第16話 霧雨を避けて走る影

犀花が意識を取り戻したのは、ナチャが見せていた中世ヨーロッパと思しき建物の中だった。古い煉瓦作りの壁のあちこちには、石炭の匂いが染み付き、ところどころ、カビ臭い。

「ここは、どこだっけ」

ようやく、犀花は、先ほどまで、紅魔よ呼ばれる猫と真冬と呼ばれる狐神お一緒にいた事を思い出した。

「気がついたようね」

現れたのは、先ほどまで、一緒にいた真冬だった。

「あなたに、用があったのだけど、邪魔な猫がいたから、あなただけ、ここにきてもらった」

床に横たわる犀花の下には、生臭く紅い文字で、何かが書かれていた。魔法陣だった。

「ここまで、すべきか、わからないけど。誰にも、邪魔されたくなかったから、勘弁してね」

その為か、体が動かない。

「動けないのよ。その陣は、今のあなたには、解けない」

「ここは、どこ?」

「そうね。。」

真冬は、周りを見渡した。

「あなたの記憶の中の、建物だけど、確かなのは、時間がたつと、この建物は、沈むって事」

真冬は、指を差した。

「猫は、こないわ。」

「得体の知れない猫が、私の味方なわけないでしょ」

「そうかしら、同じ匂いがするわ」

真冬は、自分の鼻を近づけた。

「同じ類の、者達ね」

「あなたは。。。」

犀花は、思いあたった。最近、自分の周りに現れる狐目の子供達の仲間であろう。だが、自分が、ここに閉じ込められる謂れはない。犀花は、書かれた陣から、出ようとするが、床から立ち上がる光は、熱く、触ることすらできない。

「私が何かしたの?」

「そうね。。したといえば、したのかしら」

真冬が、指先をくるっと返すと、陣が少しずつ、小さくなっていく。

「焼け死ぬのが早いか、溺死すうるのが、早いか?どちらかしら」

「ちょっと!」

陣は、熱く、犀花にh、どうしようもない。ナチャを読んだが、何の反応もない。どうやら、はぐれてしまったようだ。真冬が、言っている猫が、仲間なら、助けにきてくれそうな筈だが、そんな気配はない。

「あぁ。。。あの猫は、来れないわよ」

真冬は、笑った。

「あなたと同じ目にあっているのかも」

「どうして?私達が、何をしたというの?」

「何もしなくても、ここにいるだけで、ダメなの」

真冬は、犀花の首元を掴んだ。敷かれている陣は、平気なようだった。

「ここにきてはいけない人だったの。帰りなさい。この景色があんたが、忘れていない証拠。ここにいてはいけない。このまま、ここにいるなら、あなたを消さなくてはいけない」

もう少し、力を入れれば、犀花の首の骨は折れてしまうだろう。真冬の腕の力は、物凄く、犀花は、気を失いそうだった。

「く。。苦しい」

「真冬!」

どこかで、聞いた声が響き、真冬の力が緩んだ。

「白夜狐。。」

真冬の悲鳴に、似た声が上がり、犀花は、息をつく事ができた。激しく蒸せながら、目にしたのは、狐目の少年を従えた、あの少年の姿だった。

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