に門の前で規則正しくズラリと整列していた。


 その様子を眺めていると、屋敷から出てきたグレイ伯爵の前に立派な甲冑に身を包んだ他とは違う騎士が跪く。


 恐らく騎士たちの長、騎士団長なのだろう、迫力も他より断然あった。


「屋敷を警備している者以外、約百名の兵を門の前に集めております」


「うむ、ご苦労」


 家族とアリエスと話していた先ほどまでとは違った様子でグレイ伯爵は、騎士の報告を聞く。



 グレイ伯爵が百人の兵の前に出たと思うと、おもむろに腰に下げていた豪華な、しかし実用性のある剣を掲げる。


「皆のもの聞け! 現在我が領では原因不明の失踪事件が多発している。この中には家族が、友人が、恋人が巻き込まれた者もいるだろう!」


 空気がビリビリと震えるような錯覚に陥るほど声に魔力の乗った、迫力のある声量で兵に激励をかける。


 アリエスはその様子を緊張した顔で眺めていた。そして、僕をここまで案内してくれた隣にいる騎士に向かって今の気持ちを呟く。


「……なんだが、かっこいいですね。先ほどまでの冗談を言うような人と同じとは思えません」


 そうまるで、人が変わった様な感じだ。先ほどまでは親しみを感じたが、今はそれがない。貴族の風格を前面に感じさせる気品がある。


 アリエスの言葉の疑問を感じ取ったのか、隣にいた騎士はその疑問について答える。


「そうですね……グレイ伯爵は平民から貴族にのし上がった人ですから。その辺りの切り替えは他の方よりかなりしっかりとしています。なので、アリエス様はその差が不自然に感じるのでしょう」


 アリエスと騎士が話している間も、グレイ伯爵の兵への激励は終わっていない。


「だがッ! それも今日まで! 先ほど事件を起こしていると思われる者の居場所が判明した! 皆のもの! 今こそ、剣を! 魔力を! そして、勇気を奮い立たせろぉおおーーーッ!!」


 ーーウォオオオオオオッーー!!


 地面が揺れてるのではないのかと錯覚するほどの気迫を兵たちから感じる。グレイ伯爵からの激励で兵たちの士気は最高潮、今ならドラゴンでも討ち取れそうだ。


 アリエスのそばに控えていた、騎士が歩き出した兵の元に案内してくれる。


「では、アリエス様。我々も行きましょうか」


 呆然と見ていたアリエスも遅れまいと騎士の後ろを地面をしっかりと踏みしてついていく。



 その空の上では、黒い何かがアリエスたちを追い越し森の中に入っていく。


 その正体は果たして………




◇ ◇ ◇ ◇




 原因と思われる森の中に入ったグレイ伯爵一行は、探知の要のアリエスを先頭に魔力の残滓を頼り、原因と思われる場所に向かっていく。


 残滓を探知をしているアリエスの元に武装に身を包んだグレイ伯爵が近づいてくる。


 その様子は先ほどよりも軽く、まるで親戚の叔父さんといった感じだ。


「アリエスくん、どうだね。もうすぐ着くのか?」


「おそらく、まだですね。痕跡もまだまだ少ないですし、特有の魔力がまだ見つかりません」


「……そうか」


 グレイ伯爵がガッカリと様子で元の場所に戻ろうとする、その時だった……


「敵襲ッーー!!」


 アリエスの隣に控えていた一人の兵士から、敵襲という単語が聞こえてくる。


 すぐさま、グレイ伯爵と兵たちは戦闘態勢に移る。グレイ伯爵は剣を、兵たちは槍、弓、剣を手に取り円を描く様に互いの背を預け辺りを警戒する。


 森の中は暗く視界が悪いため、敵がどこから出てくるのか分かりずらい。みな、神経を研ぎ澄ませ森の中を注視する。


 アリエスはというと、目の前に突如現れた黒い渦の中に両手を突っ込んでいた。これはアリエスが夢の中から、アイテムを取り出すときの状態だ。


 物の大きさによってその渦の大きさは変わるが今、話すことではない。


 しかし、当然グレイ伯爵たちはそんなことを事前に知らされていないため、警戒しながらもアリエスのことを驚愕の様子で見ていた。


「ア、アリエスくん? その黒い渦? はなんなんだい?」


 代表してグレイ伯爵がアリエスにその目の前の黒い渦について尋ねる。


「あっ! グレイ伯爵様。すいません、言い忘れていました。これは僕の夢魔法の一つ、ドリームボックスですよ。夢の中の品を取り出すための魔法です」

  

 何もない空間から取り出せるため、アリエスはそれを別名ーー擬似空間魔法と呼んでいる。


 グレイ伯爵の問いかけに返しながら、アリエスが黒い渦から両手を抜き出すと。


 その両手には二丁の豪華な海賊銃が収まっていた。色はそれぞれ黒と金の装飾が入ったかなり豪華な銃だ。


 この銃は昔、父が海賊の映画を見ていた時、アリエスもたまたま見ていたおかげで夢から取り出す事ができた。


 しかも、なぜかこの海賊銃も薬同様、異世界仕様にパワーアップしており、魔力がある限り弾が無限に尽きないという、チート武器に変化している。


 当然、この世界は魔法が発達した世界のため銃などといった兵器みたいなものはなく、警戒中ということも忘れて、初めてみるものにグレイ伯爵も兵士たちも興味津々だ。


 グレイ伯爵がアリエスの武器のことを聞こうとする時、辺りを警戒していた一人の兵から全員に聞こえる様な大きな声が上がる。


「右前方、黒い陰、来ますッ!!」


 茂みがガサガサと揺れたかと思うと、黒い一匹に狼がかなりの速さで飛び掛かってくる。


 それを一人の兵が難なく斬り飛ばすと、その狼の姿を確認する。


「これはッ! ナイトウルフです!!」


 兵士からの情報にアリエスは、頭の中からナイトウルフの情報を引き出す。


 ナイトウルフ? 確か、学校の図書館で見た事がある。暗い森に生息しており、集団で狩りをする狡猾な狼型魔物。と言うことはあーー


「ーー囲まれていますッ!!」


 一人の兵士からの情報を言い終えると同時に、周りの草むらから先ほどの狼と姿が同じ魔物が再度襲い掛かってくる。


「全員、迎撃体制ッ!! 盾持ちが前で抑え、後ろから槍で攻撃、弓と魔法は中央から攻撃ッ!!」


 グレイ伯爵は全員に指示を飛ばす。


 そして、自身は後ろから吸血鬼特有の魔法、血魔法を使い、血の魔弾で迎撃していく。


 アリエスも後ろから弓兵たちと共にナイトウルフたちを狙撃していく。やはり、銃の出す音は衝撃的だったのだろうか、グレイ伯爵は驚愕した様子でアリエスの手に持つ銃に軽く目をやる。




 それから、数十分が過ぎた頃だろうか。


 突如、襲いかかってくるナイトウルフたちが撤退し始めたのだ。


 敵わないと分かって諦めたのか、それとも何か別の理由があったのかは分からないが。これはアリエスたちの勝利に間違いなかった。


 もう、襲ってこないと確認すると、グレイ伯爵が声を上げた。


「我々の勝利だぁああ!!」


 ーーワァアアアアア!!!!


 グレイ伯爵の勝利の宣言と共に兵から勝鬨かちどきの歓声が上がる。


 だが、それもいつ間でも喜んでいるわけにもいかないので早々に切り上げ、周囲に積み上げられた数十以上のナイトウルフの死体を片付け始める。


 魔物の解体などをしたことないアリエスは、死体を片づけている兵をグレイ伯爵と共に眺めていた。


 これが実戦……学校の授業で行った守られながら戦うのとは全然違った。こんなにも命懸けで、大変だなんて……


 戦闘の時には感じながったが今になって疲れと恐怖を感じ始めたのだ。


 そんな様子のアリエスの元に心配になったのかグレイ伯爵がやってくる。


「アリエスくん、疲れている様だけど大丈夫かい?」


 心配になってアリエスの元に来たようだ。恐らくそれだけではないだろうが……


「……はい、大丈夫です。……戦闘って、あんなにも大変だったんですね……」


「……そうだね。でも、我々がここでやられるわけにはいかないからね。この先には失踪した領民もいる」


 いつものグレイ伯爵のように気楽で陽気な感じで話してくれる。それが、アリエスにはとても心強かった。


「……そうですよね。ここで僕たちが頑張らないと、いけないですもんね!」


「そう、その調子だよアリエスくん」


 明るく元気になったアリエスを見て満足したのかうんうんと頷いている。それで、早速とばかりに先ほどから余程気になっていたのか、チラチラとアリエスの手元を見てくる。


「それより、アリエスくん!! 先ほどの武器はなんなんだい!? あんなの数百年生きてきたけど始めて見たよ!!」


 興奮した様子でアリエスの手に持っている海賊銃をグレイ伯爵は興味深そうに見ている。


 というか、グレイ伯爵って数百年も生きていたのか。衝撃の新事実だ……


 それより銃のことだ。正直にこれは異世界の武器なんです、と言うわけにもいかずアリエスは適当に理由をつけて誤魔化すことに。


 嘘をつくことに、グレイ伯爵ごめんなさい、と心の中で謝っておく。


「あ、あれはですね。ゆ、夢魔法の攻撃用の魔法ですよ。魔力の塊を風で飛ばす遠距離武器です。僕は風魔法は使えませんからね、工夫したんですよ」 


「へぇーーそうなんだね。いや、悪いね。こんな魔法、初めてだからびっくりしちゃったよ」


 疑わしい目をしてアリエスを見てくるので、アリエスはそっと目を逸らす。


 それに、自衛手段を人に話すと言うのはかなりの信頼関係がなければいけないだろうから、誤魔化してもしかないよな、うん。


「さ、さぁ、そんなことより早く出発しましょう。原因の場所まで、もうすぐだと思いますよ!」


 アリエスは誤魔化すように早く出発しようと言う。


「……そうだね」


 まだ、納得していないがアリエスのいうことも一理あるのでグレイ伯爵はその通りにすることに。


 しかし、その目はまだアリエスの手元に向いているのだった。




 読んでくださりありがとうござました。


 少しでも面白いと思われましたら、評価のほどよろしくお願いします。

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