第14話 陽の当たらない場所。
引きずり込まれたとは、思えない明るい陽射しの中に、犀花は、立っていた。小高い丘の上の大きな木。その下に、あの青年が立っていた。
「あれは?」
「お前がよく知っている」
「ナチャ?」
蜘蛛男の姿とは、ほど遠くどこにでもいる普通の青年だった。
「向こうから、お前の姿は見えない」
そう言いながら、猫は、喉を鳴らした。
「よく、みるがいい」
猫は、尻尾を立てながら、犀花を木の影へと誘導していった。長い髪の後ろ姿が目に入った。
「誰?」
「お前だ」
髪の長い女性は、猫が話すと聞こえたかのように、振り返った。髪の長さこぞ、違うが、振り返った顔は、長い間に、見慣れていた自分の顔だった。
「どうして?」
「どうして?とな」
猫は、犀花の顔を覗き込んだ。
「どうやら、すっかり忘れてしまったようだな」
猫の口が、耳まで、裂けたかと思うと、突然、陽射しの降り注いでいた景色が、暗転した。青年の前に立つのは、恐ろしい姿をした1人の女性だった。黒いフードを目深に被り、長い銀色の髪は、逆立っていた。側にいる青年を激しく罵っている様だった。
「何を言ってるの?」
犀花は、銀髪の女性が、激しく怒っているのが、わかった。顔は、よく見えないが、両目には、怒りの炎が宿っている。
「辞めて!」
ここから先、何が、起こるのか、わかっていた。青年が、取り出した剣を女は、防御するように、男の手を掴んだ、振り払おうとするが、男が激しく体を揺すってしまったので、女の手が、男の顔をかすめてしまった。その先には、剣先が、光っていた。
「ほら、ご覧!」
猫が、喉を鳴らした。女の両手が、鮮血で染まっていた。
「止めて!」
犀花は、見ていなくても、何が起きたのか、わかっていた。
「この後、お前は、どうしたのか?」
猫は、女の周りを回る。男を置いて、去ろうとするのを男は、痛みに悶えながら、手を掴み引き止めた。宥めようとする男を、女は、振り払い、そして、空に向かって叫んだ。
「ほら。。」
空に向かって叫ぶと、空が暗転し、地上だと思っていたのが、途中へと移動した。男は、傷ついた目を押さえながら、女の手を押さえようとするが、女は、空に文字を描き、何かを唱えていた。
「止めて!お願いだから」
犀花は、胸が押しつぶされそうだった。深い罪の意識だけが戻ってきた。
「お願い。。。だから」
「ナチャを作ったのは、お前だ」
猫は、恐ろしい声で言った。
「お前が始めた事は、お前が終わらせなければいけない」
暗い地中に、ナチャの姿はあった。あの若い青年の姿はなく、醜い蜘蛛の姿になっていた。
「お前が、そうしたんだ」
猫は笑った。
「お前が、ナチャを作り、あの時代に誘導させたのだ。全て、お前の計画通りだ」
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