EPISODE2: 静かな村

 歩いてから数十分ほど経った頃だ。遠くの方にランタンの様に温かく照らす光が視界に入る。その光を見たエルシーは頬を赤らめながら足早に駆け始める。


「あっ……ついた! ついたよ!!」


 エルシーが足を止めた直後、彼女は両手を上にあげながら喜びを声に出していた。 

 マルチーズはエルシーの喜びを邪魔しないように配慮しつつ、ゆっくりと彼女の左半身の後ろから覗き見た。木々が無い開けた土地。そこに、木製コテージの様な建物が一定間隔をあけて規則正しく並んでいる。


 各々のコテージの窓から漏れ出す暖かな光に包まれてしまえば、先ほどまでの疲れは無くなるだろう。マルチーズはそんなことを思った後、エルシーの姿を数秒程度見つめる。左右に体を揺らしながら佇んでいるエルシーの瞳は空に浮かぶ星々の様に輝いている。


 年相応に笑うんだな、とマルチーズは感じながら彼女の横から去ろうとした。

 そんな時だ。エルシーは徐にマルチーズの顔を見つめて質問する。


「マルチーズさん。もしよければ、私の家に泊まりませんか? 

 マルチーズさんは私を助けてくれましたし夜遅くの森は危ないです」

「……お気遣いいただきましてありがとうございます。ですが……」


 エルシーからの感謝の意を表す厚意に対し、一瞬だけ心が揺らぎそうになる。

 マルチーズからすればエルシーの厚意は受け取って損が無い。


 だが、幼気なエルシーの目線に立つとマルチーズの存在は邪魔になる。というよりも、親御さんに迷惑がかかるというのが正しいだろうか。

 だが、それを話したところで彼女が理解できるとは思えない。

 

「…………分かりました。その厚意、ありがたく受け取らせていただきましょう」

「やったぁ――! ありがとう、マルチーズさん!」

「別にそこまで喜ばれると先ほどの悩みは何だったのかと……すみまぜん、離してください」

「あっ、ご、ごめんなさい! 嬉しくてつい抱きしめすぎてしまいました……」


 エルシーから痛みを感じるほどの抱擁を受けた後、ジャンプをして両手から逃げ出し着地する。その姿を見たエルシーは目を輝かせながら「凄いです! そんな風に飛べるんですね!」と喜びを見せる。

 どうやら、本当にねこという生物を知らないようだ。


いやな気分にさせてごめんなさい、マルチーズさん。そろそろ家に向かいましょう」

「分かりました。それではともに向かいましょう」


 一人の少女と一匹の猫は、ゆっくりと家へと向かっていく。

 夜遅くに戻った少女を心配する人は、誰一人としていなかった。

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