Ep.27 最終決戦スタート
ナノカは大きく口を開いた。
「やっぱ二人は安心できるって感じなんだ……へぇ、意外!」
彼女は僕と城井さんを見比べていた。城井さんは「へっ?」と口に出した後、ナノカの考えていることが分かったようで。「そ、そうだね!」と話を繋げていった。
どうやら僕が城井さんを連れてきたと勘違いしたよう。
本当はナノカを連れてきたのだが。仕方なく、頬を掻きながら首を縦に振る。
「安心できる人」がアナタです。と面向かって言える程、僕はできた人間ではなかったのだ。自分自身に色々がっかりしつつも、話をそれで終わらせていた。
「で、あっ、城井さん、次の準備しとかないと……!」
「だねっ! もうリレーが始まっちゃう!」
ナノカが「頑張ってね!」と城井さんを応援していく。ついでに僕もその心意気を横取りさせてもらおうか。勝手に応援されたことにして動かないと。
「じゃあ、僕はトイレに」
「そうなの? 理亜ちゃん、一人にしすぎないように、ね」
「分かってるって……」
たぶん最後は放送部メンバー全員集まるから彼女一人にはならないだろうけれども。やはり、そこに僕もいなくては。
笑顔でこの体育祭が終われるように。
僕はある人の肩を叩かせてもらった。それから無言で指を差して、トイレの方へと誘導する。勇ましいBGMや声援が流れる中、最もスピーカーから遠く静かな場所だ。それにトイレの近くまで覗きに来る人もなかなかいないから、サボっているとも気付かれにくい。
大事な話には適している。
その相手はポカンとしている。自分が何故呼ばれたのか、まだ分かっていないみたいに。と言っても、演技であること間違いなし。
僕はしっかりゲームマスターを呼んだのだから。
「ではリレーが始まる前に。手短に済ませましょう。貴方が僕を操っていた、ゲームマスターですね?」
「な、何を言うんだ……? 君がなんか指を差してきたから何かあるかなぁってついて来ただけなんだよ……? それにゲームマスターって何だよ……?」
まずはそこから説明しないとダメか。
すぐに終わらせたかったのだが。
「ゲームマスターは朝、僕に指示を出してきました。そして僕の大事なものを公開すると脅してゲームに参加させました」
「とんでもない奴じゃねえか……! そんな奴……誰なんだよ。そんなことする奴、ぼっこぼこにしてやるよ?」
それ、貴方のことです。自分をタコ殴りにするつもりですか。
と何度でも言いたかったのだが。ここはまだ変なツッコミを入れるところではないのだろう。
「怒るのは待ってくださいね。その内容は城井さんを調べることばかり。そして城井さんがとある窓ガラスの事件で無実じゃないか、どうかを調べさせられたんです」
「ああ! そういうことかっ! それでこっちに色々聞いてきたってことか……」
「ええ。その窓ガラスの事件で城井さんは無実でした。そしてそれを調べさせた後、僕を信用したのか……一冊のノートを城井さんに手渡すように言ってきたんです。それも自分は見てないと何度も言って……。そのノートは城井さんが誰にも見られたくない大事なノートだったみたいです……なので思うんです。ゲームマスターは本当はいい人じゃないかって」
「どういうことだ!? 何で……?」
いい奴だと思った理由を端的に上げていく。
「なんたって、城井さんが不安に思っていることを考えたんですから。それで僕が城井さんとどれ位距離が近いかとか……僕が城井さんにどんな印象を持っているのかとか……推理を通して調べさせようとしましたよね……仲が悪いような関係。僕が城井さんに何か敵意とか持ってたら、こっちから手渡そうにも城井さんは『読まれたんだ』と思ってしまうでしょうから……」
「そんな考えてる……偶然じゃない?」
「いや、偶然なんかじゃない。きっとゲームマスターは城井さんだけじゃない。僕ですらも励まそうとしていたんだと思います。登校中、怪我をしてしまった僕のことを考えていたと思います。何にもできないと思う僕を推理を通して、何でもできるって思わせてくれた……! たくさんの人に触れさせることでこの体育祭や人と人の関係がどういうものでできあがっているか、どれだけ尊くて貴重な時間なのかを教えてくれたから!」
ああ、口にして分かる。
僕はゲームマスターに感謝するべきなんだ。
目の前にいる相手に。
「君の推理したいことはよぉく分かった。そのゲームマスターとやらを探しているんだけど……何でそれが自分になるのかが分からないんだけど、教えてもらってもいい?」
僕は頷いた。
「ええ。最初の方にしっかりヒントがありました。ゲームマスターは神隠しを出した際、自分ちの担任が神隠しにあっただとか、とんでもないことを抜かしたんです。その時、神隠しって他にある……とかって言いましたよね?」
「い、言ったから何になるの?」
相手が少しゆらゆら揺れている。最初は平気な顔をしていたが、ツッコまれるとどうにも弱くなるらしい。非情だが、ここは一気に攻めさせてもらおうか。
「神隠し、かみかくし、きっとゲームマスターがふざけて言おうとしたのは、頭の髪隠しってことじゃないでしょうか?」
「……それでクラスを特定したって訳か……?」
僕はその通りだと真剣な顔をして肯定する。
「ええ。まぁ、その担任が誰だか探す手間は……ある人の言葉で気付いたんです」
「ある人の……?」
「遠藤先輩です」
相手は苦い顔をしている。気付いたのだろう。遠藤先輩のある言葉に。彼は確かに言った。
『うちの教鞭を取りしものの輝きを守りしもの』
僕は口にするとやはり少し恥ずかしい言葉を相手に聞かせてみせた。ただ相手は笑うどころか、かなり追い詰められている様子。
「うう……!」
「輝きって、まぁ、どうしても反射してしまう頭の輝きってことですよね……。それに加えて、実際に障害物競争の前に吹いた風で……かつらが飛ばされているのを見ました。間違いない、と感じましたよ……ああ、ゲームマスターは遠藤先輩と同じクラスにいるって」
「クラスメイトは……たくさんいるはずだ……何で」
何故、約三十人のクラスメイトからたった一人を選べたか。
「ある人が凄い気になったことを言ってたんですよ。矛盾したことを……。僕が『外から物理準備室が見えましたか?』と質問した時に『段ボールで隠されていたから』と言っていたんです。でも、今考えれば思うんです。すぐ城井さんが逃げた状況なら、第一発見者になるんじゃないでしょうかって……三枝先輩は言ってたんですよ。合唱部の声だしを外でしていた先輩ならガラスが割れた音を聞いて、第一発見者にもなれたはずです。それなのに、どうして……どうして……知らないふりをしたのか」
「な、なんでかねぇ?」
「簡単ですよ。貴方は僕にいろんな人と触れ合ってほしかったから。自分が全部事件の証言をしてしまうと、推理で頑張る意味がなくなっちゃいますから……だからわざと嘘をついたんですよね……ねっ、ゲームマスターの星上先輩?」
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