第2話

教室に入り中央にある自分の席に座る。

色んな音が混じりざわざわとしていた。

耳を澄ましてみると、昨夜のバラエティー番組の話をしていた。

派手な女子生徒はメイクや恋愛関係の話をしていた。


「今季のアニメは結構出来がいい。」


僕は声の方を見る。

地味な男子生徒が三人で話していた。

僕はアニメが好きだ。

たまにあの三人とアニメについて語り合う。

でも僕と彼らは仲が良いという訳ではない。

アニメという一本の細い糸で繋がれた仲だ。


「号令をかけて?」


その声と共に教室は静まり、委員長の声が発せられる。

全員が立ち上がり、お願いしますと言ってからお辞儀をする。

僕はお辞儀だけして席に座る。

僕は自分の声があまり好きではない。

中学校に入った時からお辞儀だけしかしなくなった。

ショートホームルームは文字通り、5分もかからなかった。

連絡事項を話し終えた担任は静かに去っていった。

そして教室はまた喧騒に包まれた。

僕は一時間目までの10分間を、自分自身を見つめるために使うことにした。


僕は友達が少ない。

周りの生徒はそれを聞いたら驚くだろう。

僕は友達になりたいと思った人か、僕たちは友達だ、と確認した人以外は友達として認識していない。

これは一種のこだわりなのだろうか?

僕は他人よりも一部の物事に対し、こだわりが強く、なるべくいつも通りになるようにしている。

医者はASD、いわゆる自閉症と診断した。

僕は軽度で、日常生活にさほど支障はきたしていない。

だが、僕はこの世界がとても生きにくいと感じる。

それは、自己愛性パーソナリティー障害とうつ病のせいだろう。

自己愛性パーソナリティー障害を簡単に説明すると、自分が優秀で特別な人間だと感じる障害だ。

診断は下りていないが、このまま成長すれば当てはまると医者に言われた。

僕は幾度となく、この障害に悩まされてきた。


僕が何か一つ失敗したとする。

完璧な僕が失敗したということは、優秀ではないという自閉症特有の白黒思考に繋がり、うつになる。

不の連鎖のスイッチの役割をしているのだ。


授業開始のチャイムが僕を現実へと引き戻す。


「今日はテストを返す。」


しわがれた声でそう言ったのは歴史の先生だった。

出席番号順に並び答案用紙を受け取る。

皆自分の点数がいくつで、友達との点数差がどれくらいで、クラスの中で何番目なのか、ということばかりを気にしている。

緊張した面持ちで並び、答案用紙を見ると顔を七変化させていた。

僕の番が来た。

速まる鼓動を聴きながら答案用紙を覗いた。

89点だった。

僕の心臓は平穏を取り戻し、脳内にはパラダイスが浮かぶ。

全員分返し終わると通常の授業をして終了した。


次は数Ⅰの授業だった。

またテストの返却から始まった。

僕は数学が苦手だ。

嫌いな訳ではない、むしろ好きな方だ。

数学に嫌われているのかもしれない。

僕は恐る恐る答案用紙を見た。

65点だった。

あまり喜べるものではないが、妥協点といったところだろう。

残りの時間は通常の授業だった。

その後もいくつかテストは返されたが、どれもそれなりに良い点数だった。

最後の授業が終わり、皆帰る準備か部活の準備を始めた。

僕は部活に入っていない。

少ない荷物をまとめ、足早に教室から立ち去った。


少し落ちかけた夕陽が僕を琥珀色に染めた。

自転車に跨がり、夕陽から逃げるように家へ颯爽と駆けて行った。

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