第11話 月は重なり、冥府の星は影に。

「すっかり、この環境になれたわね」

勿論、私もだけど。犀花は、自分で、作ったあまり、美味しくない弁当を箸で突いていた。ナチャが現れて、確かに、自分の待遇が変わってきたと感じている。それは、度重なる嫌がらせも、ナチャの力で、回避できたし、ほんの少し、怪我しない程度に、仕返しする事ができた。いつも、誰かに虐げられていた中で、いつの間にか、下ばかり、見ていた日が、ナチャが現れた事で、少し、自分が、変わった気がした。こんな自分を慕ってくれる他者がいると思うと、孤独に悩んでいた時が嘘の様に、消えていった。確かに、ナチャは、蜘蛛のいわゆる使い魔で、声も高くビジュアル的に、気持ちは悪い。が、気持ちは、優しく、この犀花を気に掛けてくれている。その存在が、嬉しかった。

「でも。。」

気になっている事がある。

「マスターと呼ぶのは、止めてくれない」

「そんなマスター。無理っす」

「だから」

自分は、どこからきたのか。マスターと呼ぶのは、何故?

「知りたいっすよね」

「それはね」

あまりにも、色んな物達が、関わり始めている。知らない間に、自分のいる世界が変わったようだ。

「どうして、マスターが、ここにいるのか、知りたいっす」

ナチャは、言った。

「本当は、ここにいるべきじゃない。全く、この日本ていう国は、マスターに合わない」

自分でも、ここは、居場所でないとは、思っていた。この空気に、体が、馴染まない。

「そう言われてみると、納得する」

ここではない。自分も、何ども、そう思ってきた。

「マスター。連れて行きたいっす。そして、俺らの世界も見てほしいっす。絶対、力が戻ります」

「力が戻るね。。。」

戻ったとて、正体のわからない者達に、翻弄される。何が、目的で。集まってくるのかは、わからない。

「マスター。帰りましょう」

ナチャは、突然、言い放った。

「帰るって?」

飛行機代なんて、自分には、出せない。咄嗟に、犀花は、思った。

「いやいや。。。そんな事しなくても」

ナチャは、くるくると、地面を這い出した。

「どうするの?」

犀花は、踊り出すナチャに聞いた。

「忘れてるんですね」

ナチャは、細い銀の糸を吐き出しながら、忙しく動き回った。

「地は、繋がっているって、言っていたじゃないですか?」

「そんな事、言っていた?」

白い糸は、縦にも、横にも、つながり1枚の小さな円になっていった。ナチャが、地面をとんと蹴ると、丸く編まれた小さな布は、犀花の座っている膝の上に落ちた。

「昔みたいに、手のひらに乗せてみて」

丸い円の形をした小さな布は、犀花の掌に、小さな水溜まりを作り上げていた。

「覗いてみてほしいっす」

キラキラと輝く円は、まるで、空に浮かぶ月の様だった。覗き見ようとして、犀花は、それが夜空に浮かぶ月である事に気づいた。

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