Ep.20 神の領域
グラウンドを練り歩いていく。昼休みが終わった後には各々の部活が個性を主張し合う、部活動対抗リレーみたいなものがある。剣道部は倉庫に入って道義に着替え始めていく。サッカー部や野球部はとっくのとんまにユニフォームになっていて。それに関して文化部も負けてはいない。吹奏楽は放送室の上にある外部の人が入れる観客席にて、いつでも音を振り降ろせるよう準備している。
写真部もカメラをぶらさげて。美術部は筆やキャンバスを抱えている。
合唱部の星上先輩や他の女性陣はタンバリンやカスタネットを持っている。音を鳴らしながら、歌うとのことみたい。一緒に応援する榎田さんやナノカの方はマラカスを持って、奇抜な応援の仕方をしようとしている。どうせなら、チアリーダーになる姿も見たかったが。そんなことを口にした際はナノカにしばかれること間違いなし。
変な想像をするのをやめ、再び謎に挑んでいく。今は部活動対抗リレーを楽しく鑑賞している時間はない。
神の視点。ヒントはシーツに包まれている、と。
何処に神がいるのか分からない。だから外部の観客席からグラウンド全体を見渡すことにした。ここなら放送室よりも外を見渡せる。吹奏楽の邪魔になる訳にはいかないから、後ろからそっと。
グラウンドの様子を確かめてみるも変わりはない。神のように輝いている人はいない。ふと眩しさに目が眩みそうになった。もしかして神、と思ったが単に教師の頭が偶然にも光を反射し、こちらに向いただけだった。ややこしい、いや、ややこしくしたのは自分か。
猛省して再び、全体を見回してみる。
誰も怪しい行動をしていない。
部活動対抗リレーがもうすぐ始まろうとして賑わいがどんどん強くなっていく最中。
ふと思い返す。放送部も実況を進めなければ、と。理亜を一人にする訳にはいかないだろう。後ほんの少しの時間。どうするべきかと悩んだところ、懐かしい面々が視界に入ってきた。
「あっ」
その存在はこちらの様子に気付き、観客席の階段を昇って駆け寄ってくる。
「露雪くんじゃない? こんなところで何してるの?」
白い肌にあまり変わった様子のない少女はアヤコさん。以前、「夢を追う会」という場所で起きたトラブルを解決する際に出会った高校生作曲家だ。あれからまだ一度も会えなかったが、まさかここで再会しようとは。
「逆にそれは僕のセリフって思ったけど……まぁ、古戸くん達の応援に来たってこと?」
「そうそう。こっちの学校は四時間で終わりだったから。学校終わって急いで来ちゃった」
同じく彼女の隣にいる三葉さんがこちらに会釈した。
「三葉さんも全く変わらないみたいだ……って言っても、時々イラストとかは見てたか。凄いな……ほんと」
「それはどうも」
三葉さんは高校生イラストレーターとして活躍している。そんな彼女だがポツリ悩みを吐きながら、グラウンドを見回していた。
「と言っても、辛いもんだがな。プロになっていけば行く程に何だか戻れねぇって感覚があってさ……いや、まだプロとは言えねぇんだろうけど、日に日に何だか強くなっていくんだよな。そういう不安が……」
「プレッシャーか……凄そうだもんな」
二人共、僕の近くにはいない。きっと夢を追う過程でじわじわと神の領域に近づいている。その分、期待やらなにやらの力が出てきて、相当辛くなっているのだろう。何も彼女達を苦しめるのは誹謗中傷だけではない。プロだからこうしないといけない、ああしないといけないというプレッシャーも同等に自身を苦しませてくる。
また近いうちにナノカと一緒にクレームを入れに行こう。もっと言ってやらなければ。「そんなに気負う必要はない」と。
そこで少しフラッとした。
「おい、大丈夫か……?」
三葉さんが最初に察知して心配してくれた。続いてアヤコさんも顔を見つめて確かめてくれたのだが。別に体調不良ではない。熱中症でもない。水分は摂っている。
僕が何かやるべきことを忘れているような気がしたのだ。ハッとした途端、後ろに転びそうになっただけ。
「大丈夫……にしても、何だろう」
すぐに考えて外を見る。風が吹いて、たくさんの生徒の髪が揺れていく。葉っぱも撒き散らしていく。アヤコさんも三葉さんも下に降りて、柵に顎を付けていた。古戸くんや桃助くんの動きを見守っているよう。
まるでその格好が女神様のよう。
その瞬間、また頭に衝撃が走った。
神のいる場所。生徒達を見守ることができる、この地点ではないだろうか。気付いた僕はすぐ観客席を隅々まで見渡した。神がいる場所にヒントはあるのか、ないのか、と。
答えは見つかった。
観客席の端に鍵付きの箱が置いてあったのだ。重くて動かせそうにないもの。これを勢いよく運ぼうとすれば誰かが気付くだろう。黒幕は誰かに持っていかれることを恐れてここに用意したのだ。
まるで時限爆弾。
不審物だと思われて大騒ぎになったらどうするのか。そう考えると置かれたのはつい最近で違いない。重いものをわざわざ運んできているのだから、幾ら外から見えないように腰をかがめて動いていたとしても観客席の中にいる人は気付くはず。
だとしたら、彼女達が見ているはず。すぐにアヤコさんに聞いてみた。
「さっき、そこの荷物を運んできた怪しい人、見てない?」
アヤコさんは首を縦に振った。
「ああ……何かいたね。女性だったかな? 物を置いてったよ」
「じょ、女性……!?」
「他言無用よーとか言って歩いてって。まさか、爆弾じゃないよね……」
「その女性の特徴って分かる?」
「ううん……顔はそんなに焼けてなかったから、屋内の部活の人かな……見たんだけど、どう説明すればいいのやら……髪は解いてたけど……すぐに結っちゃったかもしれないし……体育着の名前は見えないように手で隠してたし……ごめんね、分かんないな」
いや、問題ない。これでゲームマスターは女性であると考えられた。
しかし、それでいてナノカでないことも分かる。なんたって、彼女には何度も会っているのだから。見間違うこともない。
ただ女性としても、誰が一体と考えて今するべきことを思い返す。
先に鍵付きの箱を開けることが先決だ。
ゲームマスターが言っていたシーツのこと。別にシーツには包まれていなかったことを考える。
「412ってことだな」
ダイヤルを回し、三桁の数字を作った。開き出す、その一瞬僕は口を開いていた。
次の言葉をボヤくために、だ。
「えっ……ノート……? 発見ノートって?」
その表紙には「発見ノート」との文字以外に名前も書かれていた。「城井成美」と。
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