第3話 それって詐欺じゃん⁉︎

「そうだ。神社にお参りしていこうよ」


 家の近くに小さな神社がある。

 狛犬こまいぬなんていない、神主さんもいない、鳥居と古いお社があるだけのミニ神社だ。


 ユウナは財布から十円玉を取り出すと、ぽ〜んと投げ込んだ。

 五円玉を入れるのがメジャーだと思うが、二人なら合わせて十円でいいだろう、という謎のユウナ理論により、いつも十円玉を入れている。


「ハルくん、急げ! 十秒以内にお祈りしないと!」

「いやいや、そんな縛りないでしょう」


 ハルトは手を合わせ、両親の無事を祈っておいた。

 二人が風邪を引いたり事故に巻き込まれたりしませんように、と。


「何を祈ったの?」

「親の健康とかだよ。ユウナは?」

「今年こそ宝くじで十億円当たりますように」

「いやいやいやいや……」


 ユウナは毎年年末の宝くじを一枚買っている。

 ダメで元々というやつだ。


「あれって前後賞合わせて十億円だからね。一枚だけだと七億円が限界だからね」

「えっ? えっ? どういうこと?」


 十七歳になっても前後賞の仕組みを理解していない姉のため、ハルトは公式ホームページにアクセスして、スマホの画面を突きつけた。


「ほら、これ。一等が七億円でしょ。前後賞がそれぞれ一億五千万円でしょ。足し合わせて十億円になるの」

「それって詐欺さぎじゃん⁉︎ 三億円も違うじゃん⁉︎」

「理解していない方が悪い」


 十億円も七億円も庶民にとっては一緒という気がするのだが、ユウナにとっては無視できない問題らしい。


「でも、宝くじ当たったらどうするの?」

「一億円くらいは募金して、残りは死ぬまでの生活費にする」

「つまり一生働きたくないのね」

「まあね〜」


 家に帰ったら二人でキッチンに立った。


 今夜のメニューは鉄板のカレー。

 しかし、問題が発生。


「しまった! カレーのルー、中辛にしちゃった!」

「俺が選んだわけじゃないからね」

「くそっ! 一生の不覚!」


 ユウナはカレーの甘口しか食べられないのだ。

 にわかに信じられない話だが、この前牛丼屋で食べたカレーが辛すぎて、ひぃ〜ひぃ〜泣きわめいていた。

 帰宅後はお腹が痛すぎて、ミイラみたいな表情で倒れていた。


「カレーのルー、買い直してくる?」

「う〜ん……」


 眉間みけんにシワを刻みまくったユウナは、食べる! と言い切った。


「本当にいいの? 吐いても知らないよ」

「牛乳かヨーグルトを足したら辛さが減るって何かで読んだ。私が食べる分だけ試してみる」

「なるほど。その手があったか」


 まずはお米を洗って炊飯器にセットする。

 一度に二合くらい炊いて、二日に分けて食べることが多い。


 ユウナが野菜の皮をむいて、ハルトが包丁で切っていく。

 玉ネギだけは最初にフライパンへ移して加熱する。


「よっしゃ! 玉ネギをいためるのは任せろ!」

「気合いが入っているね」

「玉ネギをしっかり炒めるとね〜、中の糖分が凝縮されるんだよ〜」

「そういう知識はあるんだ」


 ユウナは単純作業する時に歌うことが多く、この日もアニソンを口ずさんでいた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る