EPISODE3: 心世界
コテージに入って三十分が経った頃。
シャワーを終え、水色のワンピースから保温性の高い緋色のバスローブに着替え終えたエルシーが、ドライヤーを用いて髪を乾かしている。
朗らかな表情のまま行動する姿を数秒間だけマルチーズは眺めた後、すぐに他の場所に目を向けて情報を収集する。
マルチーズがコテージに入ってから調べ続けた結果、以下の二点が判明した。
・コテージ内では電波を使わない電気製品が使用出来る。
・言語としては日本語が用いられている。
手の構造上ペンを取りメモを取れないマルチーズは、正確に記憶を行っていく。
そんなマルチーズに対し、エルシーが声をかける。
「マルチーズさん。折角ですしご飯をお作りしますよ。何がいいですか?」
「う――ん、そうですね……じゃあ、キュウリを切ったものでお願いします」
マルチーズはささみや魚ではなく大好物のキュウリを選択した。
「分かりました! じゃあ、ゆっくり待っていてくださいね――」
エルシーは歯を見せながら笑みを見せた後、様々な服が入ったクローゼットから黄緑色のエプロンを取り出して着用する。そして、先ほどドライヤーをしていた時の様に鼻歌を歌いながらキッチンへと向かっていく。
「すみません、エルシーさん。一つお聞きしてもよろしいですか?」
そんな彼女に対し、マルチーズは一つの疑問を解消するために引き留めた。
エルシーは首をかしげながら「はい、なんでしょうか?」と口にする。
「この建物で暮らすにはお金がかかると思うんですが支払いは大丈夫ですか?」
「あ、はい。大丈夫ですよ。だって、ここの場所はお金がかからないですから。ほら、こちらの紙に書いてありますよ」
マルチーズはエルシーが持ってきてくれた紙を見る。
そこには、コテージの料金は無料であると確かに書いてある。無料なら何かしら対価を支払うはずだが、条件は書いていない。
契約内容を正確に伝えない悪徳業者か、温情か判断することは出来ない。
「エルシーさん、紙を持ってきてくださりありがとうございます。お陰で一つ疑問を解消できました」
「お役に立てたようで良かったです、マルチーズさん。それでは、戻りますね」
エルシーは笑みを浮かべながらキッチンへと戻っていく。マルチーズは、そんな彼女の行動を見守りつつも先ほどまで得た情報を整理していたのだった。
そうして、更に三十分が経った頃。
微笑を浮かべたエルシーがマルチーズの下へとやってくる。彼女の右手には、
遊び心か、只スライスしただけではなくウサギ型や星型等の様に切られている。
「冷たいうちに、召し上がってくださいね」
「ありがとうございます、エルシーさん。ありがたく食べさせていただきますね」
マルチーズは、「いただきます」と言ってから大好物のキュウリの一つ目にあんぐりと口を開けて噛みついた。瞬間口内に広がるのは水気と独特の感覚だ。硬すぎず柔らかすぎない。独特の食感が口内を支配していく。二つ目、三つ目と食欲は止まらない。あっという間に、マルチーズは食べ終えてしまった。
「ご馳走様でした。美味しかったです、エルシーさん。作ってくださりましてありがとうございます」
「わぁ……! そう言っていただけて嬉しいです! また作りますね!」
「ありがとうございます、エルシーさん。それじゃあ私はそろそろ寝ますね」
「分かりました、それではお休みなさい。マルチーズさん」
「お休みなさい、エルシーさん」
マルチーズはエルシーに対しそう言ってから眠りについた。
*
マルチーズは、不思議な空間で目を覚ます。白色の霧に覆われた、謎の場所。そこにローブを着た人が一人、佇んでいる。その人物の顔は全く分からない。
「すみません、ここは何処ですか?」
「ここは、常世と現実の
「言っていることが良くわからないですが……まぁ良いでしょう。とりあえず、私は何故ここにいるのか教えていただけませんか?」
「貴方がこの場所に呼ばれた理由。それは貴方に役目を授ける必要があったからです。私はあの世界に関与できない。故にこの世界に呼び出したのです」
ローブを着た人は、マルチーズに対してこう伝えた。
「
ローブを着た男がそう言い放った直後、視界がテレビのホワイトノイズの様にぼやけていく。やがて、砂嵐のようになった視界は何も見えなくなり、気味の悪い音に聴覚が満たされたマルチーズは意識を落とした。
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