第2話 運命の出会い


 どうも、気がついたら赤ちゃんに生まれ変わっていた元高校生です。 


 転生なんて馬鹿馬鹿しいと思っていた僕は、最初夢でも見ているのかと思っていた。だが、母と父の夢とは思えないほどのぬくもりに、これは夢ではないとようやく気付いた。


 ーー僕はどうやら本当に転生してしまったようだ。


 しかも、僕が赤ちゃんとして生まれて早数ヶ月で気づいてしまった。ここが元の世界ではなく、異世界だということを!


 なぜかって? それは、この世界に魔法があるからだ!!


 僕は初めて魔法を見た時、年甲斐もなくはしゃいでしまったものだ。その時は赤ちゃんだったが。


 僕が魔法を知ったその日から、母と父が魔法が使う度に飛びつき近くで観察しようとしたら、危ないからやめなさいとよく注意された。

 

 僕が魔法の存在を知ってから数年、本を読んだり、話を聞いたり、調べていくうちに分かった事がある。


 それは、この世界の魔法の種類は基本、火・水・風・土の四系統、希少属性の光・闇があるということ。大体の人が四系統の魔法属性を持っており、その中で稀に光・闇の属性を持ったものが現れる。


 基本一人に一系統の魔法が使えるため、僕はどの系統の魔法なのだろうかと楽しみにしていたのだが……実は僕にはどの系統も当て嵌まらなかった。つまり、僕には魔法が使えなかった。


 僕はそのことを知った時は、ショックのあまり気絶してしまったほどだ。異世界に来たというのに魔法が使えないとか、どんな縛りプレイだよ。


 ーーしかし、神は僕を見捨てなかった。


 火・水・風・土・光・闇、どの系統にも当て嵌まらない珍しい特殊属性を持ったものが、ごく稀に生まれる事があるというではないか。その希少度は光・闇とは比べものにならないほどで、世界に一人しか持てないと言われるユニーク魔法だ。


 なぜ特殊属性を持ったものが生まれるのかは、未だに偉い賢者でも分かっていないそうだ。だが、そんなこと僕にはどうだって良かった。


 ついに、ついに! 僕にも魔法が使えたのだ!! 今度は嬉しさのあまり気絶しそうになったが、今回はなんとか耐えた。気絶耐性でもついたのだろうか?


 そんなことより、僕が持っていた特別な魔法属性は夢属性。発覚した時は騒然としたものだ、それは王都の研究者たちが態々わざわざ田舎に訪れてくるほどに。


 そして調べていくうちに分かったのは、夢に潜り込んだり、夢の物を現実に持ち込んだりすることができる、不思議な魔法と判明。


 初めの頃は中々のチート魔法だと思ったが。それほど使い勝手は良く無かった。


 夢の物を持ち帰る事はできるのだがそんなに容量は無いし、夢に潜り込むのも凄く魔力を使って30分も持たない、そもそも夢を見なければ使えない。


 そんな風に普段使いは、あまりできない使い勝手の悪い魔法だ。しかし、僕には他の人ではあり得ない持っている。



 それは、僕には転生前の記憶が残っているということだ!! つまり、この異世界に元の世界の物を持ってこれるということ。


 これは何者にも負けない、僕だけの特異性だった。


 それから、実験として初めて元の世界の物を取り出した。それは石鹸だ。


 確かにこの世界にも石鹸はあるのだが、いい匂いがする石鹸は少々お高めで普段は綺麗にするだけの匂いのしない石鹸を使っていた。


 初めて使った時に、元の世界の石鹸は偉大だったのだと気づかされた。どうして、こんなにもいい匂いがするのだろうかと。


 当然いい匂いをさせていたら他の人にもバレる訳で、母が静かな深みのある笑顔で僕を問い詰めて、残っていた石鹸を持っていってしまった。まぁ、まだあるからいいのだけれど……


 僕の夢魔法はこの世界の人では使い勝手が悪いかもしれないが、僕には関係なかった。


 それに物語の有名な賢者も初めは弱かったというではないか、それから魔法を鍛えて凄く強くなったというだけで僕にも希望は持てた。


 だが、僕の夢属性の魔法は普通に鍛えても余り効果が出なかった。どうやら特殊な属性のため、鍛え方が他の属性とは違ったようだ。


 魔法を教えてくれる学校に行けば解決方法があるかも知れないと行ったが、そもそも特殊な属性を持つ人がいなかった。


 学校の授業でも普通の魔法が使えない僕は座学ばかりをやっていた。魔法の授業は四系統が基本的なため僕には意味がなかったからだ。


 四系統の魔法が使えないため、将来仕事を探すのは大変かもしれないが両親の継ぐから大丈夫だろうと教師に思われていた。しかし、僕は折角異世界に転生したのだから色々なことをしてみたいと思っていた。


 言い忘れていたがそんな不思議なこの世界での僕の名前はアリエス、何かと羊に縁がある。その日、羊の赤ちゃんと同時に生まれたからと付けられたらしい。


 そんなアリエスが生まれたのは牧場を経営している家で、アリエスは動物と共に育ってきた。当然、家の手伝いで動物と触れ合うこともあり、その中でも特に羊によく懐かれる。


 両親には将来牧場を継いで欲しいと言われているが、しばらくは他の仕事をしたいと言って両親に許しを得ていた。


 それに両親はいつでも帰って来てもいいからと言ってくれ、今世の両親にも大変恵まれた。


 そんなアリエスだが、学校を卒業してから仕事先を探し始めた。しかし、普通の魔法が使えないため中々仕事先が決まらず路頭に迷っていた。


 先の見えない道にアリエスは、諦めて実家の仕事を手伝うかなどを考え始めていた。


 あぁ〜、全然仕事が決まんないよ。学園のみんなは水の属性なら海に出て漁師に、土の属性なら建築の仕事に、僕の夢属性なら……何が出来るんだろうか? 寝具店か? いやいや、折角の異世界なんだから異世界らしい事がしたいし……


 そんなことを考えながらアリエスが歩いていると、ある一軒の店に目が止まる。


 『よろず屋・イクシオン あなたのお悩み解決します!』


 年季の入った古びた看板がなんとなく気になったアリエスは取り敢えず店に入ってみることに。


 ーーこの行動がアリエスの人生を大きく変える、運命の分かれ道だった。


 ーーカラン、カラン


 ドアを開けるとアリエスの耳に心地よいベルの音が聞こえてくる。


 店内を見回してみると古めかしいが綺麗にされており、祖父母の家を彷彿とされる安心感のある心地よい空間が広がっていた。


 アリエスが店内の雰囲気に和んでいると、店の奥からある一人の老人がゆっくり出てくる。


「……いらっしゃい」


 今にも倒れそうな雰囲気の老人。しかし、目はまるで歴戦の魔術師を彷彿とさせる迫力ある老人がアリエスに挨拶をしてくる。


「あっ、こんにちは。偶々目に入ったんで寄ってみただけなんですけど……」


 すると老人は何故か落胆した様にアリエスを見つめ返す。


 初対面でかなり失礼だが、アリエスは他のことに気を取られ気づかなかった。


「そうかい、何か依頼をしに来た客かと思ったよ」


「依頼?」


「そうさ、儂は依頼を受ければなんでもするよろず屋というわけさ。……店の看板を見てなかったのか?」


 よろず屋初めて聞く、探偵みたいなものか? しかし、今にも倒れそうだけどやっていけるのだろうか?


 アリエスは失礼なことを考えているけれど、それはお互い様。


 その時、何を思ったのかいいアイデアだとばかりにこの老人に依頼(相談)を提案する。


「なら依頼します! 僕の悩みを聞いてくれませんか?」


「んっ? 悩みを聞くだ? そんなこと依頼にしなくてもこんなジジイで良ければいくらでも聞いてやるよ」


 依頼じゃなくても聞いてくれると言うので、アリエスが抱える悩みについて老人に話してみることに。案外、この老人は見た目に似合わず優しいのかもしれないと思ったアリエスだった。




 悩みを話し出したアリエスはだんだんと止まらなくなり、悩みにとどまらず、最近起きた出来事から前に食べた美味しい店と関係ない話まで話し出す。


「ーーほう? そうか、今はそんな店が出来てたのか。……わしも若い頃はそんな風に色んなことを楽しんだものだ。だが、最近になると外に出るのもしんどくなってきてな。お主みたいに自由に生きるのは難しいもんだ……」


 二人は見事に意気投合。


 しばらくの間、アリエスとお爺さんことフィリップさんはお互いのことについて語り合った。


 日も暮れ始め、アリエスはそろそろ自宅に帰ろうと思ったところーー何を思ったのか突如フィリップはアリエスを引き留めあることを提案する。


 ーーそれは転生して一番かもしれない程、とんでもない提案だった。


「そうじゃ、お前さんこの店を継がんか?」


 フィリップさんは重大なことをなんてこともない様に唐突に言いだした。


「………………」


 そんなフィリップさんの提案にアリエスは、しばらく思考が止まってしまう。


「……えぇーーーーー!!!」


 今まで一番かもしれないほどの驚きの声をあげる。


 えぇ!? お店を貰う? この人は何言ってるの!? 店を貰うってつまり僕に店主になれと!? 今日初めて会った人にだよ!? どういう事!?


 驚くのも当然だろう今日初めて会った人に店を譲ると言うのだから。お爺さんの正気を疑って当然。


「儂もそう長くは無い、それなら将来有望なお主にこの店を託した方が良い。売るも良し、別の店にするも良し、なんでもするがいい」


「でも……」


「でもも、クソもない。儂は決めた! お前さんなら儂の店を託しても良い。こんな老人の長話に付き合ってくれたんじゃ。このぐらいの恩しか返せないが」


 そう言ってフィリップは、店の奥に入って行った。そしてそれから数分後、店の奥から戻って来たかと思うと一枚の羊皮紙を手に持っていた。


「これが店の権利書じゃ、これをアリエスお前さんに託す」


 なんで僕にこんな大事な物を……僕が悩みを聞いてもらっていた立場なのに


「……本当に……本当にいいの?」


「儂が良いと言っておるんじゃ。それで良いではないか」


 アリエスはフィリップの力強い覚悟が決まった目をまっすぐに見つめ返し決心する。


「分かった……この店、僕が継ぐよ!」


 アリエスは覚悟を決めフィリップからこの店を継ぐと言いきる。まだ若いアリエスにはかなりの決断だろう。


 アリエスの答えを聞き満足したのか柔らかい顔で微笑み、まるで孫を見つめる目でアリエスを見つめる。


 こうしてアリエスは仕事を見つけるどころか店を継ぎ、何でも屋の仕事を始めることになった。



 


 読んでくださりありがとうございます。


 少しでも面白いと思われましたら、評価のほどよろしくお願いします。

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