Ep.29 大爆発!
一旦冷静になって事実を把握する。
今ナノカへの告白爆弾がCDの中に混じってしまっている。早くそのCDを再生しないといけない状態であるために家からCDプレイヤーを持ってきて見分けている場合なんかではない。
CDが滅茶苦茶に混ざってしまったことに関して彼女がもう平謝り。
「や、ヤバい? 本当にごめんなさい……とんでもないことをやっちゃったみたいで……それもワタシの勘違いで……」
すぐにフォローを入れたのが、黒幕の星上先輩だ。
「い、いや、国立は何も悪くないよ……。このことを予想できなかった自分が悪いんだ……」
それを言うなら、僕もだ。
星上先輩からCDを貰うことよりも放送部の仕事を優先していれば、今のピンチには陥らなかった。
「……僕もちゃんと応援メッセージのことに気付いていれば……何かの対策は取れたんだ……もっと真面目に放送していたら、こんなことにならなかったんだ」
ナノカは負い目があるのか、責めてくることはなかった。
すぐに何とかしようと野木先輩は希望を持たせてきた。
「ま、まぁ……大丈夫だよ。急いで音量を下げて、聞けば……!」
野木先輩の提案にニッコリ笑顔になっていくのは、菰原先輩だ。
「あらあら、泰斗にしてはいい案じゃないの!」
「じゃあ、早速……あれ?」
発言通り、一回音楽の音量を下げようと放送機器のツマミを回していた。しかし、一行に下がる様子がないのだ。理亜が思い詰めた様子で顎に手を当て、口にする。
「壊れてるのか……? ところどころぼろいところがあったからなぁ……まさか。先輩、これじゃあ試しに流すってのは無理でしょう」
希望から一気に転落。
最悪な状況に陥ったのは僕より、今の案を出した野木先輩だった。菰原先輩に胸倉を掴まれている。
「ちょっとちょっとちょっと! 何期待を持たせてんの!? アンタの大事なところ、全部捻ってほしい!? さぞボリューミーな悲鳴が聞こえることでしょうね!」
「待て! これに関しては機械の故障だろ? 俺が責められる筋合いは……うわぁあああああああああああああ!」
そんなこんな、やっているうちにリレーが始まってしまう。
ナノカも僕も星上先輩も血の気が引いていく。寒い感触に怯えて、ただただ立っていることしかできないのだ。
このままでは大ボリュームで僕の告白がグラウンドに響き渡ってしまう。
折角止めたはずの爆弾が不慮の事故によって動き出す。時限爆弾が一刻一刻と僕の人生を終わらせようと長針を進めている。
「……最後まで諦めちゃダメ……」
ナノカがそう呟くのを僕は聞き逃さない。そうだ。まだ諦めてはいけない。何とかなる方法が見つかるはずだ。
気合を入れるために独り言つ。
「最後まで足掻かない……と!」
「と!」、その声がグラウンド中に響き渡っていたのか、こちらを見つめてくる。そこにツッコミを入れてきたのが理亜だった。
「おっとマイクが入ってた……気を付けないとな」
その目に入った、解決策。
マイク。
「あれ……これなら、流れる音楽を全部誤魔化せるんじゃないか……!?」
「ど、どういうことだ!?」
星上先輩を筆頭に皆が一気に首を傾げる中、リレーの準備が整ったようで。制限時間の来た理亜が慌てて参加者名を放送し始めた。
少し離れたところで理亜以外の皆が聞いてくる。最初に僕に詰め寄ったのはナノカだった。
「何をしようとしてるの……できることならワタシも全力でするけど!」
最高の状況だ。地獄から一転、天国へ。
ナノカにも協力してもらいたいものがある。僕は外せるマイクを手にして、グラウンドの方に駆け出した。
後は星上先輩達に告げる。
「僕が叫ぶ間に変なメッセージが入っていないか、確かめてください!」
後は手でナノカを招き寄せる。
「ナノカ……来て!」
彼女が今、僕のピンチを切り抜ける一手になってくれる。なんたって、彼女の応援は、声量は誰よりも強いものだから。
ナノカを導くようにまず、僕がマイクで声を轟かせる。
「さてさて! 今から最終決戦のリレーが始まる! まさかまさかここまで白組、紅組両者とも点数を譲らない状況! この勝敗で白組、紅組どっちが勝つか決まるという、この状況! いつもとは本当に違う緊迫感が流れます! 青春を懸けたこの闘い! その終わりがいよいよやってきましたぁあああああああああああああ!」
ナノカが僕の持っているマイクを使って、叫び始める。
「ワタシとしては同じクラスも応援したいところですが、どっちもどっちも活躍を期待してます! どっちも今までの努力、流した血と汗と涙を活かした最高なリレーを見せてくださいっ!」
彼女が頷いたところで僕は次に出る単語を喋っていく。間を作ってはダメだ。その間に流れている音楽がバレてしまう。もし、それが告白のメッセージだったら最悪だ。
というか、今一回僕の声が微かに聞こえてきた。どうやら告白メッセージが流れてしまっているようだ。それを掻き消すつもりで自分の想いを言葉にして紡いでいく。
「本音を言ってしまうと、最初は捻くれていたんだ! 僕は怪我をして、不利になるなぁと考えてずっと落ち込んでいたんだ! でも違った! みんなの輝きに魅せられて、体育祭がそんな単純なものじゃないって気付いたんだ! みんなの絆を合わせたもっともっと面白いものなんだって気が付いたんだ! その感動を最後にもう一回見せてくれ!」
僕が言葉に詰まりそうになったから頷いた。そこにナノカが続けていく。
走り出す城井さんにグーサインを出しつつ、笑顔で気持ちを語り出す。
「体育委員の皆さんも参加者の皆さんも今日は本当にありがとうございます! 素敵なものを見せてくれて! 最後まで全力を振り絞ってくれて! この先挫けても、今日この瞬間頑張った輝きがあるから! この輝きを思い出して、また乗り越えることができそうです!」
聞こえないはずなのに。誰かの声が聞こえてきた。
「こんなボクが輝けるの? 輝いてるの?」
ナノカが頷いた瞬間に僕は答えてみせた。
「みんな輝いている! そして頑張ろうとしている人がその中でも際立って輝いているから! 光ってるから! 挫けないで! 前を向いて!」
二人で歌みたいに繋いでいく、想いの言葉。そこに終止符が打たれるようで星上先輩と菰原先輩が僕達の肩に触れた。
「もう、大丈夫」
「応援メッセージが流せる状態よ!」
一人一人への応援メッセージが流れていく。盛り上がっていた状態に体育教師や教師、OBの言葉などが語られていく。
問題のCDは理亜がマジックで「危険物」と書いてくれたから、困ることはない。
崩れるようにそのまま放送室の椅子に座っていく。これで全てが終わった。トラブルも解決した。
後はゆっくりリレーを観戦するだけ。グラウンドを確かめると素敵な真実が見えたから、ポツリ呟いておく。
「……おめでとう、城井さん」
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