第18話 八百万の神の載る錦雲

白夜狐は、犀花を抱きしめ夜の街を跳んでいた。正しく言えば、飛び跳ねていたに近いが、犀花にとっては、柔らかな雲に乗っている様な、ふわふわした気持ちだった。

「起きてるね」

途中で、気づいた白夜狐が声をかけた。

「何も、覚えていないとはいえ。。。失礼な事をさせてしまった」

白夜狐は、呟く様に言った。

「庇うわけではないけど。真面目なんだ。本当に」

「いろんな世界に連れて行かれたり、私の身にもなってほしい」

この白夜狐と呼ばれる少年にあってから、幾つもの、世界を垣間見ている。

「うん。僕が、悪い訳ではないんだ」

犀花の心の中を見抜いた様に、言った。

「君がね。どうして、この国に来たのか?って事で、僕らは、ざわついている」

犀花をそっと、そばに建つ古いビルの屋上へと座らせる。

「あなた達は、何なの?」

「僕ら?」

白夜狐は、笑った。

「そうだね。。。見た目は、何に見える?」

「そう。。ね」

犀花は、まじまじと白夜狐を見つめた。

「狐」

「そう!」

と言ってから、首を振った。

「ではないんだ。。。眷属と言って、使い魔かな。。。君にも、いるよね」

「あぁ。。。」

ナチャの事を言っていると気づいて、犀花は、うなづいた。

「でも、私は、神ではないわ」

「そうだね。。それよりも、厄介な者らしい」

白夜狐は、犀花の顔をじっと見つめた。

「この地に、来ては、いけなかった」

ため息混じりに言う。

「ここはさ。。。遠い昔に渡ってきたある大神の墓を祀ってあるんだ。僕らは、その人を守っている」

「それって、私に知られていいの?」

「知らない筈は、ないよ。君が気づいていないだけ」

「ど。。どおいう?」

白夜狐は、また、笑うと、犀花の手を取った。

「この日本て国にも、君みたいな古い神がいたんだ。自分から、閉じこもってしまった神がね」

「私は、神なんかじゃない」

「ん。。。そうだね」

白夜狐は、夜空を、渡り始めた。

「君が気づかない方が、いいんじゃないかと思って、僕は、こうして、送っている。もう二度と、僕らと会わない事を願っているよ」

別れを告げられたようで、犀花は、白夜狐を見上げた。

「いつも、帰れって言う」

「関わらないで、欲しいから」

白夜狐は、犀花を支えていた手をそっと話した。犀花の手が空を掴み、2人の間が、離れていく。

「もう、会わない事を祈るよ」

「どうして?」

「僕が、声を掛けたから、始まった事。今なら、まだ、戻れる。お休み」

犀花の体が、宙に浮き、木立に吸い込まれていく。

「待って!」

犀花は、白夜狐を追おうとするが、木立に阻まれ、追う事ができなかった。

「ナチャ!」

犀花は、叫んだ。今、ナチャは、自分から、離れてどこにいるのか、わからない。それでも、叫ばずにいられなかった。

「どこにいるの?迎えにきて!」

白い糸が、宙に舞、木立が、2つに分かれたかと思うと、紅い目を持つ、ナチャが現れた。

「マスター。どうしたんです?」

「何か。。なんか、悲しい」

「どうしたんす?」

「どうして、私は、こんなに、非力なの。どうして、何もわからないの」

「それは。。」

ナチャの目が悲しく伏せていった。

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