第12話 俺の腹筋すげぇ〜だろ

 スマホ水没事件のあった十分後。


 ハルトたちはガラス張りのカフェテリアへやってきた。

 和洋中の人気メニューがそろっている他、デザート類も充実しており、お年寄りから子供まで楽しめるラインナップとなっている。


「待ってました! 本日のメインコーナー! お腹ぺこぺこだよ〜!」

「俺はカツカレーにしようかな。ユウナは?」

「デラックスプレート的なやつで」


 これにパフェと飲み物をつけたら軽く四千円を超えた。

 人混みをうように歩いて、屋外のテラス席まで移動する。


「スマホをサルの便所に落としちゃった割には平気そうだね」

「便所いうなし!」


 いちおう石けんで洗ってある。

 だから衛生面の心配はない……と信じたい。


「いや〜、スマホに申し訳ないことしたな〜、と反省しております」


 ユウナは愛機に向かってぺこりと頭を下げる。


「物に向かって謝罪するなんて珍しいね」

「だってさ、いつも手元にあるじゃん。ハルくんよりスマホと過ごす時間の方が長いじゃん。私の好みとかのデータも入っているじゃん。もはや家族以上に家族じゃね?」

「いやいやいや、最後の部分、おかしいよ」

「でもよ〜」


 ユウナはスプーンをくるくると回す。


「ハルくんと二十四時間会えないのは耐えられるけれども、スマホと二十四時間会えないのは耐えられないな〜」

「俺ってスマホ以下かい」

嫉妬しっとした?」

「別に……」


 ユウナの言う通りだ。

 姉弟喧嘩した日なんかは『ユウナの顔なんか見たくない!』となるが、今まで『スマホに触れたくない!』と思ったことは一度もない。

 体の一部のような感覚だろう。


「でも、安心してくれたまえ。ハルくんとスマホ、どちらか一方しか助からないなら、迷わずにハルくんを助けるから」

「嫌だな、その二択」


 ユウナはくっくと笑い、苦手な野菜をカレーの皿に投入してくる。

 代わりにカツを一切れ奪っていった。


「ねぇねぇ、ハルくんのスマホ見せてよ。自撮り写真とかないの」

「残念ながら入っておりません」

「うそ〜! 男子って、俺の腹筋すげぇ〜だろ、みたいな写真ないの⁉︎」

「ねぇ〜よ! いや、他の男子は知らんけれども……」

「私はね〜、自分の裸の写真、保存してあるよ」

「はっ?」


 変な声を出したハルトの口からカツが落ちた。

 動揺する弟の顔がおもしろいのか、ユウナの笑いが止まらなくなる。


「その写真、いつどこで何のために使うんだよ」

「ヒミツ〜」

「誰かにバレたらマズくね」

「分かりにくいところに隠してある」

「いやいやいや……」


 弟が言うのも何だが、首から上は美少女だろう。

 アンバランスな体つきも隠れた需要があるかもしれない。


(ロリ体型ってコンプレックスのはずなんじゃ……)


 若い自分を保存しておきたいのだろうか。

 ユウナのこと、何を考えているのか分からない姉だと思っていたが、本当に分からないやつだと思う。


「見たいの?」

「そういうわけじゃ……」

「でも、私のスマホをガン見しているじゃん」

「逆に聞くけれども、人に見せられる代物なのかよ?」

「出ました〜! 逆に聞くけれども! ハルくんが困った時の口ぐせ! ありゃりゃ〜、困っちゃったかな〜?」

「うわっ……うっぜ! 最高にうっぜ!」


 椅子を蹴っ飛ばしてやろうか迷ったけれども、ここが動物園なのを思い出して、ギリギリ我慢しておいた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る