第4話
今日も昨日と同じように起きて学校へ向かう。
母親は昨夜の発言について、何も言わなかった。
学校の廊下をぼーっとしながら歩いていると、声をかけられた。
振り返ると女子生徒が一人いた。
僕は笑顔を作った。
「一緒にお昼食べませんか!」
女子生徒はもじもじしながら、はっきり言った。
「中庭でどうかな?」
僕は笑顔のまま答えた。
中庭にあるベンチなら人が少なく、ゆっくり食べられる。
女子生徒は首を縦に振り、走っていってしまった。
僕は何故かモテる。
別に顔がとても整っている訳ではない。
勉強はそれなりにできるが、トップではない。
僕が思うに、独特の雰囲気が魅力なのだろう。
近すぎず、遠すぎずの距離感を保っているのがミステリアスな感じを演出しているのかもしれない。
教室に着き席に座ると、聞こえてくる会話にどんな返事をするか脳内会議する。
どれも下らない会話で、まだまだ子どもなんだな、と思った。
ショートホームルームが始まり、いつもと何ら変わらない学校生活が始まった。
一時間目は国語だった。
今日は漢字テストをするらしい。
出題範囲の漢字を一通り見て、テストを受けた。
20点満点のテストで、僕は満点を取ったことがない。
前日から対策すれば満点を取るのは簡単だろう。
制限時間が来たら隣の席の人と答案用紙を交換し、採点して返す。
今日も満点が取れないのは分かっていた。
結果は16点だった。
間違えた問題の中には、簡単な問題も含まれていた。
4文字が僕の頭を支配する。
失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した
それから昼休みまで何も考えられなかった。
約束は守りなさいという父親の教え通り、お弁当を持って中庭に向かった。
麗らかな日差しと、時折吹く心地よい温度の風が、僕の心を一時的に癒した。
麗しい髪を靡かせながら小走りで女子生徒がやってきた。
僕は自分の居場所を示すように、手を振った。
「お待たせしました。」
「大丈夫。僕も今来たとこだから。」
息を切らしながら話す女子生徒に、ベンチに座るよう促す。
「あのっ、水上累君ですよね!私、青木まゆみって言います。」
「まゆみちゃん、よろしく。」
膝の上にちょこんとお弁当をのせた彼女は、不覚にも可愛いと思った。
他愛もない話をしながら昼食を食べ進めていく。
僕が軽く冗談を言うと彼女は少し驚いていた。
「累君って冗談言うんだね。」
「僕だって普通の男子高校生だからね。」
大して面白くない冗談を彼女は笑ってくれた。
空になったお弁当を膝からどかし、僕達に静寂が訪れた。
僕はそよ風に揺られるダチュラの花を眺めながら尋ねた。
「普通って何だと思う?」
「えっ?」
彼女の反応に共感しながらも、ありきたりだなと思った。
普通の男子高校生は、普通が何かとは考えたとしても口に出すことはないだろう。
彼女は風変わりだな、とでも言うような目で僕の横顔を見た。
「考えたことなかったな。分かんないや。」
「実は僕も分からないんだ。」
そう言って笑うと、彼女も笑った。
嘘。
僕は僕なりの答えを持っている。
僕は至って普通の男子高校生だ。
変人のふりをしているだけの、ただの男子高校生だ。
小学3年生あたりまでは、普通だった。
僕は特別になりたかった。
だから変人のふりをし続けた。
ボロがでないように完璧に演じ続けた。
授業10分前のチャイムが鳴り響いた。
僕たちは立ち上がり、教室の前まで話しながら歩いた。
「じゃあ、また今度ね。」
「じゃあね。」
別れを告げ教室に入る。
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