第3話

 母親は夕飯の準備をしていた。

父親はちょうど風呂から上がったところで、涼んでいた。


「ただいま。」


僕は返事を聞かずに風呂に直行した。

服を脱ぎ捨て、頭と全身を洗い湯船に浸かった。

僕は男性用のシャンプーが大好きだ。

洗い終わった後の爽快感は、他のシャンプーではなかなか味わえない。

爽快感をじっくりと噛みしめ、風呂を後にした。

リビングに行き、返却されたテストの話をした。

両親は褒めてくれた。

とても嬉しかった。

父親は少し考えると僕の方を見て言った。


「お前は努力が嫌いなんだな。暗記系科目ばかり点数が良い。」


図星だった。

僕は笑うしかなかった。

僕は最小限の努力で、物事を成し遂げられるようになりたいと、常に考えていた。

天才になりたかった。


 夕飯を家族三人で囲みながらテレビを見る。

今日はクイズ番組だった。

歴戦の猛者が勢揃いし、凌ぎを削っていた。

中には有名大学の首席卒業者もいた。

僕が答えを知っている問題はほんの一部だった。

僕はポロリと思ったことを言った。


「この人達は勉強しか出来ないんだろうな。」


迂闊だった。

次の瞬間母親は怒り出した。


「どうしてそんなこと言うの!自分のIQが高いから他の人のこと見下してるんでしょ!あんたは何にも偉くないのに!」


やってしまった。

父親は怒る母親をなだめるだけだった。

僕は何も言わず、食器を片付け、歯磨きをして、自室に籠った。


僕はIQが少し高い。

全分野の平均は128で、分野によっては140だったり、98だったりと差が大きい。

でもIQが高いことで享受できるメリットは特になかった。

僕が他人を見下すような発言をするのは、自己愛性パーソナリティー障害のせいだった。

母親に怒られることがしばしばある。

大体の原因は僕の発言内容だった。

僕は毎回決まって何も言わず自室に籠る。

謝罪が出来ない訳ではない。

したくないのだ。

以前母親に怒られた時、何故このような行動をしたのか聞かれた。

素直に答えたら余計怒られた。

すぐさま僕は謝罪した。

何度も何度も何度も許して貰えるまで。


「謝ればいいと思ってるんでしょ。」


そんなつもりは微塵もなかったが、そう言われてしまっては仕方がない。

僕はそれ以降母親に謝罪するのを止めた。

ふと、時計に目をやると12時近くだった。

翌日の準備をし、床についた。

僕の身体はじんわりと温かくなり、夢の世界へと誘われた。

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