第7話 山の端に夕陽は滲み、少女の瞳も雨色に。

「しつこいんだよ」

白夜狐と言われた少年だった。呪符を挟んだ手をかざし、蜘蛛を制したかと思ったが、白い光の矢となって飛んでいったのは、三つ目の化け猫に立った。三本の光の矢となった呪符は、蜘蛛の長い足をすり抜け、三つ目の猫の目を塞いだ。

「うげ!」

猫は、悲鳴を上げると

「まだ、諦めた訳ではない。これからが始まりだ。忘れるな」

唸り声を上げると、窓から下へと飛び降りていった。

「マスター!」

情けない声を蜘蛛は、上げていた。体は、大きくても、意外と気持ちは小さいようだ。

「どうして、私がマスターなの?」

犀花は、見るからに、好きになれない蜘蛛の崖者に言った。

「それは、酷い発言だな」

髪を高い場所で、結い上げた白と銀の衣装を着た白夜狐は言った。

「君が、呼んだんだよ。家にいろと言った筈」

「それは、この間の。。」

犀花の頭の中で、誰が言っていたのか、繋がった。

「あの時の?」

「思い出さなくていい」

少年は、呪符を取り出し、蜘蛛の顔に投げつけた。

「ぶ!」

口を開きかけた蜘蛛は、呪符が当たると、小さく縮み込み、指先に乗るほどの小ささになった。

「普通のサイズになったのね」

「これは、マスター。君のお供だよ」

「私の?あまり、好きじゃないんですけど」

「忘れたのかい?」

少年が、微笑むと、瞳の中で、銀色の光が散っていく。犀花が、口を再度、開こうとすると、また、狐目の童が、滑り込んできた。

「白夜狐様!あまり、他族の争いに首を突っ込むのは。。」

「まあまあ。。」

「ダメですよ。我らとは、住む世界が違うんですから」

きっとした目で、狐めの童は、犀花を睨んだ。

「とんでもない事に、巻き込まないでくださいね。昔の事件から、体制が戻っていないんですから」

多分、狐目の童は、犀花が嫌いなのだろう。言葉の端端に、敵意が剥き出しだが、こういう目に遭うのも、犀花は、慣れていた。

「私、これは、どうすれば?」

「役に立つよ。」

小さくなった蜘蛛は、そそくさと犀花の制服の襟元に隠れてしまった。

「理由があって、現れたのだから」

そう言うと白夜狐と呼ばれた少年は、犀花が、次の口を開こうとする間も無く、窓辺から、外の世界に飛び出していく。一斉に木々が、ザワザワとせめぎ合い、白夜狐が、行くさきで、小鳥達が、飛びだって行く様だった。

「自分では、まだ、わからないと思うけど。巻き込まないで。出ないと、私があなたを封じる事になるから」

残っていた狐目の童は、そう言うと、後を追うように、窓辺から、飛び去っていった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る