主人公、水上累
リーア
第1話
ピピピピッ ピピピピッ
無機質な電子音が部屋に広がり、鼓膜を揺さぶり、僕を不快にさせる。
僕はほんの少しばかり目を開けて、スマートフォンの位置を確認し、慣れた手付きで画面に指を滑らせた。
しかし、無情にも僕の束の間の休息は羽を生やし、飛び立とうとしている。
外から鳥のさえずりが聞こえる。
どうやら優雅に飛び立っていってしまった。
僕はゆっくり瞼を開けて微睡んだ目を擦った。
「うぅーん…」
低血圧だからゆっくりと起き上がり、トイレへ向かう。
次に洗面所へ行き、自室に戻る。
前日にハンガーに掛けておいた制服に着替える。
髪をわしゃわしゃとそれなりに良い感じにセットしてリビングへと向かった。
いつも通りソファーに座って朝の情報番組を観る。
できたばかりの朝食を受け取り、胃に押し込む。
母親からお弁当を受け取り、自室に戻る。
リュックにお弁当を詰め、玄関へ向かった。
「行ってらっしゃい。」
「行ってきます。」
軽く手を振って自転車に跨がり、高校へと向かった。
僕と自転車は相性が悪い。
正確に言うと僕と僕の所有物になった自転車は相性が悪い。
僕が生涯で所有した自転車は、22インチの自転車と今乗っている26インチの自転車の2台だ。
22インチの自転車は青色で、僕が小学2年生の時にサンタクロースがくれたものだった。
当時僕は近所に住んでいた小学1年生の男子と遊んでいた。
ある日その子は自転車に乗っていた。
「自転車乗れるんだ。」
僕が言うと、その子は不思議そうな顔で聞いた。
「乗れないの?」
「乗れないよ。自転車持ってないし。」
するとその子は嘲笑うかのような声で言った。
「乗れないんだ。」
僕は怒りを覚えた。
そして怒りを凌ぐ劣等感も覚えた。
僕は家に帰って両親に言った。
「自転車に乗れるようになりたい。自転車が欲しい。」
それからすぐクリスマスがやって来て、自転車を貰った。
その日のうちに練習を始めた。
一週間と少しで乗れるようになった。
少し遠くの公園に行く時に役に立った。
一年か二年経った頃のある日、タイヤに空気を入れた。
空気入れを外すとプシューという音と共にタイヤから空気が抜けた。
何度やっても空気が入らなかった。
父親に相談すると、パンクしたかもしれないから自転車屋に持っていこうと言われた。
自転車屋に持っていくと、空気穴付近のバルブという部品の劣化が原因と判明した。
26インチの自転車は中学校に入学するタイミングで買ってもらった。
なるべくグレーの自転車を選ぶように、と言われたのでグレーの自転車にした。
この時今住んでいる家が出来たので引っ越した。
引っ越したおかげで中学校は近くなり、通学は徒歩になった。
大して行く所が無い僕は家でゲームをするばかりで、ごく稀にしか自転車に乗ることはなかった。
たまたま乗った時ペダルがとても重く感じた。
漕ぐ度に太腿の筋肉を酷使し、家に着く頃にはプルプルと震えていた。
そんなこんなで僕は二回後輪をパンクさせた。
今考えると、タイヤの空気が少ない状態で漕いだため、体重と自転車の重みが太腿の筋肉にかかっていたのだと思う。
心地よい風が僕の頬をなぜる。
高校の正門に着いた僕は自転車を降り、駐輪場へ押していった。
人の波に紛れ、教室へと向かった。
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