第6話 ここのお肉超美味い
「失礼します、チェルシーです。ご夕飯の時間になりましたのでお迎えにあがりました」
ハッ! もう夕飯の時間か……
アリエスは自身が思っていたより疲れていたのか、いつの間にか夕飯の時間になっていた。それに外は暗いため、時間の感覚が分からないのも原因の一つかもしれない。
「あっ、はい」
思考がはっきりとしない中で、迎えにきてくれたメイドさんにアリエスは曖昧な返事を返す。
それから、メイドさんに連れられ食堂の場所に向かう屋敷の通路を進んでいく。
ーーコンコン
「失礼します旦那様、アリエス様をお連れしました」
「入ってくれ」
メイドさんが扉を開けて中に入れてくれる。
中には当然としてグレイ伯爵、その左隣にアリエスを連れてきてくれた娘のエリー、そしてその隣にはエリーを大人にしたらこんな感じなのかな、といった風貌の綺麗な人がこちらを微笑んで座っていた。
食堂に着いたのは、どうやら僕が最後のようだ。
もしかしてもう少し早く来たほうが良かったかな? いやでも、メイドさんに連れてきて貰わなければ場所は分からないから仕方ないよな、うん。
そんな無駄なことを考えながらメイドさんに案内されアリエスは席に着く。
すでに大きな長方形のテーブルには、夕食のパンやスープ、高そうな分厚いお肉が並べられており、美味しそうな匂いを部屋中に漂わせている。
用意された食事を前にアリエスはゴクリッと唾を飲み込んだ。
「ふふ、揃ったようだね」
アリエスが何を考えているのか分かったのだろう、グレイ伯爵は笑みをこぼす。
「アリエス君は初対面だったね、食事の前にまずは紹介しよう。こっちは私の妻のメアリーだ」
グレイ伯爵が簡潔に紹介してくれたのはアリエスの正面に座っている綺麗な人だ。
やはりエリーさんに似ている人は、エリーさんのお母さんだったようだ。
白い肌に輝くような銀髪、エリーさんとは違い綺麗なワインレッドの瞳、そして母性の象徴たらしめる大きな胸、改めて見ても綺麗な人だ。
「はじめまして、グレイ・ベルガモットが妻、メアリー・ベルガモットと申します。さきほどは旦那が失礼をしてしまったようで、こちらでもしっかりと言い聞かせてもおきますので……うふふふふ……」
優しい声をしているがその奥には静かに怒っているような冷たさを感じる。
「……ご、ごほんっ! メアリー、その辺で。そして、こっちは知っていると思うが私の娘、エリーだ」
少々恥ずかしかったのかほんのり赤い顔をして咳払いをして話を遮る。
紹介されたエリーも声を出さず少し頭を下げる程度。この家庭で誰が力を持っているのか一目瞭然。
「さぁ紹介も終わったところで早速いただこうか」
素早いグレイ伯爵の合図によって食事が開始する。どうにか、話の流れを切ろうと必死になろうとしているのが手に取るようにわかる。
そんなことより、早速とばかりに目をつけていたお肉を口に入れる。
「……ッ!!」
お肉を口に入れた瞬間、アリエスの脳内に衝撃が走る。
お、美味しい! 何なんだこの肉は!! 牛とも豚とも鳥とも違う。
だけど、それぞれの良さが合わさったかの様な旨味が凝縮されており、一口噛み締めるごとに極上の肉汁がジュワーっとあふれ出してくる。こ、これは止められない!!
その後、アリエスは夢中になって用意された食事を食べ続ける。
「アリエスくん、食事はどうだった?」
はっ! いつの間に意識が……確かあのお肉を食べてからの意識が曖昧に……えへへ。
アリエスはお肉の味を思い出し、自然と顔がニヤけてしまっていた。
しかし、グレイ伯爵に質問されているのを思い出しアリエスは慌てて答える。
「お、美味しかったです!!」
なんとも幼稚的な感想だったが、それでも伯爵は満足してくれたのだろう。
アリエスに優しい笑顔を返してくれる。
「それは良かった。先程食べたお肉は私の領地で取れる特産のお肉なんだ。もし気に入ったのなら帰る時にでもお土産として渡そう」
「それはありがとうございます!!」
ここに来て一番の笑みを浮かべるアリエス。グレイ伯爵は短い時間でアリエスの扱いをよく分かっている。
食事を終え一息ついたアリエスとグレイ伯爵一家は、今回の本題、最近起きている領民失踪事件について話を始める。
「それで今回、我が領で起こっている不可解な事件なんだが解決できそうなのかな?」
グレイ伯爵はそれ程までに領民のことが心配なのだろう、取り繕う言い方をせずに尋ねてくる。
真剣な表情をしたグレイ伯爵の迫力に圧倒されながらも、正直にアリエスは自身に何ができ、どうすれば解決できるのかを話す。
「そうですね、なにか手がかりは見つかると思います。失踪から戻ってきた人を見ることは出来ますか? 出来れば一番最近戻ってきた人なんかがあればいいのですが」
解決できるとは言わないが、なにか手がかりが見つかるとアリエス言う。
では、なぜ最近戻ってきた人がいいのかというと、その方が干渉された魔力をアリエスが感知しやすいからだ。
グレイ伯爵はアリエスの話を聞き、最近戻ってきた人を脳内に思い浮かべようとしたところーー
「ーーお父様、最近ですと我が家のメイド、マチルダがおりますわ」
グレイ伯爵の話を遮って、エリーが代わりに答える。なにやら、難しい表情をしているが何か問題でもあるのだろうか。
「そうだったね、早速呼んできてもらおうか」
グレイ伯爵は近くに控えていた執事に指示を出し、静かに椅子に座りくるのを待った。
それから数分経った頃だろうか、アリエスが入ってきた扉からある一人のメイドが入ってきた。
「お呼びでしょうか」
頭を下げ、グレイ伯爵からの指示を待つ。
「あぁ、最近領内で起きている事件の手がかりが君にあると言うのでここに呼んだ」
「……わたしに?」
「そうだ、こちらのアリエス君が君の中に干渉されたかもしれない魔力の
事前に説明していた、犯人の痕跡を探す方法をグレイ伯爵はアリエスに改めて確認する。
普通の魔力の痕跡ならば伯爵でも確認できるのだろうが、特殊な魔力の痕跡はその特殊な魔力を感じ取れる人でないといけない。
つまり、夢属性に関する痕跡は、夢属性を持つアリエスにしか確認できないということだ。
「はい、概ね《おおむ》それで合ってます」
「そういう事でしたら……」
グレイ伯爵から説明を聞き、納得したメイドさんはアリエスの近くに寄ってきて確認してもらおうとする。
アリエスはメイドさんの魔力を確認し、自分の魔力をメイドさんを覆う様に広げ、メイドさんの身体中に残っている魔力の残滓を
「どうだ、なにか分かったのか?」
真剣な表情でその様子を見ていたグレイ伯爵はアリエスにそう尋ねる。
メイドさんに広げていた魔力を霧散させ、集中を解いたアリエスはグレイ伯爵の問いに答える。
「はい、微かにですが僕の夢属性に似た性質の魔力を感じます」
これは賭けの類だったが、どうやら上手くいったようだ。夢属性の性質と異なればアリエスに感知できなかっただろう。
「おぉ! それでは」
先ほどの表情とは打って変わってグレイ伯爵は、笑みを浮かべ嬉しそうに声を上げる。
解決の糸口がなかった領内の問題が解決できるのがきっと嬉しいのだろう。
「はい、今すぐにでも行けます」
「よし分かった。チェルシー! 今屋敷に残っている兵を門の前に集めろ!」
グレイ伯爵はチェルシーに迅速に指示を出し、自らの腰に剣を携えてどこかに行く準備を始めた。
なんだが今から自身が調査に向かうような……いやいや、まさか伯爵自ら行くことなんて本当にある……か?
「あのグレイ伯爵はどうするので?」
気になったアリエスが聞いてみると。
「もちろん、私も出る! 我が領内の問題だ、領主の私が出なければ領民に示しがつかない! それに私はこれでも伯爵だ、余程のことがない限りやられることはない!!」
確かにグレイ伯爵は強いのかもしれないが……まぁ、僕が何を言っても行くことをやめないだろう。先ほどの言葉はそれほどまでの覚悟を感じた。
ーーこうしてアリエスとグレイ伯爵率いる兵による、吸血鬼失踪事件の捜査が始まった。
読んでくださりありがとうござました。
少しでも面白いと思われましたら、評価のほどよろしくお願いします。
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