第一章 吸血鬼編
第4話 よろず屋、始動
大工の棟梁ガッツが去った後、アリエスは開店に向けての準備を始めた。
ガッツに好評だった夢から取り出した異世界産のアイテムを薬の効果が書かれた手作りのプレートと共に並べて置いていく。
よーし、これで準備は大丈夫かな。でも、開店の準備が出来たは良いけどいきなり開店したからって客が来るとは限らないよな〜
アリエスがこれからどういう風に店を切り盛りしていけばいいか考えていると。
ーカラン、カラン
店に来客を知らせる鐘が鳴る。
いきなり客がくるわけがないと思い、ガッツさんが忘れ物でもしたのかなと思ったアリエスは、ガッツさんに確認するため店の奥から移動する。
しかし、移動したそこにガッツは居らず、アリエスと同じぐらいの身長の綺麗な少女が立っていた。
ーー綺麗な銀髪に、血の様に赤い大きな瞳、肌は白く、まるで人前には滅多に出てこない吸血鬼のような可憐な少女。
少女にしばらく見惚れていたアリエスだったが、しばらくして意識を取り戻す。
「……い、いらっしゃいませ、い、依頼ですか? お、お薬をお求めですか?」
今、考えたばかりの店での挨拶を可憐な少女に言う。少々
「あら、こんにちは。ここにフィリップさんという方が、店をやっていたと思っていたのですが……」
鈴の転がすような綺麗な声で、可憐な少女がこの店のことを尋ねてくる。
どうやらこの少女、アリエスへの来客ではなく元の店主フィリップさんを訪ねてきた人らしい。
嘘をつく理由もないのでアリエスは、フィリップさんのことを正直に話す。
「前の店主フィリップさんは僕に店を譲って隠居しましたよ」
「あら、そうなの! でも、それなら困ったわね……」
アリエスからフィリップがいないと聞いた少女は、綺麗な顔を歪めて困った顔をする。
すごく困っている少女を見て、見過ごせないアリエスは助け舟を出す。
ーー元々、ここはよろず屋だ。
困っている人がいれば、それを解決するのが仕事。当然、アリエスも困っている人のために助けようとする。
「あの〜、もし宜しければお話だけでもお聞かせ願えませんか?」
「うーん……そうね、良いわ話してあげる」
少女は考え込んだ後、アリエスに話しても平気と判断したのか了承してくれた。
この少女の名はエリー、吸血鬼族の貴族令嬢でフィリップの噂を聞き遥々北方の地からこの店を訪ねに来たらしい。
やはり、見た目通り吸血鬼族だったようだ、しかも貴族令嬢。これは慎重に対応せねば。
貴族といっても、吸血鬼は人間社会の貴族制とは違い、実力によって爵位が決まる。下から
これはアリエスが学校にいた頃、図書館にあった本に載っていた。
この少女の両親は伯爵の吸血鬼、吸血鬼で伯爵といえば、単騎でドラゴンを倒せるほどだというではないか。
そんな高位貴族に分類される実力者だ。
高位の貴族が解決できない問題をお爺さんに依頼しに来たということは、フィリップさんは僕が思っていたより凄い人だったらしい。
しかし、吸血鬼は長寿のため時間感覚が人間とは違うと聞く。そのため、フィリップさんが年老いていることに気が付かなかったようだ。
それで本題のフィリップさんに依頼したかった事とは、最近領内で不可解なことが起きた事件を解決して欲しいという。
それは住民が寝ている間、突然いなくなると言う。しかし、いなくなると言っても数日経てばいつの間にか戻っているという。
なんとも不可解な事件だ。
しかも、戻ってきた人に何があったと聞いても、その間の記憶はないという。
今回、その事件の原因を突き止めて欲しいといった依頼を受けて欲しかったのだが、フィリップさんがいないため諦めて帰ろうとしたところ、アリエスに出会ったというわけだ。
ーーそこでアリエスは思う。
もしかして、これはチャンスではないだろうかと。初日でお客のいない新しい店、目の前に困っている依頼人、そして今、受けている依頼はない。
まさに自分に依頼を受けろと言わんばかりのタイミングだ。
「エリーさん、もし宜しければその依頼……僕に任せてくれませんか?」
「……あなたに?」
エリーは疑わしい顔をしてアリエスを見つめる。
見た目が自分と同じぐらいのアリエスに解決できるのか疑問に思っているのだろう。
しかしこの依頼、幸運にもアリエスにピッタリの依頼だった。
寝ている間に何処かに消えてしまう。
つまり、夢が関係あると言っても過言ではない! 夢の魔法を扱うアリエスは、いわば夢のエキスパート。
今回の事件を解決できる可能性が高い。
どうにか依頼を受けさせてもらうため、いかに今回の事件に自分が役に立つのかをエリーに説明する。
「僕が扱う夢の魔法は、夢に潜り込んだり出来る夢に関する魔法なんですけど、今回の依頼にピッタリと思いませんか?」
「ん〜〜そうね、ここに居た前の店主もいない事だし、今回がダメならまた改めて探せばいいかしら。良いわ、今回の依頼あなたに任せるわ」
少し考えた後、エリーは了承してくれた。
「ありがとうございます!! 急いで支度しますね、そこのソファーでお待ちください」
感謝を述べたアリエスは、支度するため急いで店の奥に戻っていった。一人残すのは失礼かもしれないが、店はアリエス一人しかいないため仕方がない。
「お待たせしました、準備できました!」
外に出かけるようの服装に着替えたアリエスは、背に大きめのバックを背負って戻ってきた。
エリーはアリエスをチラリと見た後、店の商品に視線を戻す。そして、気になった物でもあったのかアリエスに説明を求める。
「店主さん、ところでこの棚にある薬はよく効くのかしら?」
エリーが指を差す先には、元の世界では一般家庭で置かれている目薬があった。一人でいる間に店内を見て回っていたようだ。
「えぇ、よく効きますよ。さっき二日酔いの薬を飲んだ方がいたのですが、飲んでからすぐに良くなりました」
二日酔いの薬を飲んだガッツは確かによく効いていた。元の世界とは比べ物にならないほど。
「あら、そうなの? じゃあ、試しにこれとこれを貰おうかしら」
エリーが見ていて気になっていたのだろう、目の疲れを癒す目薬と貧血を癒す増血剤を買っていった。
吸血鬼だから増血剤を買っていったのだろうか? 確か吸血鬼は血を使った魔法を使うというし、鬼に金棒、いや吸血鬼に増血剤だな。もしや、僕はとんでもない相手に売ってしまったのかもしれない。
「ありがとうございます、袋に詰めておきますね」
店内での用事も終わったことで、ようやくエリーの住んでいる事件の場所に向かうことに。
移動方法はエリーがこの町まで乗って来た馬車だ。
エリーが乗って来た馬車は特別製で、ドラウプニルと言われる馬とドラゴンが融合したような、特別な竜馬が引いている。
そのスピードは普通の馬とは比べ物にならない程速く、さらに空をも飛べると言う優れもの、これならすぐに目的の場所に着くことができるだろう。
領地に向かうため馬車に乗り込んだ馬車の中は、とても気まずい雰囲気に包まれていた。さっき、初対面の二人がいきなり話すのも中々難しいのだろう。
アリエスが何を話せばいいんだろう、そんなことを考えて、とりあえず話さないと何も始まらないということでアリエスが無難に話しだす。
「あの〜……今日は天気が良いですね」
「「………」」
馬車は先ほどより重い空気になってしまった。アリエスは話題を間違ってしまった様だ。
気を遣ったのかエリーがアリエスにフォロー?する。
「……無理して話さなくてもいいわ。それに今日の天気は曇り空なのですけど」
しまった! とりあえず何でもいいからと思って話してみたが全然違うことを言ってしまった! なんで今日に限ってこんな天気なんだよ!
「そうですね、ははは……」
「「………」」
アリエスの乾いた笑い声が馬車の中に響き渡る。そして、再び沈黙が訪れる。
アリエスは懲りずに再び何か話題はないかと必死に探し出す。
ーーそこで、アリエスがあることに気づく。
「あっ、そう言えば。どうして、エリーさん自らが依頼を出しに来たんですか? 伯爵令嬢なら使用人などに任せるとばかりに思っていたんですが」
エリーは貴族令嬢だ、家に執事やメイドは当然いるだろう。なのに、わざわざ自らが足を運んでまで店に来たということは何か理由があるのだろうか?
「あなた、前の店主から聞いていないの?」
ジトっとした目でアリエスを見ながら呆れたように言う。まるで、バカなことを言っている子供を見るような目で。
「前の店主と言ったら、フィリップさんでしょうか?」
「どのフィリップさんか会ったことないから知らないけど、私が聞いた話では直接依頼を出さないと受けてくれない偏屈な人とお父様に聞いたわ」
フィリップさんが偏屈な人? 僕があった印象は普通に優しいおじいちゃんって感じだったんだけど。もしかして別人!?
心配になったアリエスは一応確認のため前前の店の名前をエリーに聞いておく。
「……その人がやっていた店の名前って分かりますか?」
もしこれで違う店だったらかなりまずい、他の人から依頼をとってしまったことになる。
「確か……イクシオンだったかしら?」
良かった合ってたフィリップさんがやってた店の名前であってるよ。看板を外していたし間違いない! もし違う人だったら僕が依頼を受けるのがおかしくなっちゃうからね。
ーーなんとも幸先が悪い、アリエスの初の依頼が始まった。
読んでくださりありがとうございます。
少しでも面白いと思われましたら、評価のほどよろしくお願いします。
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