第33話 その花を育てた人たちへ(氷華、後書き)

「氷華、咲く時」完結いたしました。

この小説は、オレンジ文庫のノベル大賞に投稿しようとして、カクヨムでポチポチ書いておりましたが、7割ほどで力尽き(4章でブルガリアで倒れたところでタイムアップになった……)、さてどこに投稿しようかと思ったところで、創作友達の天上杏さんから「ポプラなんていかがでしょう?」と教えていただき……。


ポプラ社小説新人賞で一次落選した小説です。


読み返したらまあ「これガタガタじゃねえか」と思ったので、一次落選も、むべなるかな。

それでも私はこの小説が好きです。


私は、書き上げた小説を「好きだ」と思えることがあまりないので、この実感はちょっと嬉しいのです。


そもそも論ですが、私はこの小説を書く予定がありませんでした。出雲が出てきたのは「60×30」のシーズン2。ソチ五輪も終わり、貫禄と美しさを兼ね揃えた日本のエースとして登場します。その時点では彼の物語はありませんでした。


転機になったのは「60×30」のシーズン2で、全日本の楽屋で出雲が哲也に化粧をしながら、愛について語ったとき。彼が自分のことを話したのはその時が初めてでした。そして、お前、そんな過去があったんやな、と作者が思い至ったのです。

その時に初めて出雲の物語が生まれました。


この話を書く時、最初に気をつけたのは「羽生結弦の物語にはしない」ということでした。そのためには神原出雲の一人称で書いてしまうと、感情移入して話が暴走する。羽生結弦の夢小説になってしまう。だから、今までとは違う書き方をするべきだと思い至りました。

出雲は私にとって氷上の華。ならば、その華を育てた人たちがいるはず。種を見つけて、水を撒いて、芽吹の瞬間を見て、成長を促していた人たちが。

そんなわけで時間を遡行させながら、どうやってこの花を育てたのか、を語らせていく手法を取りました。

そうしたらあら不思議、全ての章で語り手が変わってしまいました。


一人称を変えながら時間を巻き戻す書き方は桜庭一樹の「私の男」で取られておりましたが、そこでそれぞれに役割を与え、全ての語り手を変える書き方は、天上さんの「氷上のシヴァ」をめちゃくちゃ参考にしました。

なのでこの小説は、天上さんが「氷上のシヴァ」を事前に書いてくださらなかったら生まれなかった小説なのです。実際に結構影響受けてます。ダンサー・イン・ザ・ダークとか……。


六人の、留佳を入れたら七人の語り手たちはそれぞれの役割を真っ当したんじゃないかなと思っています。簡単に解説。


一番出来が気に入っている章はスコット。コンパクトにまとまったな、と思います。

一番初稿の時にやっちまった章はダニー。初稿の時にケアレスミスが酷かったと、公募に出してから気がつきました。

一番予定と違ってしまった章は彗。この章も結構気に入ってます。ローマの休日はいずれちゃんと演技として書いてあげたいですね。

一番作者が悪ノリした章は真一。出雲とも留佳とも縁が濃いので、他の章の倍あります。しかし、一番楽しかったです。こういう、人の良さそうな不憫な人を描くのが大好きです。

一番難産だった章は美里さん。短いのですが、なんかきつかった……。

最後の章は……、堤昌親、オマエが全ての始まりだと言いたい。まぁ、オマエとは長い付き合いだからな。


神原出雲の物語はここで一旦閉じますが、「神原出雲は羽生結弦にあらず」、そして、「羽生結弦は神原出雲にあらず」なので、彼には彼にしか描けない美しいスケート人生がこれからもあることでしょう。それが動き出すか、動き出さないかは分かりませんが(あくまで出雲が主人公としては、ですが)、私のフィギュアスケートの小説は、一つの作品が完結しただけです。

なので、別の物語で出雲にあってくださると私は嬉しいです。


ここまで読んでくださった方、初稿から読んでくださった方、本当にありがとうございました。

特に天上杏さんには格別の感謝を申し上げます。私に「氷上のシヴァ」を読ませてくださり、本当にありがとうございます。おかげで出雲の物語が生まれました。


また別の物語でお会いしましょう。

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