第3話 異世界産アイテム!?


 よろず屋の店主フィリップから店を譲り受けた日の翌日。


 店を始めるためアリエスは、店内を明るい雰囲気に改築することに。フィリップから譲り受けた店の中は、家具が運び出されてスッキリとしていた。


 昨日の今日でいつの間に、と思ったが早いに越したことはない。


 そのため、アリエスは店の改築のために実家の牧場でいつも世話になっていた馴染みの大工の元に訪れることにした。


「こんにちはー! ガッツさん、居ませんかーー! 僕ですよー、アリエスです!」


 アリエスが店に響くほどの大きな声でガッツさんと呼びかけると、店の中から大きな男がのっそりと出てきた。


 この大きな人は僕が小さい頃からやってるこの店の棟梁で、街一番の腕前を持つ大工のガッツさんだ。


「おぉ! アリエスじゃねぇか、今日は牧場の柵の修理か?」


 人の良さそうな笑顔を浮かべ、アリエスに対応してくれる。棟梁自ら対応してくれているのだから、かなりのVIP対応なのかもしれない。


「いや違うよ、今日は僕の店の改築を頼みに来たんだ!」


「おめぇー、店を持ったんか!? そりゃ若ぇのにすげーじゃねぇか」


 ガッツに褒められたアリエスは、照れながらどうして店を持ったのか訳を詳しく話す。


「……あぁ〜、あそこの爺さんか。何年も見ねぇから死んじまったと思ってたが……生きてたか。それにしても店をポンっと渡すたぁ気前が良いじゃねえか」


 ガハハッと豪快に笑った後、ガッツは店の改築の要望についてアリエスに聞く。


「っで、アリエスはその店をどんな風に改築して欲しいんだ? おめぇさんの両親にはいつも世話になってるからな、少しは安くしとくぜ」


 安くなるというので出来るだけ僕は詳細に店のイメージをガッツに伝えていった。


 なるべく簡単で分かりやすいように……ガッツさん、腕はいいんだけど、覚えとくのが苦手だからなぁ〜……。


「よし分かった! 店内はシックで落ち着いた雰囲気に、家具はこっちで安く揃えといてやる。それで外観はそのままでいいのか?」


 確かに老人から譲り受けた店の外観のデザインは少々古いが、アリエスは逆にそれがいいと言うのだ。


 何でも、お爺さんから受け継いだのだからそこは変えずに残すらしい。


「じゃあ、大体一週間ぐらいで完成するからその時にまた来てくれ」


「うん分かったよ」


 注文を終えたアリエスは、仕事が決まったと両親に伝えるために実家に帰ることに。


 両親に伝えるのは少々気は重いが行くしかあるまい。




 ◇ ◇ ◇ ◇      




「ただいまー、帰ったよ父さん、母さん」


「あらお帰りなさい、今お父さんは外に出てるから夜になったら帰ってくるわ」


 今、僕に優しく返事をしてくれたのは、今世の母さんだ。


 今世の僕の母は、少々おっとりとしていて近所では優しそうなお母さんと有名だが、牧場の動物達を追いかけるさまは、獲物を狩る獅子というぐらい迫力がある。


 ーーでも、そんな母さんも前の世界の母さんと同じくらい大好きだ。


 そんな母さんに、僕が帰ってきた本題を早速話す。父さんも一緒に居てくれたらよかったのだが、いないのならしょうがない、先に母さんだけにでも話しておく。


「僕、仕事が決まったよ」


 仕事の内容は父さんが揃った時に言うとして、今は仕事が決まった事だけを言う。


「あら、それはお祝いね! 今日は豪勢な料理にしなくちゃ」


 母さんは僕の就職決定に、子供のようにぴょんぴょんと跳ねて自分のことのように喜ぶ。


 アリエスはその様子を、若干呆れた様子で嬉しそうに見ていた。




 父さんが帰ってくるまですることも無くなったので、牧場の手伝いをして夜まで時間を潰した。


 アリエスの動物の扱いはお手のもの、15年間実家の仕事を手伝っていたのは伊達じゃ無い。


 そんなアリエスは、世話をしていた喋れない羊に向けて愚痴をこぼす。


「僕、仕事は決まったんだけど……どんな内容なのかは二人にまだ話してないんだ。父さんも母さんもよろず屋なんて不安定な仕事をすること許してくれるかな……」


 アリエスの言葉に反応することもなく、羊は牧場に備えられている餌場の草をむだけで返事はくれない。


「まぁ、君に話してもしょうがないか」


 世話も終えたので道具を片付け、アリエスは家に重い足取りで戻っていく。




 結果だけ言うと、両親は僕が店をやっていくことには賛成してくれた。


 最初は反対されるかもと思ったが、両親は寛大にも受け入れてくれた。アリエスの人生なのだからアリエスの好きにしたらいいと言って貰えた。


 それに、仕事に疲れたらいつでも家に帰ってきてくれていいとも……本当に今世の両親にも恵まれているなぁ。


 その日のアリエスは、いつもより気分良く眠ることが出来たという。




 その日の夜、実家で寝ていたアリエスは不思議な夢を見た。それは転生する前の世界の夢だ。


 前の世界の両親がいて、友人がいて、優樹(アリエス)自身がいる。嬉しくもあり、悲しくもある夢だ。


 懐かしい夢を見て、少々寂しく思う。


 別に元の世界に帰りたいと言うわけではない。


 今、アリエス(優樹)は魔法の世界で生きている。


 前の世界に未練がないといえば嘘と言えるが、今の世界に不満はない。唯一の不満だった職も決まり、これからの生活は希望に満ちている。


 これからのアリエスには波瀾万丈の日々が待ち受けているのだがーー今のアリエスには知る由もない。




 両親への報告を終えた日から一週間、実家の手伝いをしたり、店の買い出しをしたりと中々忙しい日々を過ごしていた。


 そして、遂にアリエスの元に店が完成したという知らせが届いた。その時、アリエスが嬉しさのあまり魔法が暴発してしまったが、それはご愛嬌。


 知らせを聞いたアリエスは、急いで大工のガッツさんの元に向かう。


「ガッツさーーん!! 店が完成したんだって!?」


「おいおい、いつもより声がデケェぞ。二日酔いの頭にその声は響く」


 だって自分の店だよ! 普通テンション上がるよ! でも確かに声がデカすぎたかもしれない。今までで一番の声が出たかもしれないな。


「あっ、それはすいません。お詫びと言ったらなんですがこれをどうぞ」


「なんだこれ?」


 アリエスが手渡したのは、茶色の瓶に白い錠剤が沢山入った薬だ。それはアリエスが夢の世界から取り出した、元の世界の二日酔いを治すための薬。


「それは二日酔いによく効く薬だよ」


 それから、ガッツに飲み方の説明をしてあげる。飲み方ぐらい分かるだろうと思うが、それは違う。


 夢の世界から取り出した薬は、元の世界の文字のままなので、この世界では書いてあることはアリエス以外分からない。


 そのため、アリエスが説明してあげる他ないのだ。 


「ありがとうな。じゃあ早速頂くとするわ」


 アリエスから説明を聞いたガッツは、礼を言い早速薬を飲む。


 ジャラと薬を二、三粒取り出すと側にあった水で飲み込んだ。


 すると、不思議なことにガッツの体がボワッとと淡く光る。しかし、その光もすぐに消えてしまう。


「おぉ!! こいつはすげー、二日酔いがあっという間に治っちまった!」


 なんと、ガッツの二日酔いが光が収まったと同時に治ってしまった様だ。うーん、元の世界でもここまでの効き目はなかったはずだが……


「この薬はお前の店で出すのか!?」


 期待した目でガッツは、アリエスの方を見てくる。


 店を改築してくれたガッツの期待に応えたいが、この薬は手元にもうない。そのため、アリエスは断るしかなかった。


「いや、この薬はそんなに数がなくて……」


「それは残念だ……」


 薬はないと聞き、あからさまにがっかりした様子を見せるガッツ。


 どうせいくら飲んでも二日酔いにならないとか考えているんだろう。


 呆れながらもそこまでの効果があったのかと、不思議そうに瓶を眺める。昔、前の世界の父さんがこの薬を飲んだ時は、効くまでに多少時間はかかったはずだが。


 ーーその時、これほど効くなら元の世界の品を売るのもいいかと思ったアリエスだった。


 余談だが、この世界の薬の扱いは資格などは必要なく各々で販売できる。だが偽物もそれなりにあるので買う場合は自己責任だ。




 ガッツの件で忘れていた、ここに来た目的を思い出し、薬を飲んで二日酔いが治ったガッツを伴って完成したと言うアリエスの店に向かうことに。


 しばらく歩いて店の前に着く。


 そこには前と変わらない外観の建物。外から見ただけでは分からないが、窓から中を覗いた限りアリエスの要望通りシックな良い雰囲気の店内に代わっていた。


 ーーカラン、カラン


 変わらず店内に来客を知らせるベルが鳴り響く。この音が好きでアリエスは、ベルを変えないように頼んでおいたのだ。


 店内に入ると傷んでいた箇所はきれいに修復されていて、前とは比べ物にならないほど綺麗に生まれ変わっていた。


 前もそれなりに綺麗だったのだが、やはり新品の方が気分がいい。


「ガッツさん、イメージ通りだよ! これでお店を始めれるよ!」


「おう! それは良かったな。ところでこの店を受け継いだが一体何をするんだ?」


 言われてみれば店で何をするのかガッツに言ってなかった……


「それは……」


「それは?」


「不安を抱えていたり、悪夢を見たりする人たちの心を綺麗にして、幸福な夢を届ける仕事をします!!」


 自分の普通のことができない特別な魔法を逆に活かし、夢に関する仕事をすると言う。まぁ、要するに何でも屋と言うわけだ。


 ーーアリエスの夢魔法を使った、この世に一軒とない特別な店になる。


「心を綺麗にするってどうするんだよ?」


「僕の魔法で分かったことなんだけど、夢と心は繋がっているんだよ。だから、僕がお客様の夢に潜り込んで心に抱える不安を吹き飛ばし、要望に沿ってお客様の好きな夢を見せるんだよ」


 アリエスがこれからしようとすることは、まるで伝説の夢喰いバクのようだ。


「それは凄いじゃねえか! おめぇさんにしか出来ない良い仕事だな。俺も利用させてもらおうかな、まぁ不安なんてないんだがな。ガハハハッ」


 笑いながらそう言うとガッツは、自分の店に戻っていった。


 ガッツが去り静かになった店内でアリエスは、開店に向けて黙々と準備を始める。





 読んでくださりありがとうございます。


 少しでも面白いと思われましたら、評価のほどよろしくお願いします。

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