第15話 赤森の石棺にかかる朝霧

時々、自分の事がわからなくなる。忌み嫌われているのは、わかっていた。だけど、人から嫌われるだけでなく、自分の魂が汚れきっていて、存在すら否定されるべき存在だったとは、思いたくなかった。静かに佇む、青年に傷を負わせ、醜い姿にしたのは、自分だと言われて犀花は、動揺した。

「どう?動揺した」

猫は、満足そうに微笑んだ。

「お前は、血塗られて生まれた。今更、何事もなく、生きていけるなんて思うな」

「何が。。。あって」

こんなに、憎しみのある言葉を聞いた事はなかった。

「あなたは、いったい何者なの」

犀花は、声をあげた。何者かもわからない、人の言葉を話す猫に一方的に責められるのが、わからなかった。言っている事が正しいとも思えない。

「おやおや。。。仲間同士で、仲違いかしら?」

犀花と猫のいる世界に突然、細い声が響き渡った。

「誰?」

どこまでも続く湖面に、反射する雲の流れる青い空。地平線と水平線しかない世界に、犀花と人の言葉を話す猫は、いた。その湖面に、浮かび上がるように、真っ白な狐が現れた。

「お。。お前は」

猫は、少し、動揺していた。

「他人の領域に入り込んでいて、責めないでほしいわ」

狐は、くるっと身を翻すと、白装束の巫女の姿になった。

「ようこそ。和の国へ」

真冬と呼ばれた巫女は、ふふっと笑うと口元を袖先で、覆った。

「我らから、隠れてこの中で、逢っているとはね」

猫は、真冬の周りを、用心しながら歩くと、意を結したように、頭から円を書くように丸くなると、1人の少女の姿になった。

「おや。。。お婆さんではなかったのね」

「ふん」

猫は、鼻を鳴らした。

「赤森の石棺を探っていたのは、お前たちか?」

真冬は、唐突に聞いた。

「魔猫の紅魔がいると聞いた。あなたね」

紅いマントを被った紅魔は、顔をあげた。

「お前達に、話す気はない」

「赤森は、よその者が入れる所では去ね」

「よそのもの?」

紅魔は、笑った。

「よそのものか、否かは、その物が、よくわかるわ」

先ほどから、様子が気になっていた真冬は、ようやく、犀花の顔を正面から見つめた。

「あなたが、そうなのか?」

「何の、事でしょう?」

犀花は、突然、現れた四つ足の動物達が、次から次へと変化するのを見て、遠くから見守ろうとしていたが、突然、自分に話が振られて、驚いた。

「そうね。。。」

真冬は、犀花の周りを一周した。

「なるほどね。亜黄が心配するわけね。」

真冬の後ろ姿にふわりとした、尻尾が揺れている。

「でも、私達、相入れる事はできないの」

長い髪が巻き上がる。

「ごめんなさいね。ここは、私達の国」

湖面に、手を翳した途端に、水平線と地平線の国は、闇に閉ざされた。

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