第6話 試験、そして…
「それではこのコインが地面に落ちた時を始めの合図とします。両者、用意はいいですか?」
コクリ
お互い極限まで集中を高めていく。ゴロッサさんほどの人が俺相手にここまで本気になってくれることを嬉しく思う一方、相手の油断、隙をつくことができないことに舌打ちをつきたくなる。
まだコインが落ちるまでのに少しありそうだ。
ゴロッサさんを観察する。棍棒を右手に持っているが、左腕の方が若干筋力量が多い、ように見える。棍棒の右手持ちはフェイクか。左手に持ち替えた時が要注意だな。でも、そっちばかりに意識を行かせないようにしないとな…
対人戦はこれだからワクワクするんだ。相手がどんな虚を突くことをしてくるのか、予想するのが楽しい。
3
2
1
チャリン
落ちた瞬間、俺は駆け出した。ゴロッサさんはその場に突っ立っていて、カウンターを狙っているように見える。
(縮地)
相手との間合いを一気に詰める。これには少々驚いたみたいで、ゴロッサさんは後ろに一跳び、棍棒の間合いギリギリで横殴りの攻撃を仕掛けてきた。
(まだ右手で持ってるか…)
今度はゆっくり歩いて近づいていく。どんどん降ってくる棍棒を木刀でいなしながら、間合いに入ると低く沈み込む。そして、両足をバネのようにして地面を蹴り、両膝に一刀ずつ左右から食らわせた。
これはデザートスネークの攻撃方法を真似た技で、これで立つのが厳しくなるだろうと一瞬気が緩んだ。
その結果上からの棍棒に気づくのが遅れ、両手の木刀で堪えることに。そしてがら空きになった俺の腹に左フックが入り、俺は吹き飛んだ。
「レイさん!!」
辛うじて意識が残っているものの、足に力が入らない。
一方ゴロッサさんも膝をつき、立つのがつらそう。
ここまで確認して、俺の意識は途絶えた。
〜〜〜
「まったく、大したガキだな、こいつは」
「ゴロッサさん!手加減してくださいって言ったでしょ!!もう…」
「おいおい、無茶言うなよ。こいつ、技が決まった時に気が緩む精神的な軟弱さはあるけどな、技のキレはこのギルド内じゃ俺の次にいいぜ。『ポイズン』を倒したって話も嘘じゃないと今なら断言出来る。」
「そんなに強かったんですか!?」
「あと数年もすれば、俺なんか片手で捻り潰せるようになるだろうよ。」
〜〜〜
俺は夢を見ていた
「閻魔様、この罪人、どう処刑致しましょうか?」
「罪状は?」
「天界での謀反です。」
「ほう。ならば私が直々に処刑してやろう。名も知らぬ罪人よ。私と戦え。勝てばその罪を許そう。」
「う、うわあああ、喰らえ!雷鳴斬!!」
「
「くっそぉぉぉ!!」
「この技の真髄を見せよう、雷神斬!」
「ぎゃああああ」
「はぁ…あなたの相手だけはしたくないですね。どんな技を出そうとも、その目で見られてしまえば見切られ、良くてコピー、最悪の場合上位互換の技を返されるのですから。」
夢はここでフェードアウトしていった。
〜〜〜
「はっ!!い、今のは!?」
「気が付かれましたか?」
「あ、はい。」
「こちらお水です。お顔を洗うのにどうぞお使いください。」
「はい。」
受付嬢さんが洗面器を持ってきてくれた。
顔を洗おうとそれをのぞき込むと、黒い目の縁が赤く光った。
「うわっ、なんだこれ!?」
「どうされました?」
「あ、い、いえ。何も。すみません。」
「そうですか。ごゆっくりどうぞ。」
そう言って受付嬢さんはどこかへ消えて行った。
「なんだったんだ、さっきの夢といい今の目といい…俺の身に何が…!?」
〜〜〜
顔を洗い、さっぱりしたあと、受付嬢さんが戻ってきた。
「あの、すみません」
「はい。」
「俺、気絶してしまったようなんですけど、どれくらい気絶していましたか?あと、ここはどこで、試験の結果はどうなったか、差し支えなければ教えてください。」
「分かりました。では、説明のため場所を変えますので、ご案内します。」
「レイさんがさっきまでいたのは我々ギルド職員の仮眠室兼冒険者の救護室です。」
「ってことはここはまだ冒険者ギルド、ということですね。」
「そうです。この下に受付等がございます。」
「なるほど。」
「着きました。こちらになります。」
コンコン
「レイさんを連れてまいりました。」
「うむ。入ってきなさい。」
ちょっと豪華そうな扉を開いて中に入ると、ソファが向かい合わせに配置されており、その奥にデスクがあった。向かって右手のソファにゴロッサさんが座っていた。
奥のデスクには髭をデスクの下まで伸ばしである一方で、頭のてっぺんの毛が生えていない、白髪のドワーフの方がいた。
「ふぉふぉふぉ、そう警戒するでない。わしゃ怪しいものでは無いぞ。」
「こちら、ナナシ街のギルドマスターです。」
「うむ。ギルマスとでも呼ぶが良いわ。」
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