第17話 霧たち登る夕暮れ、向こうに立つのは

犀花の首を締め上げていた手が、ピックと震えた瞬間、力が抜けた。犀花は、腕から逃れ、激しく咳き込んだ。

「困った人」

白夜狐は、犀花が無事なのを確認すると、真冬の手を取った。

「勝手な事はしないで、欲しい」

「止めるんですか?」

「大事なお客様だと言ったはず」

「客なんかでは、ない。」

「無事に帰すつもりだ」

白夜狐は、真冬をつかん腕に力を入れた。

「こちらから、手を出してはならぬ。いらぬ災いを持ち込むな」

そばに控えていた狐目の少年が、おずおずと口を開いた。

「あ。。あの。俺が、余計な事を言ったので」

「お前が?」

「び。。白夜狐様が、余計な事に気をとられると思って」

「私が?」

白夜狐は、亜黄と呼ばれる狐目の少年の顔を見下ろした。

「真冬様との約束を守らなくなる気がして。。。それでは、我らも、主様も困りますので」

真冬は、冷たい目線を犀花に投げた。

「気にされている故、試しにきてみた。何故、この娘が気になる?」

白夜狐は、真冬に聞かれて、言葉に詰まった。

「う。。ん」

「言葉に詰まるのだな。その娘は、返しても良い。ただ、約束は、守るのだぞ」

「約束」

白夜狐は、首を傾げた。

「何だっけ?」

亜黄は、慌てて肘で、突いた。

「娶る約束ですよ。子を設けて、赤森の石棺に始まる守台をつなげるって」

「あぁ。。。大昔の話」

「ではない」

真冬は、打ち消した。

「社の守りも落ちてきている。白夜狐は、もう、主様の言葉を忘れた

のか?」

「待て待て、ここで話す事ではない」

白夜狐は、犀花の手を取った。

「帰りますか?」

「できれば」

真冬の眉間の皺が深くなったが、白夜狐は、気づかないふりをした。

「今日は、いろいろあって疲れたでしょう」

白夜狐の目は、美しい。右目と左目の色が、ほんの僅かに違う。青い瞳と灰色の瞳。交互に、見つめると、気分が、落ち着いてきた。

「一度に、いろんな事があって、考えるのも、大変だよね。どうして、君は、ここにきたの?君にとって、危険な場所なのに」

もう、後半の言葉は、犀花の耳に届かなかった。ふわりと、白夜狐の腕に倒れ込み、彼は、そっと、抱き上げた。

「送ってくる」

「白夜狐様!」

真冬は、引き止めようとした。

「真冬。魔猫も放してやれ。彼女は、悪くない」

「ですが」

「起きるべきして、起きている。赤森も、危険な波動がある。地の底から、嫌な波動がある」

「やっぱり。。」

「こんな事をしている暇はない。すぐ、赤森にいくぞ」

白夜狐は、亜黄に指示を出すと、犀花を抱え、宙に消えていった。

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