Ep.14 回る回る奇人変人
確かに物が壊れたとの話は聞いていない。段々と不思議な謎が増えてくる状況で目が回ってくる。目の前で台風の目が始まりそうになっているからか、くるくるくるくる、色々なものが回っていく。目まぐるしくなっていく。
頭の中に情報力が多くなれば多くなる程、気が変になっている。
一旦リフレッシュをしたい。
三枝先輩に別れを告げ、違う場所に走っていく。二年の先輩が集まっているところに星上先輩がいる。同じクラスの場所であろう隣にいる男子生徒も見覚えはあるも、あまり思い出せない。少し濃い顔、一度見たら忘れそうにはないのだが。じっと観察して思い出した。彼もまた合唱部の先輩だ。
僕が探していた遠藤拳先輩で間違いない。
先に僕の存在に気付いたのが遠藤先輩だった。
「ストリートからの視線が痛いと思ったが、後輩か。何用だ……?」
何だかキザったらしく接触してくる先輩だった。痛いのは貴方の方ですと言いたいところではあるが、ぐっと言葉を飲み込んでおく。
きっと僕が彼の存在を忘れていたのは、忘れたかったからなのだろう。
しかし、ここで彼に頼らない訳にもいかない。もしかしたら彼等が事件に関する重要な証拠を握っているかもしれないから、だ。
「先輩、すみません。先日起きた窓ガラスが割れたって事件についてお話を聞きたくて」
そこに真っ先に反応したのが星上先輩の方だった。彼は穏やかな顔をしていたものの、すぐに訝し気な顔になる。
「何に首を突っ込んでるんだ? 情真くんだったっけ……? 余計なことに首を突っ込むのは危険だぞ、と。やめておけ」
いや、ここでやめたら更に辛い目に遭うのです。そう反論しようとしたところ、遠藤先輩の方が助け舟を出港させてくれた。
「別に危険なことに興味のあるお年頃だろうが。我も秘宝を探し求めた時期があった。結局、あったのはうちの教鞭を取りし者の輝きを守りしものだからな」
話の内容はよく分からないが、協力してくれることだろうか。希望を抱いていると、今度は話を遮るように星上先輩の口が動き出した。
「あああ……もう、だから言ったじゃないか。変な先輩に絡まれちまったぞ……情真」
「おい、誰がその変な先輩とやら、だ?」
「お前しかいないだろ……」
漫才をやっているのは困る。僕には制限時間があるのだ。
危険でも何でもいいから、今は事件の情報収集に努めたい。
「先輩……! 今は事件のことを教えてください! お願いします!」
何故そこまで焦っているのか伝えなければならないか。そう思ったところでやっとこさ、星上先輩の方が話し出してくれた。
「知ってるったって……残念だけど、歌の練習を一階でしてたんだが、そこでまぁ、女の子が逃げたってところを見てただけだからな……拳もそうだろ?」
少しハッとさせられた。三枝先輩が言っていた不思議な唸り声はきっと先輩達の発声練習だったのだ。以前合唱部の練習をナノカがやっていたのを見たことがある。その時はジト目で見てしまって「何よ! ちゃんと効果があんのよ!」と言われたのだ。後でしっかり調べたところ、口や声のトレーニングになっていると知って驚いた。
「ああ……何か特別なことがあるとしたら、まぁ、三年らしき男女が近くを
「……そういや……そうだったなぁ……何か」
「今にも大雨になりそうな感じだった……な」
雲の話かと思ったが、すぐに違うと察した。いきなり天気の話をするのはおかしいと考えれば分かる。
今にも彼女が泣き出しそうな状況だったのだ。星上先輩がその少女の状況を口にする。
「でも、ガムテープが貼られた窓ガラスのところに来る前に戻っていったな。グラウンドは明るいけど、校舎の影んなってるところはめっちゃ暗いからな。驚いたよ」
「……もしかして、あの女子、こちらに戦慄したとかないだろうな」
「あっちはこっちに気付いてはいないようだったな……」
今の証言で、城井さんが再び事件現場に戻ってきていたことが判明した。
何故に彼女が事件現場に戻ったか。犯人は事件現場に戻るとの考え方から、か。考えていやいやと首を横に振る。犯人は現場に不用意に戻りはしない。する理由として考えられるのは証拠を落としたから、である。
「犯人は現場に戻るか……」
遠藤先輩はその点を少しだけ疑っていたみたいだ。
「んな訳ないだろ……あそこは陸上部がよく歩く場所だろ? 陸上部が何か落としたとして、不思議じゃないんだ。何か物を取りに来るなんてリスキーすぎるだろ?」
「ハイリスク、ローリターンか?」
「ああ。わざわざ戻ってきて証拠を探すなんてしなくともいいはずだ。逆にあんな不用意にウロウロする必要もないだろ。それに例え髪の毛一本落ちてたとしても、捜査される訳じゃない……」
では何故、城井さんが戻ってくる必要があったのか。
謎が増えた。
最中、一つの謎を解決しようと星上先輩に聞いてみた。
「あの、外から物理準備室って見えました……?」
「いや、さっきも言ってた通り、ガラス張りだったからなぁ……もっと前にいた人に聞ければ……」
どうやら中は見えなかったらしい。別の人に話を聞いてみるしかないとふと放送室を見る。聞きたい人の存在はあった。彼に聞いてみようかと動いたところで、先輩達も用を思い出していた。
「あっ、拳……もうすぐうちのクラスの大玉の準備しないと……だ!」
「くくっ、ラストの競技がいよいよ始まろうとしてるのか……!」
「何!?」と心の中で呟く僕。もう一競技分しか時間が残されていないことを知って、心臓がバクバク動き出していた。
台風の目はもうかなり後ろにいたはずのメンバーが一本のバーをがっしり掴み、回っている。送球走は赤。こちらは白が優勢となってポイントが入っていく。どうやら勝負は五分五分の状況のようだ。
「って得点のこと考えてる場合じゃなかった……!」
謎を解かねばならないタイムリミットが迫っている。
まだ、全く謎なんか解けていないのに、だ。誰が犯人であるのか、城井さんは犯人ではないのか、その全てが分かりやしない。ただここで縮こまっていてもどうにもならない。だからできる限り、足を動かし続けるのだ。
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